第113話 そこそこ財閥令嬢

 陽葵はずっとお人形さんだった。


 周りからも可愛い可愛いと言われて愛されていたと思っていた。


 けど、それはきっと違っていた。


 おじいさまの威光で褒め称えられ、おじいさまの威光で、癇癪かんしゃくを起こしても怒られず、でも何かできるわけでもなく。


 さしてしたいこともない。


 言われた通りにちょこんと座って。


 お勉強も特に好きじゃないから成績もそこそこ。


 ピアノも特に好きじゃないから発表会の拍手もそこそこ。


 財閥令嬢という名だけど、新興IT企業社長のご令嬢ほど裕福なわけでもない。


 黒髪は気に入ってたけどクリクリだし、ストレートな髪がよかったな。


 顔もそこそこ可愛いと言われはするけどどこまで本心なのか。


 スタイルはお世辞にもスマートとは言えない、これもそこそこ可愛らしいと言われるけれど、本心なのかわからない。


 頭の良い、頭の切れる賢い令嬢にも憧れるけど生来わりとぼーっとしてるらしい。


 「本当にお人形ね。」


 陽葵は川に流され、船酔いで何度も吐きながらそんなことを呟いた。

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