第110話 交流

 陽葵は改めて目を覚ました。

 優しい声で呼びかけてくるのが聞こえる。


 「お姫様!ワタシの話すことわかりますか?


 陽葵は恐怖を感じながらも話が通じることで落ち着きを取り戻す。


 「私は陽葵ヒナと言います。あなたたちは巨人さんなのですか?」


 「巨人?通訳が上手くいってないみたいだけど、私たちは普通の人間ですよ、あなたがとっても小さいお姫様なの。」


 陽葵はちょっと考えて、服やハンドバッグ、スマホは大きさは変わらないはずだからやはりあなたたちが巨人なのよ、と喉まで出かかったけどやめた。

 どのみち比較の問題であり、この人?たちにとっては私は小人こびとなのだと。


 「私はどこからここに連れてこられたの?」


 「連れてきた?あなたはチューリップから生まれたお姫様じゃないの?魔女のお店ではそう説明されたわよ。」



 陽葵は考えるのをやめた、陽葵のそこそこの頭では状況を理解できそうにないからだ。


 少し落ち着いてくると陽葵は猛烈な尿意もうれつなにょういに襲われる。

 もうどのくらいトイレに行ってないのかわからないけど結構ギリだった。


 「あの、おトイレ行かせてもらえませんか?」


 「おトイレ?ああ、フンのことかしら、説明書にあったから暗いところ用意してるわよ。」


 そう言ってイスラと名乗る巨人の女性は陽葵をそっと手のひらに載せ替え、植木鉢の土の上に下ろしてそっとクルミのから被せてかぶせてくれた。


 陽葵は頼りない土の上、かろうじてあった小さな砂利の上にしゃがんで用を足した。

 ハンドバッグにティッシュがあって良かった。


 「ねえ、お母さん!もうお姫様と遊んでもいいの?」

 巨人のそばかす顔の女の子がイスラに尋ねる。


 「ええ、もういいと思うわ、くれぐれも優しくね、強く触ったら死んじゃうからね。」



 陽葵は何やら不穏ふおんな発言にビビりながら頭の中で状況整理じょうきょうせいりをした。


 どうやら空間の裂け目から転落して巨人の国に来てしまったようだ。

 チューリップから生まれたというのがちょっと理屈が理解できなかったが、異世界だからそんなものなんだろう、くらいに理解することにした。


 「ねえねえ、お姫様、遊びましょ。」


 ここは言う通りにしていた方が良さそうだ、下手に騒ぐと虫のように潰されかねないようだしね。


 陽葵は覚悟を決めた。


 とりあえずこの子と話をして情報を集めることにした。


 大きなお皿に水を入れてある。

陽葵は、くるみの殻で工作した船のようなものに乗せられて水に揺られる。


 陽葵はその子に尋ねた。


 「あなたのお名前はなんて言うの?」


 「ワタシの名前はセレオラ、あなたは?」


 「私は川嵜陽葵かわさきひなひなって呼んで。」


 「お姫様はひなちゃんって言うんだね、可愛い!」


 どうやらセレオラには気に入ってもらえたようだ。


 少し安心すると今度はお腹がぐうぐう言い出した。

 チョコレートをひとかけら食べた以外あれから何も口にしていないのだ。


 「ねえセレオラちゃん、何か食べるものがあったら欲しいわ。」


 陽葵はセレオラに要求してみた。


 「え、お姫様のエサ?わかんないからお母さんに聞いてくるー。」


 セレオラは地響きを立てて母の元に走る。

 その度に地面と水面が揺れて、船酔いに近い感覚を覚える。

 空腹なのも原因なんだろうな。



****


 「お姫様の餌かあ、説明書にも書いてないわ、お母さんちょっとまた買ったお店で聞いてくるね。」

 イスラは改めて魔女の店に走った。


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