第115話 フェンリルとの出会い

 陽葵は一人置き去りにされ、呆然ぼうぜんとしていた。

 でも周りも暗くなってくるしいつまでもここに立っているわけにもいかない。


 当てもなくトボトボと歩き始めた。


 周りは草むらばかりでどちらに進んでいるのかもわからない。


 何分歩いたのか何時間も歩いたのかわからない。

 陽葵は生まれて初めてくらい長い長い時間を歩いていた。


 周りはもう真っ暗である。

 よくわかない鳥か虫の声が聞こえるけど、だんだんと寒くなって来た。


 「もうやだ」


 陽葵はその場に座り込んでしまった。

  

 そばかすの可愛らしいセレオラの作ってくれたベットは暖かかったな。


 いまさらながらあの生活を懐かしく恋しく思った。


 ふと気がつくと周囲におかしな気配を感じる。


 野犬か、オオカミの群れだろうか、そもそもオオカミ人間とかの亜人なのだろうか。


 どちらにしてもこのままではまずい!と生存本能せいぞんほんのうか叫ぶ。


 音のする反対方向に必死で歩く。

 もう足が棒のようで走れないのだ。


 ドレスもあちこちのやぶでひっかけてボロボロ、そこそこお姫様ですらない状態の陽葵であった。



 しばらく歩くと白く輝くもふもふ?が見えてくる。


 何だろう?と近づくと、「そこに寝そべるそれ」は大きな、でも陽葵が最後に作ったフェンリルとそっくりのもふもふであった。


 陽葵の顔に喜色きしょくが戻る。

 根拠はないけれど、フェンリルは自分の味方だと直感した。



 フェンリルに近づくと周りにいた野犬だかオオカミの群れだかは姿を消した。



 陽葵は呼びかけてみる。


 「フェンリルさん、フェンリルさん、起きてください。」


 するとそのもふもふはむっくりと起き上がり、陽葵を見つめる。

 突然長い舌をべろっと出すと。


 「ふん、まるまる太った美味そうなエサだな、ノネズミの仲間か。腹は減ってないがデザートにいただくとするか。」


 もふもふの右前足が陽葵に向かって振り下ろされる。

 「ヒィ!」


 陽葵は勝手に信じていたものに襲われ、無我夢中むがむちゅうで走った。

 足は棒になっていて動かない走れないはずだったが、不思議なことにすごい力が出る。

 

 白いもふもふはどうやら本気ではなく、遊んでいるようだった。


 右に左に陽葵を煽ってあおって走らせる。


 陽葵は生きた心地がしなかった。


 突然、土手に開いた穴から誰かが手を出し声をかける。


 「ちょっとあんた!こっちに入りな!」


 陽葵は言われるままにその小さな穴に飛び込む。


 白いもふもふはもう飽きたあきたのか、そのままきびす返してかえして去っていった。

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