第112話 拉致&リリース

 その夜はイスラの家の窓が少し隙間が開いていた。


 陽葵はセレオラが作ってくれたベッドの上で寝ていたが、寝返りをうってふと窓のほうを見ると、異様いような生き物がこちらに飛びかかって来た。


 それはヒキガエル、こちらではフロッグマン蛙人と呼ばれる亜人だった。


 「ケロケロ、これは可愛いお姫様だ。」


 「離して!」

 陽葵は抵抗するが、もともとそんなに筋力もなく運動も苦手なそこそこ令嬢ではなす術もなかった。


 「ケロケロ、おまえさんは何も心配しなくていい、ワタシの自慢の息子のお嫁さんになるんだよ、ケロケロ。」


 陽葵は沼地ぬまちまで連れ去られ、逃げられないように沼地に浮かぶ大きなハスの上に放置された。


 陽葵は泳げないしそもそも恐怖で身体が動かない。

 もうどうしようもなかった。

 「私って何か悪いことでもしたのかな、なんでこんな目にばかりあうの?もうおうちに帰りたいよ。」


 フロッグマン蛙人と結婚するなんて嫌、そんなことになるくらいならもう死んだ方がいいよ。


 陽葵は膝を抱えて人知れず泣いた。


 沼にはその様子を見ていたキリフィッシュマン目高人がいて陽葵に話しかけてきた。


 「フロッグマン蛙人のおばさん、無理矢理あなたを中年息子と結婚させるとか酷い話だよね、僕たちが逃がしてあげる、ハスの茎を噛み切って川に引っ張って流してあげるから遠くに逃げなさい、きっとこれからいいこともあるよ!」


 そう言うと、キリフィッシュマン目高人の二人はハスの茎を噛み切り、川まで引っ張って下流に流してくれた。


 「頑張れよー!」

 キリフィッシュマン目高人は川上から手を振る。


 「ちょ、私これからどうしたらいいのよー!無責任じゃないの!」


 その声はもちろんメダカさんたちには聞こえなかった。


 陽葵の乗ったハスは川の流れに乗ってどんどんと流されていく。

 陽葵は本気で船酔いしていた。

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