第207話 交信

 突然、陸斗の持っていた陽葵のスマホに大量のメールや着信履歴が届き、通知音が止まらなくなった。


 「陸斗どの、それは一体。?」


 ガーベラ王子が怪訝そうに尋ねる。


 亜希子と陽葵は慌ててスマホに集まる、そこには友人や家族からの陽葵宛の数千を超える着信履歴やメール、LINE通知であった。

 アンテナ強度は1本だが確かに圏内である。


 「これは?」


 陸斗と亜希子が顔を見合わせる。


 「明石との、、地球との空間が繋がったんだわ、今日は6月17日!惑星直列の日!」


 しかし、その1本はたちまち消え、また圏外となった。


 「ガーベラ王子、実は我々3人は別の惑星の人類なのです、おそらくですが、王子の住むところはわれわれがジュピターと呼ぶ太陽系第五惑星、そしてこの大地はその衛星『エウロパ』と思われます、私たちは第三惑星地球、こちらではテラリウムと呼ばれているようですが、そこの人類なのです。」


 「にわかには信じがたいですが、そういえば思い当たるフシはあります、陽葵さんはテラリウムのお姫様なのですか?」


 「まあ、お姫様と言えなくもないかな、地球の小さな国の財閥令嬢ではありますが、今のもぐら男爵令嬢みたいなものでしょうか、つまり今と変わりませんね。」


 「なんと!まるで連邦国に伝わるおとぎ話の『かぐや姫伝説』(第178話参照)のようですね、まさか陽葵さんも星に帰られるのですか?」


 「そうなりますね、いま、地球との次元空間が開いたようです。」


 ガーベラ王子はまたソファに座り込んだ、平時ならおとぎ話のように迎えを追い返したかもしれないが、いまは世界大戦の真っ只中である。

 陽葵さんとの結婚は絶望的となったことにショックを隠しきれなかった。


 この、「陽葵を帰したくない。」心が後刻どう影響するのか、誰にも想像できなかった。

 


 「薬師陽葵さま、もしよろしければわれわれラウンズ十二神将がそのエネルギー波電波を増幅いたしましょうか?そうすれば薬師さまは、あさひさまとの通話のようにその小石板スマホで会話することができます。」


 宮毘羅はコフェンと違って先読み機能もあるようだ。


 陽葵のラウンズ十二神将が円形に立ち、それぞれ印を結ぶとスマホが「バリ4」状態となる。


 「陽葵ちゃん、スマホまた貸してくれ。」


 そういうと陸斗は父の1等陸佐の諸星弾丸ダンに電話をかける。


 「はい、諸星です。」


 「父さん!俺だ!陸斗だ!」


 「り、陸斗なのか?無事だったのか!エウロパへの次元空間が今開いた、いまからそちらに救助に向かう。」


 「父さん!待ってくれ!こちらは現在世界大戦の真っ最中なんだ、それなりの準備をしないと戦闘に巻き込まれて死者が出る、それもおそらく通路の洞窟は敵の本拠地、魔境の真っ只中なんだ、そこは沼地や川もある。」


 陸斗はじぶんの目と足で調べた情報を伝える。


 「なんだと!スマホは切らずにそのままにしておいてくれ。」

 

 ダンはしばらく幕僚長と相談していた。


 「わかった、こちらも水陸機動団すいりくきどうだんを投入する、AAV7水陸両用戦闘車を10両投入しよう。」


 「信じられないかもしれませんが、100万人規模の獣人とドラゴンまで存在します、それなりの装備を具申します。」


 「わかった、可能な限りの装備品を持ち込む、地対空ロケット砲PAC3もか。」


 「陸斗!通路が閉じるまであと22時間、いや、理論値だからもう少し早いかもしれん、それまでに川嵜陽葵さんと東村くんを連れてその洞窟まで来るんだ。」


 タイムリミットまで22時間、それまでに100万の敵を倒してドラゴンを排除しなければならない。

 どちらにしてもかなり可能性の薄い博打であった。


****

 [ひなちゃん、無事なのかな?ひなちゃんに会いたいよ。ひまり]


 メッセージの中に親友のひまりちゃんからのLINEを見つけた。


 [ひまりちゃん、心配かけてごめんね、なんだか木星の衛星にいるみたい、本物のフェンリルさんと会ったよ、写真送るね。]


 陽葵ひな陽葵ひまりちゃんに魔獣姿のフェンリルの写真を送ってしまった。

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