第192話 陽葵の恋、あさひの故意

 ガーベラ王国に帰り着いた陽葵は屋敷の一室にまだ意識を取り戻さない陸斗を寝かせて休ませた。


 話を聞いたガーベラ王子が典医3人を派遣してくれて診察もしてくれた。


 「陸斗さま、大変な目に遭われたのですね、身体中傷だらけで体力も限界のようでした、特に右頬に受けた攻撃はかなりのダメージです、よく生きて帰ったものです。」


 そこそこ令嬢の陽葵は明後日の方向を向いてならない口笛をヒューヒュー吹いている。


 その後、陽葵は陸斗の意識が戻るまで寝ずの看病を続けた。


 陸斗が欲しいと言っていたフェンリル毛のトレーナーとスゥエットも作っていた。


 それは下手な防弾チョッキより遥かに高性能な防弾防刃防穿刺能力を有している。


 3日目の朝、陽葵がおでこの濡れタオルを交換しているとき、やっと陸斗が目を覚ました。


 「やあ、陽葵ちゃん、3・’sの川から引き返してきたよ。」


 「もう!陸斗さんったら。」


 陽葵はまだ赤いアザが残る左手で長い豊かな黒髪を耳の上にかきあげ、自然に陸斗に口づけをした。


 ****


 第13帝国にはもう1人の実力者がいる。


 5月王国で拘禁されている鷹人ホークマン族長ジャック・ブルースカイの弟、今はジュード・ブルースカイ侯爵である。

 彼はベルゴロド公爵と違い、根っからの武人であり、自分なりの方法で、鷹人差別を撤廃するためにこの第13帝国に協力することにしたのだった。


 そのジュード・ブルースカイ侯爵に「あさひ」が近づく。


 ある日、ジュード・ブルースカイ侯爵は内密にモントレー皇帝とオーロラ姫から召された。


 「ブルースカイ侯爵よ、そちの忠義を見込んで頼みがある。」


 「私は皇帝陛下の忠実な臣下でございます、死ねとおっしゃれば喜んでこの命皇帝陛下に捧げましょう。」


 ジュード・ブルースカイ侯爵は嘘偽りのない忠義心を示す。


 「これは内密なのじゃが、ベルゴロド公爵は我が帝位の簒奪をもくろんでおる、我が娘オーロラ姫を力づくで我がものとし、ワシを亡きものにするつもりなのだ。」


 「なるほど、奴の考えそうなことですな、しかし、奴の私兵集団は強大でございます、わが第13帝国のためには奴の力が必要なのも確か、この辺りは皇帝陛下はどのようにお考えであろうか?」


 ジュード・ブルースカイ侯爵は武人らしく現状を冷静に観て状況判断を行った。


 「私は絶対嫌なの!あのベルゴロドのいやらしい舐めるような目、あのようなものの妻になるくらいなら死んだほうがマシなの!」


 オーロラ姫はジュード・ブルースカイ侯爵に縋ってすがってさめざめと泣いた。


 「けいにはベルゴロド公爵の魔手からオーロラ姫を守って欲しいのだ、そして娘の婿には卿こそが相応しいと思っておる、ベルゴロド公爵を除いたあかつきには卿が我が娘と結婚し、帝位を引き継いでもらいたいのじゃ。」


 


 「私は臣下の身、姫君とは釣り合いませんのでその話はお断りもうす、しかしながら姫様のためならこの命にかえてもベルゴロドから姫様をお守り申す所存。」


 まあ、生粋の武人のジュード・ブルースカイ侯爵ならば婚姻の話は断ってくるだろうとは思っていた、それはそれでよい。

 あさひは頭の中で深謀を巡らせていた。


 「私は夫にするならジュード様のような方をと思っています、本当にあなたさまをお慕い申しておりますの。」


 「そうだ、私はここにくる前にお兄様、ジャック・ブルースカイ卿にお会いしたのですよ、お兄様は帝国樹立の急報が来たため、まだ5月王国に拘禁されたままのはずです。」


 「なんと!姫は兄をご存知か!」


 「はい、ジャック様は私がお世話になっていた男爵令嬢様の護衛で一緒に5月王国に滞在していたのです。」


 「そうでしたか、兄は天下一魔導士武闘会で優勝して法改正を願い出ると申していましたが、それも叶わず、それで私は帝国樹立に協力することで鷹人差別を無くそうと考えたのです、兄には申し訳ないことをしましたが、わかってもらえると信じています。」


 「ジュード・ブルースカイ卿!話を最後まで聞いてください、ジャック様は5月王国のソーゴ王子殿下と王になったあかつきには鷹人排斥法の撤廃をすることをお約束されました、ここで父を殺す算段をしているベルゴロド公爵を排除して全ての罪を被せれば、鷹人が反逆したという事実も消すことができ、名誉回復と鷹人排斥法の撤廃も可能なのです。」


 「なんと!そうであるなら我々が協力しない理由はない、喜んでオーロラ姫をお助けいたす。」


 「おお、ブルースカイ侯爵!引き受けてくださるか、ありがたい。」


 「このジュード・ブルースカイ、身命を賭して必ずや事を成しましょう。」


 「頼もしいですわ、本当にあなたのような方のお嫁さんになりたいです。」


 生粋の武人のジュードもあっさりと「あさひ」に陥落したのであった。

 

 

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