第122話 王国創立祭

 陽葵の転落した異世界には大きな大陸に12の小国が連立する連邦国家が存在する。

 陽葵が流れついたのは10月王国と呼ばれ、王国の花「ガーベラ」があしらわれた紋章を国の象徴としている。

 一般の民は親愛の情を込めてこの国を「ガーベラ王国」と呼んでいる。


 陽葵の人形ドールの店は大繁盛していた。

 女性たちが推しの王国親衛隊長虎人タイガーマンのそっくりさん人形をつくってくれ、といったオーダーが半数以上であったがどこの世界でも同じなんだな?と陽葵はクスッと笑っていた。


 それにしても陽葵の手技はもはや神技の域に達していた。

 通常ニードルフェルトアートは15センチ型で完成まで6時間ほどかかるものだが、陽葵はオーダーを受けてからわずか40分ほどで仕上げてしまう。

 かのアダマンタイトの曲げを1時間で行ったドワーフに匹敵する職人と言えるかもしれない。

 もちろん抵抗ほぼゼロに近いアダマンタイトのニードルがあっての話ではあるが、客から見れば神技レベルに見えるのは間違いない。

 親衛隊長虎人タイガーマンをオーダーした女性は自分の好きなポーズを再現してくれた陽葵に涙を流さんばかりのお礼を言って代金を払って帰っていく。


 ああ、いい仕事したな。

 まだ13歳の少女とは思えないセリフを吐く陽葵であった。


 ある日、少し暇になったタイミングで家主の土竜男爵もぐらだんしゃくが尋ねてきた。


 相変わらずの真っ黒なスーツに目隠し、銀髪のトゲトゲ頭。


 あらあら、いつ見ても五条悟呪術廻戦のだわ。


 心の中でクスリと笑っていた。


 と言っても、もぐら人なので基本もふもふである。

 今度土竜男爵さんも作ってみようかしら、もしかしたら推しに売れるかも。

 などと不敬なことを考えていた。


 「ヒナさん、少しよろしいですか?」


 「どうぞ男爵さま、こちらにおかけください。」


 陽葵は男爵を応接セットに案内してお茶を出す。


 「ヒナさんは今日もお美しい。」


 これはいつものことであるが、悪い気はしない。


 「まあそんな、男爵は褒めるのがお上手ですこと。」


 「折りいってのご相談なのですが、来月のガーベラ王国で開催される王国創立祭にあなたの人形ドールのお店を出しませんか?、あなたのドールは私のショッピングモールでも上位の売り上げを誇り、近隣他国からも客が訪れるとか、是非とも我がもぐらモールを代表して出店していただきたい、僭越せんえつながらあなた様のために豪華なドレスもご用意させていただきます。

 前夜祭と後夜祭では王宮のダンスパーティーにご招待させていただきますよ。私はガーベラ王子とは懇意の仲こんいのなかなのです。」


 「急なお申し出なので少しお時間いただけませんか?」


 「もちろんです、良いご返事をお待ちしておりますよ、それでは今日はこれで失礼いたします、フロイラインお嬢さん。」


 もぐら男爵はスマートに退出していった。


 王国創立祭か。


 陽葵は少しワクワクしてきた。

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