第105話 街角の魔女

 ブラックビュートという街にアゼリア・シーフォールドという魔女がいた。

 魔女といっても、ブラックビュートでは女性の半分くらいがなんらかの魔女であり、アゼリアは花の種を扱う仕事をしている。


 「こんにちは。」


 柔らかなひかり輻射熱が差し込む店の窓際まどぎわで半分ウトウトしていたアゼリアは来店客の声で目を覚ました。


 「あいよ、いらっしゃい、何の種をお求めかね。」


 入ってきたのは20代そこそこくらいの女性と小さなそばかすの女の子だった。

 

 「この子がどうしても遊び相手の小さな女の子が欲しいというのでどうしたものかと思って相談に来たのよ。」


 「そうかい、それじゃあこちらのバラの種はいかがかね、この世のものとも思えない美しいお姫様が生まれるよ。14万ディナールでどうだい。」


 「それはちょっと予算オーバーね、5万ディナール以下くらいでいい花はないかしら。」


 「そうさな、それならこちらのチューリップの種はどうかね、7万ディナールの値札ついてるけど長いこと売れてないから3割引にしとくよ、チューリップの花のお世話セットもサービスしとくけど、そこそこ可愛い女の子が生まれるよ。」


 「買った!」


 女性は49000ディナールをマジックマネーで支払いチューリップの種を受け取り帰って行った。

 「ちゃんと説明書き通りにやるんだよー」

 アゼリアは帰ろうとする女性に声をかけた。


 ****


 種を買って帰った女性はイスラ・バルバラと言う、ブラックビュートでは亜人相手に小物を作って販売する商売をしている。


 そばかすの女の子はセレオラ・バルバラ7歳、イスラの一人娘である。


 「セレオラ、そうしたらチューリップの種を蒔きまきましょうか、小さな女の子楽しみね、チューリップお世話セットサービスしてくれて良かったわ。」


 チューリップのお世話セットから小さな植木鉢と腐葉土ふようど、オパール、ガマ避けネット、花を支えるための細い木端で作られたやぐらのようなもの、を取り出す。


 「セレオラ、まずは植木鉢をお日様キンモクセイの当たる窓際に置きましょうか。」


 「うん、窓際だね。」


 セレオラはお母さんの言うとおり植木鉢を窓際によいしょよいしょと運ぶ。


 「えっと、オパールを小袋から出して5分ほどお日様の光に当てるのね。」


 「セレオラ、その小さな袋を開けて、中の宝石をお日様キンモクセイに当ててちょうだい。」


 セレオラは小さな小袋を思いっきり引っ張って開けようとする。


 ベリっと小袋が裂けてオパールがコロコロ転がった。


 「あらら、オパールは、大丈夫、割れてないみたい。」


 イスラは窓際の陽の光輻射熱の当たるところにオパールを置く。


 セレオラがそばかす顔をぷーっと膨らませて「それ!ワタシがやるの!」と文句を言う。


 「セレオラごめんねー、はい、オパールをお日様のところに置いてちょうだい。」


 イスラはセレオラにオパールを手渡し、セレオラは改めてオパールを置く。


 5分経ったらオパールを植木鉢の中心に置いて、腐葉土を入れる。


 セレオラは指示通りに腐葉土を植木鉢に入れて小さな手でパンパン叩く。


 「セレオラ、真ん中に指で5センチくらい穴を開けてチューリップの種を入れましょう、それで土で埋めたらお水あげましょうね。」


 「はーい」


 セレオラはワクワクしながら植木鉢にお水をあげた。

 さあ、どんな花が咲くのかな?

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