第191話 魔王あさひ誕生

 オーロラ姫はその日から飛躍ヒヤクの扱いの練度を上げ、ありとあらゆる情報収集じようほうしゅうしゅう。に励んだ。


 プロンプトエンジニアと全知の飛躍ヒヤク、まさに水を得た魚水魚の交わりとはこのことを言うのだろう、短期間でオーロラこと「あさひ」は必要な情報をどんどん吸収していった。


 オリハルコンの形状変更けいじょうへんこうにも挑戦してみた。

 宝石箱の形をした飛躍ヒヤクであるが、あさひの精神に感応せいしんにかんのうしてその形を変化させる。


 砲弾ほうだんの形、手裏剣しゅりけんの形、長剣ちょうけんなどにも変化させることもできるようになった。


 剣になった飛躍は自由に飛び回り近接攻撃きんせつこうげきを行う。


 やりになった飛躍ヒヤクはアダマンタイトを除くどんな盾も突き破り敵を葬るほうむる


 逆にあさひが敵から攻撃を受ければ自由に高速移動する盾として、アダマンタイトと高速で飛来するオリハルコンの武器以外は完全防御してくれるのだ。


 5000万ディナールで作られた小箱は「あさひ」と魔導核に出会い、100億ディナールクラス超えのアルティメットスーパーウェポン究極先端超兵器に化けてしまったのである。


 そして情報。


 ゼロ・ポイントフィールドリーダライターである飛躍ヒヤクは第13帝国の内部情報のみならず、フローラル連邦国すべての国家機密までペラペラ喋った。


 あさひがその気になればこの世の支配者にもなれるだけの実力を備えたのである。


 この巨大な力を11歳の「あさひ」がどう使うのだろうか。

 あさひが闇堕ちしすれば11月王国のヒヤク王子に復讐をし、その国そのものを滅ぼすこともできる。

 魔王「あさひ」の誕生である。


 ****


 「お父様、ワタシ、ベルゴロド公爵と結婚するわ。」


 突然の娘の申し出に面食らったモントレー皇帝であったが、その深謀遠慮しんぼうえんりょを聞き、空恐ろしさそらおそろしさを感じながら、娘の逞しさたくましさにある種の安心も覚えた。


 もはやベルゴロド公爵ですら、魔王あさひの胸先三寸むなさきさんすんで切り刻まれ、魔物のエサにされてしまうことだろう、


 ****


ある日、ベルゴロド公爵はモントレー皇帝に呼ばれた。


 「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。」



  「実はの、けいに話があるのじゃ、聞いてくれるかの?」


 「わたしは皇帝陛下の忠実な臣下でございます、皇帝陛下が死ねとおっしゃればこの命、すぐにも捨てる覚悟でございます。」


 ベルゴロド公爵はうやうやしく頭を下げて心にもないことをベラベラと長い長い舌で喋った。


 「実はの、娘のオーロラがいたくそちを気に入ってな、礼儀正しく逞しいそちの嫁になりたいと言い出したのじゃ、11歳の我儘わがままな娘で少し変わったところもあるが、ワシの可愛い娘じゃ、けいが迷惑でなければもらってやってくれぬか、そちが娘を妻に迎えてくれるならワシは引退してそちに帝位を譲ろうと思うがどうじゃ?」


 ベルゴロド公爵はあまりにも自分の思惑通りおもわくどおりの申し出に少し警戒けいかいしたが、人の良いだけの腑抜けふぬけ皇帝のモントレーが策を講じるとも思えぬ、それにこれまで極力紳士的に振る舞ってきたのだ、オーロラが俺の筋肉に惚れても当然か、などと我田引水がでんいんすいな思考を巡らせ、当然受けることにした、ただ、一旦は断ったほうがいいかもしれぬ。


 「お申し出は嬉しいのですが、尊い皇女殿下と臣下のワタシでは釣り合いません、皇女殿下にはもっと相応しいふさわしいお方がいらっしゃるでしょう。」


 もちろんそんな人物などいない、フローラル連邦国とは敵対しているのだ、人を刺した娘などに王子様など現れるはずもない。

 他に貰い手などないのだ、いずれまた申し入れてくることは間違いあるまい、いや、オーロラもそのことがわかっていて俺に縋ったのかもしれぬな。

 深々と頭を下げたベルゴロド公爵はまた舌なめずりをした。


 「そうか、しかし、オーロラは言い出したら聞かぬでな、今日は下がって良い、この話はまた改めてするとしよう。」


 「ははー、それでは失礼いたします。」


 「ククク、これはオレにも運が向いてきたか、そうだな、素直に皇帝の座を譲るならモントレー如き生かしておいてやっても良い、どこかの辺境に館でも建てて死ぬまでのんびり暮らすといいさ。」


 ベルゴロド公爵は自分好みの妄想をしながら謁見の間から退出した。


 そこにオーロラ姫が走ってくる。


 「ベルゴロド公爵様〜!」


 「あの、あの、ワタシ、料理長に教えてもらってクッキー作りましたの、ベルゴロド公爵様に食べていただけると嬉しいです。」


 「おや、それは嬉しいな、後でティータイムにいただくとしよう、ありがとう。」


 オーロラはお菓子の包みを渡すと本当に嬉しそうな顔をして元気に去っていった。


 「まさか毒など入ってないよな。」


 「あー族長!姫からお菓子のプレゼントですかい?羨ましいっす。」

 直属の手下、ガルバリーニだった。


 「そうか、それではおまえにも少し分けてやろう。」


 そう言ってベルゴロドはクッキーを3つほどガルバリーニに渡す。


 「本当ですかい?やった!」


 下品な狼人ガルバリーニはクッキーをこぼしながらバリバリ貪り、「うまい!うまいっす、族長が羨ましいっす。」


 と一瞬で平らげてしまった。


 「大丈夫そうだな。」


 ベルゴロド公爵はオーロラからもらったクッキーを一つ食べた。


 「甘いな」


 それまでオーロラ姫のことは顔と身体に対する下劣な欲望だけで見ていたのだが、少し恋心のようなものも芽生えた心持ちのベルゴロド公爵であった。

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