第185話 ダガーナイフ

 10月王国《ガーベラ王国》に向かう自家用機フェンリルの中で陸斗と陽葵は爆睡していた。

 無理もない、陸斗も陽葵も極限状態だったのだから。

 コフェンだけがふわふわその周りを飛んでいた。


 しばらくして陸斗が先に目を覚ます。


 一応修復されたとはいえ、まだ左足に痺れ感が残っていて多少ジンジンしていた。


 陽葵は例の気の抜けた熊リラックマのパジャマとナイトキャップを被って、陸斗に寄りかかって大口を開けて寝ている。


 改めて陸斗は黒い手袋をした左手で左脚をさすってみる。


 ちゃんと感覚もあるし痛みはもうない。


 「陽葵ちゃん、やっぱすごい人?」

 ※かなりすごい人です。


 「コフェン君、だっけ、俺の足ってもう大丈夫なのか?」


 「最適解、陸斗さまの左足の大動脈、筋膜、微細神経系、切れた筋繊維、皮下脂肪層、リンパ節、下部皮膚組織、上部皮膚組織まで99.98%修復できております、経過も順調です、敗血症、血栓、感染症の恐れもありません。」


 「そんなことができるのか?魔法みたいだな。」


 「最適解、これは魔法ではありません、ご主人様の緻密な針運びにより、アカシックニードル特性を活かした溶接作業によるものです。」


 「特性とは?」


 「最適解、アカシックニードルは元々ドラゴンの硬い鱗を破壊するためのアルティメットウエポン究極最先端破壊兵器の一部です、その先端は微細な振動により分子結合を緩めて破壊する能力があります、ただ、出力を調整すれば分子結合をわずかに緩め、接合し、絡めたのちに針を抜くことで溶接と同じ効果が生じます、ご主人様はその技術の唯一の習得者なのです。」



 陸斗は聞けば聞くほど空恐ろしく感じ、信じられない思いは拭えなかった。


 しかし実際にあの致命傷からフル・ポーション完全回復薬でも振りかけたように治ってしまったのだ、信じるしかあるまい。


 「やっぱ陽葵ちゃん、だよ。」


 ※です。

 

 でも大口開けてぐーすか寝ている姿は普通の13歳の少女である。

 可愛いな、と陸斗は思っていた。


 好きとか、そういう感情ではないと思う、でも一緒にいてなんだか安心できる、そんな感じだった。


 気の抜けた熊リラックマのナイトキャップの上から何度も頭を撫でる、とても穏やかな気持ちになった。


 「痛っ!」


 左手の手袋を外すと左手の甲の赤い痣が痛む。

 「これ、なんとかならないものかなあ。」


 もうかなりの期間痛みが続いているのだが。

 陸斗は改めて黒い手袋をはめて左手の甲をさする。


 「コフェン君」


 陸斗がコフェンを呼ぶとふわふわ寄ってくる。

 小声でコフェンに何か話しかけて、コフェンも小声で何か返答したようだ。


 黒い手袋でコフェンの頭を撫で撫でして「ありがとう、少しおやすみ。」というとコフェンはふわふわシートに着地してスリープモードに入る。


 「陽葵ちゃん怒るかな?ごめんね。」


 陸斗は小声で呟いたつぶやいたあと、黒手袋をした左手でダガーナイフを取り出し、寝ている陽葵の胸に突き立て気の抜けた熊リラックマを一気に袈裟斬りけさぎりにした。

 

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