第175話 プロンプトエンジニア オーロラ嬢

 11歳のオーロラ嬢の語彙力ごいりょく凄まじいすさまじいものであった。

 何でも答えてくれるコフェンだが、質問が的確てきかくでなければ正確かつ有用ゆうような回答は得られない。

 オーロラはその知識見識ちしきけんしきと高い知能で、適切な解決策を導くための質問群しつもんぐんを一瞬で弾き出すはじきだす

 本来ならオーロラがコフェンを装備したほうが効率はいいのだろうが、最初に名前をつけた者がマスター登録されて変更できないシステムなのでこれは仕方ない。

 11月王国も騒ぎの後はこの製品を秘匿ひとくしてしまってもう市場には出てこないのでこのコフェンはこの世界の唯一のフライングオートマタということになる。


 「それにしてもコフェンは賢いのね、オーロラちゃんが聞けば連邦国の魔境の中心部に行く方法とかも簡単に教えてくれるかもね。」

 陽葵は脳天気のうてんきにそんなことを考えていた。


 ※そこそこ財閥令嬢の陽葵はすっかり忘れていますが、その回答はすでにされています。

 ベテラン読者の方はぜひ読み返して探してみてください。


 ****

 ここでコフェンの驚くべき性能の一端を紹介する。

 まず最大の特徴は、コフェンはこの宇宙全ての情報をホログラム記録するゼロ・ポイントフィールドのプレイヤー、またはリーダライターであるということ。

 つまりプロンプトエンジニアの能力次第では「人類未知、未解明」の事象じしょうまで読み出すことも可能なのだ。

 また、ゼロ・ポイントフィールドには蟻や細菌が右に曲がった、と言った微細びさいなエネルギーの振る舞いふるまいも漏れなく記録されている。

 その性質上、未来は回答できないが、その時の事象を多く集めれば近未来の予想もかなりの精度ですることは可能。

 お天気レーダーでこれまでの雲の動きがわかれば遠くない未来なら、いつ雨が止むのかわかるのと同じである。


 例えば、目撃者がいない犯罪でも誰がどのように動いたか、その全てが記録されているため特殊犯罪捜査にも使えることになる。

 コフェンの活躍はこの異世界のプロンプトエンジニア、オーロラ嬢にかかっている。


****

 

 「コフェン、もうすぐつくのかな?」

 陽葵がコフェンに尋ねる。


 「最適解、あと10分少々で着陸態勢ちゃくりくたいせいに入ります。」


 オーロラが追加でコフェンに聞く。


 「コフェンちゃん、着陸時とその前後、障害になる事象はありませんか?例えば刺客しかくたぐいとか。」


 「最適解、着陸には支障ししょうはありませんが、鷹人排斥派ホークマンはきせきはグループ10名程度が着陸予定地点で武器を携帯して待ち構えております。」


 聞き方一つでこれだけの情報量の違いが生じるのだ。

 プロンプトエンジニアの重要性はここにある。

 「コフェンちゃん、仮に護衛の鷹人さんがその人たちを蹴散らしたらけちらしたらどうなるかな。」


 「最適解、そのグループの目的は鷹人の評価を下げることにあります、鷹人将軍閣下ジェネラルホークマンが攻撃を加えればこれ幸いと"鷹人が暴れた"との風説を流布ふうせつをるふする手筈てはずとなっています。」


 「陽葵さま、着陸地点の変更を具申ぐしんしますわ、コフェンちゃん、着陸地点の候補を教えて。」


 「最適解、ここより北東2.5キロに、もぐらホールディングスのスズラン王国現地事務所があります、その屋上への着陸を推奨します、その際、ご主人様によるスズラン王子への顛末説明てんまつせつめいを要します。」


 「陽葵さま、その案でよろしいでしょうか?」オーロラが確認する。


 「よきにはからえ。」


  出番がなく、まったくいいとこなしの男爵令嬢兼巨大財閥もぐらホールディングス総帥の陽葵は、どこかの時代劇でみた殿様のセリフを言ってみた。

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