第189話 暴虐の陽葵、そして三途の川

 陸斗は思わぬ伏兵ふくへいにより死線しせん彷徨ってさまよっていた。


 まあ、自業自得じごうじとくなので同情の余地どうじょうのよちは全くないが。


 陸斗は向こう岸が見えないほどの大きな広い川の前に立っていた。


 「これが三途の川さんずのかわというやつか。」


 陸斗は本能的ほんのうてきにそう感じていた。


 ケモ耳の狼人のような人が通りかかったので聞いてみる。


 「これは三途の川なのかい?」


 「サンズ?知らねえなあ、これはヘブンズドラゴン川だよ、悪人は川に叩き落とされて悪竜あくりゅうに食われるのさ、善人はこの上流に白い神獣様しんじゅうさまがいて背中に乗せて川を渡ってくださるそうだが、ここ数百年は神獣さまの姿を見ねえから善人も悪竜のエサだな、あとは徳の高い賢者様が来ると川が枯れてオリハルコンの船が現れるそうだ、そいつはまだ一度も現れたことのない伝説ってやつさ。」


 「あなたは?」


 「俺か?俺は松浦ってんだ、なぜか知らねえがそういうことになってるんだ。」


 そういうとケモ耳狼人はスタスタと歩き去ってしまった、陸斗が全力で走って追いかけるが、歩いているはずの「松浦」に追いつくことはできずに見失ってしまった。


 「寒い」


 陸斗は川を渡るのを諦め、引き返すことにした。


 ****


 「個体名、諸星陸斗、体温低下を確認、生命反応低下、このままでは危険レベルに達します。」


 あまりの恥ずかしさから陸斗に深刻なダメージを与えてしまった陽葵であったが、陸斗はそもそも体力も限界に達していたので陽葵の一撃がとどめをさした形となっていた。


 「陸斗兄さま!陸斗兄さま!」


 我に帰った陽葵は陸斗に駆け寄るが、客車の隅で陸斗は完全に意識を失っていた。

 

 こんなときに頼りになる「あさひ」がいない、そこそこ令嬢の陽葵はアワアワするばかりでコフェンに何を聞いたらいいのかすら吹っ飛んで頭が真っ白になっていた。


 「あさひちゃん!あさひちゃん!どうすればいいの」


 フェンリルは全力で飛行してはいるが、どうやっても到着まで2〜3時間はかかる。


 あさひちゃん、、


 客室の隅にあさひちゃん自作の羽毛布団が置いてある、急な移動などの時に仮眠用にと昔使っていたものを持ち込んでいたものだ、陽葵の館に引っ越してからは使わなくなったものを積んでおいたようだ。

 (第168話参照)


 陽葵は陸斗の服を全て脱がし裸にする、そして自分もパジャマも下着も脱ぎ捨てて陸斗と共に羽毛布団に包まる。

 陸斗の身体はだいぶ冷えてきていた。

 「陸斗さん!陸斗さん!」


 陽葵は陸斗の身体にしっかり抱きつき、声をかけながら手で身体を擦って温めた。

 どこかの小説でそんな場面を読んだことがある、陽葵はそれを信じてみようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る