第104話 ぽっちゃり陽葵と素粒子加速器

 「おはよう!陽葵」


 クラスメイトたちが気さくに挨拶してくる。

 

 顔もそこそこ

 成績もそこそこ

 人付き合いもそこそこ

 体型は、

 巨乳ではあるがそこそこぽっちゃり。

 

 友達が気遅れきおくれする要素はまるでないのであった。


 授業が終わり、陽葵は部活に顔を出す。


 陽葵は昔母から教えてもらったニードルフェルトが趣味だ。

 

 「ひな!」


 同じニードルフェルト部の部員「ひまり」だった。


 彼女の名前の漢字も同じ「陽葵」と書くのだが、読み方が「ひまり」なのだ。


 神崎陽葵ひまりと川嵜陽葵ひな

 入学した時から名前の漢字が一緒なのがきっかけで仲良くなった。


 というわけで「ひな」「ひまり」と呼び合うことになるわけだ。


 ひまりは薄い茶色と黒でもふもふのモルモットの仕上げにかかっている。


 「ひまりちゃん、もうすぐ完成だね。」


 「うん、あとは縫い目を取り付けておひげもつけたら完成かな、ひなちゃんはずいぶん大作たいさくだね、わんちゃん?」


 「うん、でも今回はちょっと趣向しゅこうを変えて、フェンリルを作ってるの、異世界でよく活躍してるの、真っ白なふさふさに少しブルーかパープルを入れてみたんだ。」


 「そうなんだ、青いところキラキラして綺麗きれいだね。」


 「そうなの!わかる?」


 ひなは普段はあまり口数が多くないのだが、ことニードルフェルトについては多弁たべんになる。

 やっぱ好きなもの褒めほめられるとアガるよね!


 ひなのフェンリルも迎えの時間までには完成した。ひまりも手伝ってくれた。


 「ひまりちゃん、ごめんね、なんだかこの後おじいちゃんから呼ばれてて行かなきゃ。」


 「そうなんだ、ひなちゃん、また明日ね、バイバイ。」


 校舎を出るとリムジンがもう迎えにきていた。

 陽葵が乗り込むと静かに動き出した。

 会場は明石から1時間くらいのところだ。


 ****


 会場に着いた陽葵は正装せいそうに着替えて来賓席らいひんせきの祖父の横に座る。


 「陽葵、来たか。」


 「はい、おじいさま、お久しぶりです。」


 「陽葵はもう中学生になったのかな?」


 「はい、今年の春から一年生になりました。」


 当たり障りのない世間話をしてあとは静かに座る。

 

 おじいさまは嫌いではないけれど、威厳いげんもあって口数も少なめなので少し苦手だ。

 現在は川嵜財閥かわさきざいばつ当主とうしゅである。


 

 「さてみなさん、主賓の挨拶しゅひんのあいさつも終了しましたのでお待ちかねの素粒子衝突実験そりゅうししょうとつじっけんを始めてみたいと思います。」


 「この最先端加速器さいせんたんかそくきでは素粒子を世界最速の、ほぼ光速にまで加速して莫大ばくだいなエネルギーをあたえることにより、宇宙の始まりビッグバンを再現、ビッグバンの1兆分の1秒後の世界を再現します、これにより、宇宙の誕生の謎に迫れるものと考えております。」


 「すでに素粒子は最大加速を済ませております、ここで川嵜四郎会長のお孫さんで、川嵜陽葵さまにスプリング♾️の初の素粒子衝突実験、ビッグバンを開始していただきたいと思います、盛大な拍手をお願いします。」


 割れんばかりの拍手の中、陽葵は中央に進み、大きなリポンのついた赤いボタンに人差し指をかける。


 「さん、にー、いち、はい!」


 司会者の掛け声に合わせて陽葵はボタンを押した。


 空に大きく裂け目ができたかと思うと、あたりの景色が一瞬で消え去り、空にはオパールの遊色効果ゆうしょくこうかのような模様もよう一瞬遊びいっしゅんあそび、何もかもが「エネルギー体」へと変換へんかんされた。

 

 

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