第186話 美人計 

 「オーロラよ!なるべく早く帝国を離れるのじゃ。」


 二人きりになった貴賓室きひんしつでモントレー皇帝は意外な言葉をオーロラ姫に発した。


 「どういうことなんですの?お父様。」


 オーロラ姫は父の思いもよらない言葉に戸惑ってとまどっていた。



 「元貴族ということで皇帝に祭り上げられているのじゃが、ワシはほとんどお飾りじゃ、直属の忠臣ちょくぞくのちゅうしんは200人に満たず、帝国軍20万人のほとんどが狼人と鷹人で占めておる。

 鷹人はまだ様子見をしておるようじゃが、ベルゴロド公爵はワシを排除はいじょして自分が皇帝の座につくつもりなんじゃ。

 ベルゴロドの兵がなけれぼ第13帝国を維持いじすることすらできぬ、奴には逆らえんのじゃよ。」


 頭の回転の速いオーロラ姫はこれで第13帝国の現状をだいたい把握はあくしてしまった。


 「それに、ベルゴロド公爵は今度はお前のことを狙っておるようじゃ、お前を妻にすればもはや周囲の目も気にせず皇帝を名乗れるじゃろう、だがワシは大事なお前をやつになどくれてやる気はない。」


 モントレー皇帝はオーロラ姫の手をしっかりと握った。


 「お父様!状況はわかりました、ところでこれは大事なことなんですが、11月王国の新製品、魔導石まどうせきのルースはこちらには持ち込まれていませんか?」


 「ああ、逃げる時にいくつか荷物に入っていたと思うが、あんなオモチャをどうするのだ?」


 「お父様、あれは実はおもちゃなどではありません、11月王国の究極武器アルティメットウエポンなのです。」


 「なんと!本当なのか?」


 「はい、ワタシはそれが今必要なのですがどちらにあるのですか?」


 「それらは宝物庫がわりの奥の部屋に置いてある、ただ、見た目はただの宝石のようであるから、そういった宝物は全てベルゴロド公爵が管理しておって鍵も奴が持っているのじゃ、ワシでも自由に開けられないのじゃよ。」


 「ベルゴロド公爵なら開けられるのですね。」


 オーロラ姫は意を決して胸の大きめに開いた豪華なドレスに着替え、侍女たちにメイクをしてもらう。

 

 そして、ベルゴロド公爵の元へと向かう。



 「ベルゴロド公爵、ご機嫌よう。」


 「おや、これはオーロラ姫さま、皇帝陛下とのお話はもう宜しいのですか?」


 狼人ベルゴロド公爵はオーロラ姫の胸の大きく開いたドレスの胸元むなもとを舐めるように見つめている。


 「実はベルゴロド公爵にお願いがありまして、昔おばあさまから形見にいただいた私の宝物がいくつかあるのです。宝物部屋にあるようなのですが、ベルゴロド公爵が管理なさっているとかで、開けていただけるようお願いに参りました。」


 オーロラ姫は上目使いうわめづかいに祈るようなポーズをしてお願いをする。


 「そ、そうですか。もちろん開けますので探してお持ちください、なんならお手伝いしますよ。」


 「ベルゴロド公爵!ありがとうございます!嬉しい!」


 見るからに緩んだ顔をしたベルゴロド公爵はオーロラに言われるままに宝物部屋に案内する。


 まあ、いずれオーロラは俺のものになるんだ、宝石のいくつかは惜しいが預けておいてやるさ。


 警備の狼人をおしのけ部屋の鍵を開け、オーロラを招き入れる。


 

 オーロラの目的物は二つあった。


 一つはフライングオートマタの魔道核まどうかくそしてそれを無効化するオートマタ妨害装置アーキファクトである。


 見た目は普通の宝石のルースであり狼人には判別できないだろう、そしてアーキファクトはおもちゃのような外観である。

 11歳の少女が持っていてもおかしくはない。

 

 慌てて逃亡したのか、整理もされておらず探すのに手間取ったがなんとか両方とも見つけることができた。


 「ベルゴロド公爵!ありましたわ、ありがとうございます。」


 「それはよかった、どれどれ。」


 オーロラの横に立ち一応高価なものかどうか確認する、見たところ赤い色もくすんでいてあまり高価なものには見えない、他のものも子供のおもちゃのようだ、このくらいならくれてやっても惜しくはないな。


 ベルゴロドはオーロラの腰に手を回し、尻方向に手をずらしていった。


 オーロラは身を翻してひるがえしてベルゴロドに抱きついてほおにキスをした。

 この辺りは陽葵譲りである。


 「ベルゴロド公爵!ありがとうございます!またお食事ご一緒してくださいね。」


 そういうと、ドレスの裾を持ち上げて駆け去った。


 「オーロラもその気なのか?自分の立場をよく分かってるではないか、まあ慌てることもあるまい。」


 ベルゴロドは改めて舌なめずりをし、野生剥き出しの妄想もうそうをしながら美しいオーロラ姫を見送った。

 

 オーロラ姫は2つの目的物の他に、懐かしい、そして忌々しい、しかし今一番必要なものを幸運にも発見していた。


 その昔、からくりオタクのヒヤク王子から婚約者になって初めての誕プレにもらった宝石箱。


 何の飾り気もない、可愛らしさのかけらもない宝石箱、しかしそれはオリハルコン製で難解パズルになっていて馬車で踏んでもハンマーで叩いても傷ひとつつけられない開けられないというマニアックなものだった。


 当時で5000万ディナールというとてつもない金額を払ってドワーフの親方に特注したものだという。

 

 当然9歳の少女にその価値など理解できず興味もそそらない、そのまま忘れ去られていたものである。

 それが初めてオーロラ姫を救うことになるとは運命とはわからないものである。

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