第177話 総理大臣の娘

 陽葵の腕を掴んでつかんで部屋に引き込んだのは左手に黒い手袋をし、12月王国の軍服を着た女性士官だった、歳は陽葵より少し上、陸斗兄さまと同じくらいか。


 「陽葵さま!もしやあなた様は川嵜財閥かわさきざいばつ総帥、川嵜四郎かわさきしろう様のお孫さんの川嵜陽葵かわさきひな様ではありませんか?」


 陽葵は驚愕きょうがくのあまり声が出せずにいた。


 「手荒なマネをしまして申し訳ございません、王国創立祭でお見かけしてもしやと思ったのですが、後夜祭の騒ぎもありお声がけすることができませんでした。」


 「申し遅れました、ワタクシは東村亜希子と言います、東村総理の娘で父の秘書をしております、あの日、ワタシもこの世界に転落したのです。」


 陸斗に次いで3人目の故郷からの転落者だった。


 話していくと、亜希子は隣の12月王国に転落したようだ、陸斗と同じ16歳の亜希子は政治家秘書の手腕を活かしてセン王子殿下の御付きの武官となったらしい。


 陽葵も知っていることを全部話した。


 「そうですか、陸斗さんがこちらに来ているのですね、陸斗さんは父のところにも時々来ていましたから存じ上げています、内閣情報局のエージェントをなさっているのですね、それは心強いです、もし次に連絡が取れることがあれば12月王国に立ち寄られるようお伝えください。」


 「わかりました、私も故郷の方が増えて心強いです、いまは陸斗さんが動きやすいように人脈を増やして環境を整えたり、金銭的援助ができるよう頑張っているところです、私にできることがあれば遠慮なくおっしゃってください。」

 

 二人は固く抱き合ってから一緒に会場に戻った。


 そういえば陸斗兄さまとはしばらくお会いしてないな、今頃どの辺りを旅して調査なさってるのかしら。

 

 総帥として忙しい日々を送る中、陸斗兄さまのことをしばし忘れていたことを申し訳なく思い少し悲しかった。


 「陸斗兄さまと会いたいなあ。」


 ポツリと独り言を言った陽菜は急に寂しさが津波のように襲ってきて久しぶりにポロリと涙を落とした。

 

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