第116話 野鼠人のアリスおばさん

 穴に入ると、そこは小綺麗こぎれいな住居のようであった。

 その主が扉を閉めて言う。


 「アンタ、酷い目ひどいめ遭ったあったね、あれは土竜男爵もぐらだんしゃくのとこの番犬だよ、タチが悪いから今度から近寄っちゃだめだよ。」

 

 陽葵はまたボロボロと涙をこぼした。

 もう何が何だかわからない。


 「おうおう、可哀想かわいそうに、アンタボロボロじゃないか、身体も冷えきって、風呂にお湯入れてあげるからとりあえず暖まりなさい。」



 奥の風呂桶ふろおけにお湯を沸かして入れてくれた。

 陽葵はドレスと下着を脱ぎ、湯船に浸かる。

 少しぬるかったけど、今の陽葵には最高のもてなしだった。


 「お嬢ちゃん、落ち着いたかい?着替えを持って来たよ、うちの娘の服でよかったら着ておくれ。」


 人心地ついた陽葵は、もてなしてくれている人?が野鼠人のねずみじんであることに気づく。

 小さなメガネをちょこんと鼻の上に乗せた人の良さそうな女性のようだ。

 さんざん亜人を見て来た陽葵はもう驚くことはない。

 それと優しそうな雰囲気にホッとした。


 用意してくれた服は野鼠人の女の子用であったが、なぜか陽葵のサイズにピッタリだった。

 全身鏡がここにはあったのだが、まるまるぽっちゃりした姿がそこにはあった。


 「そりゃそうよね、甘い蜜の食べ物を毎日食べてずっとセレオラの机の上でいたんだから。ダイエットしないとダメかな。」


 陽葵はなんだか平和で的外れな思いに浸っていた。


 暖炉のある部屋に戻ると。


 「あらあら服のサイズはピッタリじゃない、よかったわ。」


 「あの、助けていただいてありがとうございます、私は陽葵ヒナと言います。」


 「いいのよ、ヒナちゃんね、私はアリス、見ての通りの野鼠人よ。」


 「ヒナちゃんはどこから来たの?」


 「それがわからないんです、気がついたらこの世界にいて。」


 「そうなの?行くところないならしばらくうちに居なさい、ね、そうしなさいよ。」


 「いいんですか?娘さんとかの邪魔になりませんか?」


 「いいのよ、娘は3人ともオオカミの群れに襲われて死んじゃったから、遠慮えんりょは要らないわよ。」



 陽葵はしばらくご厄介やっかいになることにした。

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