第188話 フライングオートマタ飛躍(ヒヤク)

 自室に駆け込んだオーロラ姫は魔導核まどうかく波動エネルギーチャージャー魔力充填器に乗せ、宝石箱パズルを解き始める。


 9歳のときには興味がなかったオーロラ姫であるが、いまはこのパズルに多くの命がかかっている。


 からくりオタクのヒヤク王子がオーダーしただけあり箱を一回り見回したが、どこにも繋ぎ目が見当たらない。

 

 「これ、解きようがないじゃない?」


 1時間ほどあちこちを押したり振ったりしてみたが変化はない、ハンマーで叩いても壊れない開かないオリハルコンだと言ってたから力技でも無理だろう。


 さすがのオーロラ姫も頭を抱えた。


 この手のパズルは中にある玉や部品をある決まった方向に順番に移動させて鍵を開けるのが定石だが、そもそも振っても何も音がしない。


 別の鍵を近づけて内部を操作するパターンもあるが、ヒヤク王子はそんなものくれなかった、からくりオタクのヒヤク王子が忘れるはずもない。


 やはり何か方法があるはずだ。


 オーロラはお風呂に入ることにした。


 11月王国の館では大きな温泉があったが、辺境のこの場所では大きな温泉など望めない。

 侍女がお湯を沸かしてくれ、一人がやっと入れるサイズの風呂桶に湯を張ってくれた。


 アリスおばさんのところの風呂桶と同じメーカーの同じデザインのもの。


 「アリスおばさん、元気にしていらっしゃるかしら、お別れのご挨拶もできなかったなあ。」


 少し懐かしく思いながらドレスと下着を脱ぎ、風呂桶に浸かった。


 お湯がたっぷりだったためか、首まで浸かるとお湯が溢れるのを見て何かが弾けた。


 その瞬間、オーロラ姫の頭の中でさまざまな事象や方程式が一本につながりモヤモヤしていたものがパーっと晴れた。


 「ヘウレカ!ヘウレカ!わかったわ!わかつたわ!

 ※アルキメデスがこう言ったらしい。


 と叫んで裸のまま廊下に飛び出し侍女が慌ててタオルと布を持って追いかける騒ぎとなったのである。


 侍女に取り押さえられてとりあえずドレスを着せられたオーロラ姫はまた自室に籠った。


 「金属は固体」だという固定概念を壊さなきゃ、ガラスだって固体ではなく液体なのだから。」

 ※何百年も経過した建物のガラスは下方に少しずつ垂れる現象が本当に起きます、ガラスは液体です。


 オリハルコンについての文献はほぼ頭の中に入っている。

 「開けるための繋ぎ目が見当たらないということは固体ではありえない、となると液体の性質を持つ液体金属、オリハルコンは精神に感応する(文献より)と言うことはもしかしたら金属生命体なのではないかしら。」


 ※この世界では存在しないが、ファンタジー好きの読者の方ならメタルスライムなどを想像するかもしれない。


 波動エネルギーチャージャー魔力充填器が満充填であることを示している。



 オーロラ姫は満充填の魔導石を宝石箱パズルの上に乗せ、中に沈めるイメージをする。

 すると、赤い魔導石はゆっくりと宝石箱に沈んでいき、完全に中に収納されたのである。

 「私は『あさひ』、あなたの名前は『飛躍ヒヤク』にするわ。」


 「あさひ!僕は飛躍ヒヤク、よろしくね。」


 「こちらこそよろしくね飛躍くん、いろいろと助けてね。」

 

 こうしてアルティメットウェポン、オートマタ飛躍がオーロラ姫こと、あさひの守護者となったのである。

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