第172話 左手の赤い痣
ある日、陽葵のところにオーロラが尋ねてきた。
「陽葵さん、この前お借りしたメガネなんですけど、これってもぐらホールディングスで製品化したらどうでしょうか?」
「おもしろいけど、ワタシはメガネの作り方とかわからないわ。」
そこそこ令嬢の陽葵では思いもよらなかったアイデアであった。
オーロラが続ける。
「私、メガネをよく調べてみたんです、これって光の屈折率の違いを利用して目のレンズを矯正する仕組みですよね、陽葵様のメガネを元にして良質の水晶を削って同じようなものを作り、それぞれの見え方に合わせて削りなおせば、それぞれに合ったメガネって作れると思うんです、ね、コフェンちゃん。」
「最適解、個体名オーロラの案は実現可能です、その計算式を作成終了しました。」
この異世界の高性能AIでもあるコフェンはたちどころに必要な設計図と屈折率変数を算出してしまった。
「このレンズを削り出すにはコランダムもしくはミスリル以上の硬度が必要です、設計図を出力します、ご主人様のアダマンタイトニードルによる工具作出を提案します。」
「わかったわ、コフェン、サポートお願いね。」
陽葵とオーロラは他の仕事そっちのけでメガネレンズを大量生産するための工具造りを行った、設計は主にオーロラとコフェンが行なう、最後の仕上げは陽葵のアダマンタイト製神器アカシックニードルと陽葵の神技で行う。
一週間もしないうちに大量生産できるめどが立った。
レンズの磨きはしなやかでミスリルに迫る硬度と靱性を備えたフェンリルの獣毛の不織布を用意した。
腕のいい職人さんを養成し、月産1000本ほどの生産を見込む。
量産品は1本あたり5万ディナールの値つけた。
ただ、それぞれの目にある程度合わせるセミオーダーメイドのメガネも販売し、そちらは20万ディナール程度の値段をつけることにする。
これはもぐら男爵様から教わった「いい製品には相応の価格を」の実践だった。
このメガネはメガヒットを記録し、これまで地下資源かレアメタル、魔法石くらいしか目立った産業のなかったもぐらホールディングス、そしてガーベラ王国の主要な産業となったのである。
陽葵の計らいでオーロラはメガネ事業部長に抜擢され、後日モントレー家復活を果たすことになるのはまた別の物語で。
こうしてオーロラはそれまで蓄積してきた科学技術を含む様々な知識と高い知能で自分の人生を切り開いていくのだった。
ただ、その頃からオーロラの左手の甲に湿疹のようなものができ、時には赤く腫れ上がることが多くなった。
医者も原因不明か過労でしょうとしか答えられず、オーロラは漠然とした不安感とともに生きていくこととなる。
オーロラは左手に黒い手袋をつけることが多くなった。
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