第199話 陽葵の故意、あさひの恋
フェンリル事件から3日。
そこそこ令嬢陽葵はやっと12月王国補佐官の同郷人、東村亜希子のことを陸斗に話した。
陸斗は即日12月王国に向けて旅立った。
陽葵は隠すつもりはなかったが、陽葵の心の中に陸斗に伝えれば陸斗は旅立ち、もう二度と帰ってこないような、そんな予感に囚われていたからである。
しかし、この出発の3日の遅れが後に取り返しのつかない事態を引き起こすことは陽葵には想像もできなかった。
12カ国フリーパスを持つ陸斗はこの戒厳令下でも11月王国を素通りすることができ、わずか4日で12月王国の王宮に辿り着いたのである。
到着の知らせを聞いた亜希子は自ら陸斗を迎えに出る。
「亜希子さん、ずいぶんご無沙汰してます。」
「陸斗くんも無事だったのね、陽葵さんから聞いてるわ、大変だったのよね。」
「はい、なんとか生きてます。」
東村亜希子は19歳、陸斗より3つ年上の総理大臣秘書だった人物だ。
来年には20歳で外務大臣への抜擢が内定している切れ者でもある。
その頭脳と冷徹な判断力から、総理大臣の娘ながら2世批判など全く起きないほどである。
亜希子は挨拶もそこそこに本題に切り込んできた。
「あなたの調査結果を共有させてちょうだい。」
陸斗はこれまで足で調べたデータを全て亜希子と共有する。
「陸斗くん、よくここまで調べたわね、素晴らしいわ。」
「僕の推測なんですが、異世界転落の時には王国中心部のドラゴンパレスと呼ばれる場所に落ち、ランダムに12カ国に散らばるようです、ですから帰るには逆に中央のドラゴンパレスに行けば戻れるのではないか?と思っています。」
「そうね、その可能性もあるけど、私の推測は少し違うわ、これまで12カ国の伝承やお伽話、伝説のたぐい、そう言ったものをできるだけ集めたの、そうするとドラゴンパレスのもっと手前にある魔洞窟と言われる場所、番人と呼ばれる人物がいるらしいの、番人を強行突破した人が灰塵に帰したという話が引っかかる、これはどこか異世界と繋がるときがあるが、繋がってない時に入ると分子レベルで崩壊するのではないかしら。」
「なるほど、そういうアプローチもあるんですね。」
「そう、そして6月17日に惑星直列が起きることもわかっているの、明石が何か手を打つとしたら惑星直列の日を狙うのではないかしら。」
「あと2週間後ですね、ドラゴンパレスまでは行かなくて済むのは助かりますが、それまでに第13帝国と和平を結ぶか完全に打倒できなければ洞窟を調査するどころか近寄ることもできません。」
「そうなのよ、戦争は現在泥沼化していてとても和平が結べる状況ではないの、フローラル連邦軍も数万人の死者を出しているしこちら側の世論も停戦を認めるとは思えないわ。」
「八方塞がりですね。」
「そうね。」
二人はしばらくの間沈黙を守った。
****
フローラル連邦国の預かり知らぬところだが、第13帝国内部で急変が起こる。
ベルゴロド公爵とブルースカイ侯爵、帝国を支える実力者が二人とも急死したのである、帝国上層部は大変な騒ぎとなっていた。
時は少し遡る。
オーロラ姫が鷹人ブルースカイ侯爵の護衛のもと庭園に散歩に向かう途中、突然ベルゴロド公爵とその手下数十人に取り囲まれたのである。
ブルースカイ侯爵も警戒はしていたのだが、まさか白昼堂々とこの人数で襲ってくるなど想定していなかったのだ。
あと先考えない狼人をすこし買い被っていたようだ。
流石にこの人数相手だと分が悪い、しかもオーロラ姫を守りながら戦うとなると空を飛ぶこともできない。
狼人数人は倒したが、一斉に飛び掛かられたブルースカイ侯爵は程なくして刺し殺されてしまう。
「さあ、オーロラ姫!あなたをモノにしようと企むブルースカイ侯爵は成敗しました、あなたはもう自由ですよ。」
妄想に囚われたベルゴロド公爵は両手を広げてオーロラ姫を迎えようとする。
「ああ、ベルゴロド公爵様、嬉しい!私はもうあなたのものです。」
ベルゴロド公爵は顔が緩むが、、
「などと言うとでも思ってらしたの?愚かな人ね。」
みるみるベルゴロド公爵の顔が怒りに震える。
そして不敵な表情になったかと思うと手下に命じる。
「おい、その勘違い女をひっ捕まえて俺の部屋まで連れてこい、身の程を思い知らせてやるよ。」
手下がジリジリとオーロラ姫に近づく。
オーロラ姫は大きなため息と共に宝石箱を取り出す。
「飛躍くん!お仕事よ、この下品な狼人たちを皆殺しにしなさい、そうね、ブルースカイ侯爵のロングソードをコピーなさいな。」
「コマンド受諾シマシタ、コレヨリ近接戦闘モードヘイコウシマス。ロングソード指定。」
宙に浮いた宝石箱はみるみるロングソードの形に変化し、目にも止まらぬ速さで狼人たちを貫く、ベルゴロド公爵も何が起きているのかわからないままロングソードで刺し貫かれて絶命した。
「誰があなたなどの妻になるものですか、私が愛するのは陽葵さまただおひとりですわ。」
ポツリと独り言を言ったあと騒ぎを聞きつけた親衛隊が走ってくる。
「大変なの!ベルゴロド一味に襲われた私を庇ってブルースカイ侯爵が戦ってくれたのですが、ベルゴロドと相打ちで倒れられましたの!ブルースカイ侯爵をお助けくださいませ!」
オーロラ姫はそう叫ぶとその場に泣き崩れたのである。
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