第178話 異世界のおとぎ話「かぐや姫」伝説

 「ひ、陽葵ひなさん??どうなさったんですか?」

 涙を浮かべる陽葵を見て慌ててソーゴ王子が陽葵を抱きしめる。


 「す、すみませんソーゴ王子殿下、少し故郷こきょうを思い出して感傷かんしょう浸ったひたっただけなんです。」


 「そうですか、そういえば陽葵さんの故郷とはどちらなのですか?」


 「明石というところなんです、海のそばの、八本足のタコが有名なんですよ。」


 「アカシ?、ですか、存じ上げない地名ですね、どのあたりなのですか?」


 そこそこ財閥令嬢の陽葵は《しまった》と思ったが、多分理解もしてもらえないと思ってそれ以上説明するのはやめた。


 「最適解、ご主人様の故郷は太陽系第三惑星テラリウム東経135度、北緯34度39分の位置にあります、我々の住む第二衛星、大ヨーロッパが回る目玉惑星キンモクセイは第五惑星でありご主人様の故郷テラリウムとは兄弟惑星きょうだいわくせいに当たります。」

 


 陽葵の心中を置き去りにしてコフェンが勝手にソーゴ王子に正確に回答してしまった。


 「そうなんですね、それは夢のある話だね、青い星テラリウム赤い星シャアには知的生命体ちてきせいめいたいがいる確率が高いと星の専門家が言ってた、陽葵様はテラリウムのお姫様なんだね、まるで3月王国チューリップ王国に伝わる"かぐや姫"の伝説みたいだよ。」


 「かぐや姫??」

 この世界は御座候ござそうろうの存在といい、世界観が地球に引っ張られているように見える。


 ソーゴ王子殿下が思い出しながら話し始める。


 「およそ500年ほど前の話、子供のいない夫婦が唯一神オーディン様に子供が欲しいと願った、そうしたら生命の宿る宝石「オパール」と「チューリップの種」を下賜かしされた、夫婦はオーディンの指示通りにチューリップを大切に育てたら花が咲き、中から玉のようなお姫様が生まれた、夫婦はお姫様に"かぐや姫"という名前をつけ、大切に育てた。

 かぐや姫は13歳となりとても美しい娘に育った。

 かぐや姫の噂を聞いた7人の王子がかぐや姫に求婚をしたが良い返事はもらえない。

 7人の度重なる求婚に困り果てたかぐや姫は、7人の王子に難題なんだいをふっかける。


 1月王国のストーンメイド王子様、唯一神オーディン様が使っている神器のワイングラスを手に入れてください。

 

 2月王国のオートホルダー王子様、目玉惑星キンモクセイに咲くというアダマンタイトでできた木の枝を手に入れてください。

 

 3月王国のライトマスター王子様、燃え盛る火の中に投げ込んでも燃えない美しいドレスを持ってきてください。


 4月王国のラージアテンダント王子様、魔境の中心部、7の命を持つというドラゴンパレスのあるじの、7つの命が込められていて、これを7個集めたものは願いがなんでも一つ叶うという竜珠ドラゴンボール、7つ全てすへて集めてください。


 5月王国のファイブスター王子様、このホークレスたかなし地方に一人の鷹人ホークマンの魔導士を招いてください。


 6月王国のシールズ王子様、ヘブンスドラゴン川が枯れた時に現れるというオリハルコンの船を手に入れてください。


 そして7月王国のライドストーン王子様、燕人スワローマンの仲の良い夫婦が1000年に一度その卵と同時に産み落とすという奇跡の貝を手に入れてください。


 どれもどう考えても実現不可能じつげんふかのうな文字通りの無理難題むりなんだいだった。

 それでも各王子は諦めきれず、金銀細工職人きんぎんざいくしょくにんに大金を積んで偽物にせものを作らせたり、詐欺師さぎしに偽物を掴まさつかまされたりするなど散々な目さんざんなめに遭っていた。


 唯一、5月王国のファイブスター王子のみ国法こくほうで入国を固く禁止されていた鷹人ホークマンをこっそりと招き入れることができたのだが、かぐや姫に引き合わせる前に違法行為いほうこうい発覚はっかくし、その鷹人は野鼠人の末裔まつえい惨殺ざんさつされてしまった。


 そうしているうちに、かぐや姫の両親はかぐや姫が浮かない顔をしていることに気がつく。

 「かぐや姫や、どうしたんだい、顔色がすぐれないよ。」


 「お父様、お母様、もうすぐお別れしなくてはなりません、ワタシの故郷こきょう惑星ほしからもうすぐ迎えが来るのです。」


 そう言ってかぐや姫は持っていた石板タブレットを父親に見せる、そこには『たいよう目玉惑星キンモクセイその他の惑星全てが直列に並ぶ日、かぐや姫を迎えに行く」と記されていた。


 星の専門家によるとその大直列だいちょくれつと呼ばれる天体現象てんたいげんしょうはあと2週間後に来るという、驚いたかぐや姫の両親はその時の連邦国王れんぽうこくおう5月王国のスズラン国王に相談をした。


 スズラン国王は連邦12カ国に号令をかけ100万人を超える軍勢ぐんぜいを5月王国に集めて惑星ほしからの迎えを撃退げきたいしようとする、しかし、ホークレス小鳥遊地方に入国を許されなかったことを恨みうらみに思う鷹人の手引きにより惑星ほしからの迎えは地上に降り立ち、かぐや姫は両親の手を振り解いて惑星ほしに帰っていった。」


 「とまあ、こんなおとぎ話です、現実にはそんなこと起こらないでしょうけどね。」


 ソーゴ王子は笑いながら話してくれた。


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