第197話 高熱の陽葵 (たかねのはな)

 12柱の実物大フィギュアを作り上げ、ドワーフのグエンの元に預けた陽葵はその後高熱を出して寝込んだ。


 もともと過労かろうで体力が落ちていたところに陸斗を救いにいき、溜まったたまった総帥そうすいとしての仕事を捌いてさばいていたのである。

 帯状疱疹たいじょうほうしんのような症状も出たが、この異世界ではまだ治療法が確立していない。

 医術や薬師の勉強も続けていたが、こればかりはどの本にも載っていなかった。


 陸斗を張り飛ばした時の左手の甲の腫れはれもそのまま治っておらず、それどころか右手の甲にまで湿疹しっしんが広がっていた。


 その陸斗はというと、特務課とくむかのエージェントとしてそこそこ優秀な頭脳は持ってはいるが人脈があるわけでもなく、巨大財閥の総帥の代わりなどできるはずもなく、多少陽葵の書類整理の手伝いをするくらいしかできなかった。

 連邦国の中心部の調査も戦争が終わらなければどうしょうもない。


 しばらくは陽葵の看病をすることにした。


 陸斗は、陽葵のおでこの濡れタオルを交換しながらいろいろと考えていた。


 死線から戻ってきた時に確かに陽葵ちゃんは僕に口づけした。

 あれは、やっぱりそうなんだろうな。


 陸斗は陽葵のことは妹のように思っていて一人の女性として意識したことはない。


 でもそこまで想われて嬉しさと戸惑いと複雑な感情が陸斗の中で渦巻いている。


 僕は16歳、陽葵ちゃんは13歳、とりあえず犯罪ではなさそうだが、というか、この異世界にはそういう法もない。


 なんだか的外れな思考回路まとはずれなしこうかいろにクスリと笑う陸斗であった。


 はっきりしていることは今のところ恋愛感情のようなものは陸斗にはないということ。


 将来はわからないが。


****


 陽葵は高熱にうなされながら夢の中でふわふわ浮かんでいた。


 文字や記号や公式、画像や動画、イメージ、いろんなものがくっついたり離れたり浮かんでは消えたり、最近やり慣れない勉強などを熱心にしたからかもしれない。

 陽葵は気がついていないが、これは阿頼耶識あらやしきというフィールドである。


 先にコフェンくんがゼロ・ポイントフィールドのリーダライターだと書いたが、そのゼロ・ポイントフィールド=阿頼耶識という認識で構わないと思う。


 陽葵もコフェンを通してゼロ・ポイントフィールドに触れていたため「引き寄せ」の法則に従い触れることが可能になったと考えられる。


 陽葵はふわふわ浮かびながら、陸斗の大動脈修復だいどうみゃくしゅうふく術式じゅつしきを行った時のことを思い出していた。

 その記憶からどんどんその先を拡張かくちょうしていき、細胞の結合けつごう毛細血管もうさいけっかんのつながり、神経の巡り、リンパの流れなど人体の構造が3Dで頭の中に浮かぶ、ふわふわの中で陽葵は人体の構成の全てを悟ってしまった。


 引き続きその人体に入った薬剤、薬がどのような作用機序さようきじょで効能、副作用を及ぼすのかのシミュレーションが始まる。

 薬剤と人体の関係については「完全には解明されていない」という真実も見えてくる。


 薬の本質というものも見えてくる。


 最後に「生物、生命」とは何か。


 陽葵は寿命のない生命体というものも知ってしまった。 

 また、5年の寿命しかない野鼠人と交流し、自分が長寿族であることも知る。


 ※地球上でも酸素に頼らず生命活動をする生命体には寿命のないものがあると考えられている。


 これらのものがふわふわ陽葵の中に溶け込んでいき、何かに目覚めてしまったような気がしていた。


 気がつくと、美しい女性?いや男性?から何かを受け取る。


 形はコンビニの711のコーンアイスのアイス部分だけみたいなもの。

 なんとも形容し難い形のものを手のひらに渡される。


 その人はにこりと笑って霧散むさんした。


 そうして3日3晩眠り続けた陽葵は目を覚ましたのである。


 陸斗はベッドに突っ伏して眠っていた。


 「まあまあ」


 陽葵は陸斗の頭を撫で、なんとも柔らかい微笑みを浮かべた。


 そうしている間にも第13帝国とフローラル連邦国の戦争は12月王国北門から10キロほどのところにある「ディ・タカンドラ平野」において激しさを増していた。

 双方の死者は万単位になっていた。

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