第193話 戦争の準備、憎しみの連鎖

 陸斗を失いかけた陽葵は、医術、薬師の猛勉強を始めた。

 そこそこ令嬢の陽葵ではあったが、目的を決めれば一直線に進むことができ、その努力の積み重ねは確実に陽葵のスキルを押し上げるモノである。

 まさに「努力は裏切らない」です。


 また、もぐらホールディングスのレアメタル採掘事業部をフル稼働させてアダマンタイト、ミスリル、オリハルコンなどの稀少鉱物を手に入れ、数十億ディナールの大金を払ってくだんの凄腕ドワーフさんに秘密裏に仕事を依頼する。


 この仕事の目的と内容については追々明かされることであろう。


 並行してもぐらホールディングスの総帥としての激務もこなした、まさに狂ったように活動しだしたのである。


 第13帝国の動きもここしばらくはおとなしくなり大規模な衝突は起きていないが、フローラル連邦国の兵士100万人が12月王国の北門あたりに集結され、来るべき全面戦争に備えている。


 各地の鷹人への風当たりも強くなり、罪もない一般鷹人が襲撃される事件も頻発していた。

 これまではなかった8月〜12月王国の鷹人入国制限法案を審議すべきという声も日々高まっていったのである。



 ****


 「はい!陸斗兄さま、欲しがってたフェンリルトレーナーです。」


 「おお!本当に作ってくれたんだ、ありがとう!」


 陽葵からトレーナーを受け取った陸斗はすぐに着込む。


 胸には大きな気の抜けた熊リラックマがねそべっていた。


 「陽葵ちゃん、これは?」


 「ワタシのパジャマとお揃いです。これから罰としてしばらくそれをずっと着てくださいね。」


 実は16歳の陸斗も気の抜けた熊リラックマのファンだった。

 

 喜んだ陸斗は、街のバザールに出かける時もこのトレーナーを愛用し、「熊のにいちゃん」と人気者となる。


 陽葵の思惑はハズレ、全く罰にはならなかった………。


 そんな折、陽葵に結婚式の招待状が届く。


 お店を手伝ってくれていた野鼠人のカーラちゃんと野鼠人族長の息子サフィからのものだった。


 「とうとうカーラちゃん、野鼠人の族長さんの息子さんのサフィくんのところにお嫁に行くのね。」


 陽葵はもちろん出席に⚪︎をして返送した。


 ***


 結婚式当日。


 サフィの父親ゾフィー・ブライトネスは準男爵の身分でフローラル連邦国の人口の1/4を占める野鼠人の族長である。


 息子のサフィはもう1歳と少しかな?

 平均寿命5歳の野鼠人ではもう立派な大人だ。


 「本日はワタシと妻のカーラの結婚式のために集まってくれてありがとう!」

 もう挨拶も一人前にこなす。


 「このよき日に何なんだが、先の第13帝国との戦争で同胞5000人が死んだという、私は彼らの英霊に黙祷を捧げたいと思う、よろしくお願いします、黙祷!」


 出席者は全員起立して黙祷を捧げる。


 そして。


 「黙祷ありがとう!私は鷹人が絶対に許せない!次の戦争には兵士に志願して第13帝国の奴らを皆殺しにしたいと思うがどうかー!」


 「そうだそうだー。」


 周りから歓声が聞こえる。


 故郷明石でもプ連との戦争が迫っていると言われている。


 陽葵は少し悲しい気持ちになった。

 新妻のカーラちゃんもこころなしか少し悲しそうな顔をしていたように見えた。

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