第183話 思わぬ帰還

 「抵抗するんじゃない!大人しくしろ!」


 気がついた時には地上は狼人の群れが、空には鷹人ホークマン空戦部隊くうせんぶたいが無数に飛び回っていた。


 「フン!この程度の連中、我が蹴散らしてけちはしてくれるわ。」

 

 フェンリルが前足を踏み込むと地鳴りがして狼人ウルフマンたちは恐れ慄くおそれおののく


 「いけません!フェンリルさん!」


 声を上げたのは意外にも秘書の「あさひ」だった。


 「陽葵さま、陸斗さま、フェンリルさんならこの程度の軍勢ぐんぜいなら簡単に全滅ぜんめつさせることもできるでしょうが、フェンリルさんはもぐらホールディングスの象徴しょうちょうのようになっています、ここで派手に戦闘せんとうをしてしまっては後日もぐらホールディングス各店がテロの標的にされかねません、少し考えがあります、ここはワタシに任せていただけませんか?」


 あさひは二人に策を耳打ちをする。


 陽葵と陸斗はお互い顔を見合わせてから頷いたうなずいた

 コフェンにも成否を計ったが90%の確率で成功するとのことだったので二人とも了承した。


 あさひと陸斗は客車の高い位置に立ち、周りを見渡してから取り囲む兵士たちに向かって陸斗が一喝いっかつする。


 ※陸斗は演劇経験えんげきけいけん皆無かいむで「木の役」しかしたことがなかったことはあえて言わなかった、なお、コフェンには拡声器かくせいきの機能もついていたのでそちらを利用する。

 


 「ええい!控えい!ひかえい!控えおろう!」


 「こちらにおわすお方をどなたと心得る!畏れ多くおそれおおく偉大いだいなる第13帝国モントレー皇帝陛下こうていへいか第一皇女殿下だいいちこうじょでんかオーロラ姫様であらせられるぞ!頭が高いずがたかい!控えおろう〜!」


 客車に隠れている陽葵は「それって、どこのナントカ越前やねん。」とつい小声でツッコんでしまった。

 ※水戸黄門です。


 そこに居合わせた将官の中にはオーロラ姫をよく知っている忠臣ちゅうしんも何人もいる。


 「おお〜オーロラ姫さま!生きておいでであったか!」


 周りの兵士たちは残らず平伏へいふくした。


 「陽葵さま、陸斗さま、これで一旦お別れです、今度こそお暇を頂戴おいとまをちょうだいします。」


 「あさひちゃん、いえ、オーロラちゃん、一緒に帰らないの?」


 「はい、いずれは父のところに戻りたいと考えていました、思わぬ形でしたがそれが実現したのです、あさひの我儘わがままを許してください。」


 「それと、これは永遠の別れではありません、父を説得して必ず故郷に帰ります、その時にはお力添えよろしくお願いします。」


 「もちろんよ、あさひちゃん、あさひちゃん。」


 陽葵は泣きべそになる。


 「それと、父の元にはおそらくコフェンちゃんに埋め込んだものと同じ魔導石まどうせきがいくつか持ち込まれているはずです、コフェンちゃんを通じて連絡を取れる手段を講じます、ワタシからの連絡を待ってください、大好きな陽葵さま。」

 あさひは陽葵を抱きしめる。


 そしてオーロラ姫は顔見知りの将官に向かって呼びかける。


 「この者たちは、わたくしを父のもとに危険を冒して連れてきてくれた恩人である、手出し無用!帰還の邪魔きかんのじょまをしてはならぬ、さあ、わたくしを父のもとへ。」


 オーロラ姫はその将官の馬の後ろに乗ると帝国首都に向かって軍勢とともに樹海に消えていった。

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