ジン・フラスクの失敗

「どいつもこいつも俺のことをジン・フラスクとかいう引き篭り魔術師だと勘違いしてるみたいなんだ。フラスコの魔術は、ジン・フラスクにしか使えないんだと。でも、俺もたしかに使ってる。フラスコを。まあアイテムの効果を使ってるだけとも言えるけど、結局のところ俺はフラスコの魔術を使ってるのか? 使ってないのか? ジン・フラスクって俺に関係あるのか? なんで俺はあのめちゃ寒い城にいたんだ?」

「早口で捲し立てないでほしいわ。質問はひとつずつしてもらわないと答えられない。でも、だいたいあなたの知りたいことはわかった。今にして思えば、こうなることはわかりきっていたもの」

「なんの話をしてるんだ? わかりきってた?」

「こっち」


 コーリングは俺の手をひいて、細い路地にひきこんだ。


「あなたはジン・フラスクよ」


 ボソッと簡潔につぶやく。


「俺、ジン・フラスクなのかよ」

「当たり前じゃない」


 コーリングは半眼になって「そんなこともわからないの?」みたいな顔してくる。

 

「手厳しいな。説明を求む。天使の助手なら説明責任があるはずだ。何がどうなってる」

「もうひとつ言うと、天使の助手じゃないわ」

「嘘つきかよ。じゃあ、誰の助手だ!」

「誰の助手でもないけれど。でも、強いていうならあなたの助手かしら」


 だめだ。頭が追いつかない。


「あなたは記憶を失ってるけど、正真正銘、この数世紀引き篭もっていたジン・フラスク本人よ」

「記憶を失ってるって、なんで、どういう理屈なんだ」


 どこから説明を求めればいいかわからないくらい突然な話だ。

 いや、でも、だとすればすべての話の辻褄はあうのか?

 フラスコの魔術を使えるのは、フラスコの魔術師ジン・フラスクだけ。

 俺がジン・フラスク本人なら方程式は成立する。


「氷の城で黄金色のフラスコを私にくれたでしょう。あれよ」

「なにがだよ」

「あなたの記憶。転生後のすべて」

「え? フラスコに記憶をいれてたのか?」

「フラスコの魔術であなたがドラゴンブレスを封入したように、あなたは自分の転生後の記憶のすべてをフラスコに封入したのよ」

「なんでも入るフラスコだとは思ってたが、そんな概念的なものまでいけたのか」


 魔術ってすげえな。


「記憶を丸々フラスコにいれたから、あなたは転生した直後にあの城の高塔の最上階に移動したと錯覚してたのよ。実際あなたの転生ははるか昔に行われてたのに」

「遥か昔って……どれくらい?」

「知らないわよ。そこまでは聞いてないわ。教えてくれなかったしね」


 もしかして、それって俺が不老不死だからか?

 だとしたら一体どれだけの時間を俺は本来生きていたんだ?


 コーリングの言葉を受け止めるほどに、背筋をぞわぞわしたものが燻り始めた。俺の知らない遥かな時間がここにあり、そのすべてを忘れている。


 これほどに奇妙な感覚はない。

 俺にはなんの記憶もないのだから。

 全部コーリングの出鱈目だと考えたほうが感情では納得できるというものだ。


「それじゃあ、もしかしてのどかな春の大地も、スローライフも……本当はあったのか?」

「前にも言っていたけど、なんのことそれ」

「いや、転生した時に天使にあったんだ。そこでお願いしたんだ。いい感じの穏やかな新生活をさ」

「お願いしたら叶うの? 気前のいい天使なのね」

「叶ったかどうかは知らないけどな」


 でも、不老不死という超常的な力を用意してくれたんなら、きっとのどかな春の大地もスローライフも用意してくれてたんだろうな。

 俺はきっと穏やかな新生活を楽しんだはずだ。もう忘れてるけど。


「もしかして、コーリングも俺の知り合いなのか? だからそんな馴れ馴れしいのか?」

「なにその言い草。あなただって馴れ馴れしいじゃない。記憶ないわりに」


 言われてみれば確かにな。

 この世界の俺は他人になぜか敬語がでない。


 もしかしたら長い時間を生きた結果なのかもしれない。

 記憶は失っているが、この口は敬語を使うことを完全に忘れているのだ。

 

 そっかぁ、貴族だの、魔術師だの。

 たぶん立派な身分を手に入れてたんだろうな。

 あんな立派な城って持つくらいだし。

 頑張ったんだなぁ俺。


「でも、だとしたら余計わからないな。なんで俺は記憶を封入したんだ?」

「あなたは失敗したらしいわ」

「失敗?」

「なにも感じなくなったから、すべてをやり直すって」

「何も感じなくなったって……」

「私もどういう意味かわからなかったけど、たしかにあなたって不思議な人間だったわ。笑うところは数えるほどしか見たことないし、いつもつまらなそうで、不機嫌そうにしてるんだもの。達観した顔して、なんでもお見通しって雰囲気だしてて、最初の頃はすごく腹がたったのを覚えているわ。人間のくせに生意気だとも思ったわ」

「はあ」


 なんかそれだけ聞くとすげえいやなやつだな。

 長い時間を生きてると、感情でもなくなるのかな。

 ん? そういえば天使がなんか言ってたな。


 長い時間を生きると、感情が希薄になるとか、魂が摩耗する、とか。

 

「あなたは私に手伝わせたのよ。リセットを。転生後の記憶のすべてを取り除いて、再びリスタートすることを決めた。転生前のジン・フラスクという自分を捨てて、まったく違う自分に生まれ変わろうとしたみたいね。私はそのための手伝いを頼まれた。記憶をすべて失ったあなたを適度にサポートするように」

「なるほど、だから人間語の教科書もくれたのか。てか、あんた日本語を話してたが、あれは俺から教わったんだな?」

「そうなるわね」


 どうりでこいつだけ話が通じたわけだ。


「ジンは記憶もなにも完全いやり直したかったみたい。あなたにはフラスコの魔術師であることや、そのほかのことを伝えたくなかったみたいなの。だから、私は黙ってる予定だった」

「いまめっちゃ話してるが」

「だって、無理だと思ったもの。ジンの計画はわりとずさんだったわ。数世紀引きこもってたせいで世間での自分の認知度がわかってなかったのかしら。世界はジン・フラスクのことを、たった数世紀では忘れなかった。事実こうしてフラスコの魔術をあなたが使ってしまったせいで、あなたは自分に違和感を覚えてる。その違和感はいずれ確信にかわる」


 それはそう、だな。

 街に来てから、やたらジン・フラスク扱いされるし、フラスコの魔術を使えるのはフラスコの魔術師だけって言われれば、気になりもする。


「私はジンに最後の仕事の頼まれてる。第二の人生、いえ、第三の人生のサポートというべきかしら。ジンはあなたに、ジンとしてでなく、リセットしたマトリとして生きることを望んでいたわ」


 ジン・フラスク。第二の人生を送った俺。

 彼は魂の摩耗を抑えこむことに失敗した。


 だから、あくまでジン・フラスクではなく、第三の俺としての生を望んだ。

 他人事のようで、その実、100%の自分事。


「でも、ジンが俺に第二の人生を教えたくなかったのなら、あんたはそんなぺらぺら喋っていいのかコーリング」

「だから言ったじゃない。あなたの計画がずさんだから、私がこうして修正をしてあげているのよ」

「いや、ずさんな計画立てたのは俺じゃないんだけど……ごめん」


 つい謝ってしまった。俺じゃないのに。ジン・フラスクが悪いんじゃん。


「第二のあなたのずさんな計画は、確実に第三のあなたに違和感を与える。いずれ第三のあなたは、第二のあなたの影を追いかけることになる。自分は何者なのか、本当のルーツはどこにあるのか。そうしてジン・フラスクの軌跡をめぐることになる」


 コーリングの予言は説得力のあるものだった。

 

「そうなると、ジンが望んでいた第三の人生は成立しない。だから、私がテコ入れするわ。ここで全部の疑問を解決したうえで、あなたはジン・フラスクの影を追わずに、第三の人生を謳歌しなさい」

「はぁ、だからいきなり出てきてぺらぺらネタバラシを」

「そういうことよ。わかった?」

「まあ、言いたいことはわかった。頭の整理はできてないが。モヤモヤしたものが晴れてすっきりした。ひとつ気になることは、俺がこの危険な世渡りを失敗して死んでしまうという可能性についてはジンは考えてないのか。記憶を全部奪われて放りだすなんて危なすぎるだろう?」


 いろんなものを持っていたはずだ。

 長い時間をかけて築きあげてきたはずだ。


「彼はよく言ってたわよ。焼けるような痛みでも、身を裂かれるような悲しみでも、煮えくりかえるような怒りでも、おぞましい暗い死でさえ、愛おしい……って。よく自分の手首を短剣で斬ったり、腹を刺したり、首を吊ったりしてたわ」

「メンヘラじゃねえか。重症だ」


 なにも感じないって辛いことだったんだな。

 全部なかったことにして、リスタートをしたいと。

 1回チャンスもらって、うまくやれなかったあたり俺らしい気もしてきた。


「ジンは本当に俺になんのヒントも残すつもりはなかったのか」

「……。なかったわ。あなたがいま持っているフラスコだって、継承する予定じゃなかった」

「いろいろとグダグダだな」

「仕方ないのよ。ミディーラが意味不明の行動をしたんだもの」

「孤城にいるドラゴンのことか」

「彼女、ジンにひどく腹を立てているようで、いきなり襲ってきて、城をまるごと凍えさせてしまったわ。ちょうど、ジンが自分の記憶をフラスコに封入した直後のことだった。襲われたくなかったから、私は我先に逃げることにしたの」

「だから、俺はあんな雑に床のうえで気絶したたのか。てか、自分だけ逃げてるんじゃねえ、大事な友達を見捨てるなよ」

「あなたが友達? 冗談は顔だけにしてくれるかしら。お腹がよじれちゃいそう」


 あれれ、俺とコーリングって仲良くなかったのかな?

 記憶がなくなったあとの俺を任せてるくらいだし、信頼関係あるのかと思ったけど。


「でも、流石にあなたがミディーラにぱくっといかれちゃうのは寝覚めが悪いから、すこしだけ手を貸してあげたわ。おかげでずいぶんと予定は狂ったけど、まあ、こうしてあなたは第三の人生を無事にスタートできてる。結果オーライといったところかしら」

「リセットじゃなくて、いろいろ中途半端に引き継いじゃってるけどな。フラスコとか」

「じゃあ、全部捨てたらいいんじゃない?」

「それは……もったいないだろ。だってこれすごい道具なんだろ? 実際すごく助けられてるし」


 暴力の牙を捨てるのは惜しい。


「しかし、いろいろ知ってしまったな。俺はどうすればいいんだ?」

「私からどうしろなんてことは言わないわよ。好きに生きたらいいんじゃない」

「そうか? うーん、いや、そうか」


 たとえジン・フラスクという存在がいたとしても、俺は俺だ。

 俺はマトリだ。真面目に生きすぎて、前世でなにも成し遂げられなかった人生を取り戻そうとしてるマトリにほかならないのだ。


 ジンだって俺に過去の影を追うことを望んでいない。

 

 だとすれば、俺は俺のやりたいようにやればいい。

 俺のしたいこと……それは学者になって立派になること。

 あとは不真面目に生きること。この2点はマスト。


 俺の興味はいまがっつり魔術に向いている。

 神秘の法則がいかに働いているのか、その探求は心躍るものだろう。


「決めたぞ、コーリング。俺は魔術の探究をしたい」

「それたぶんジン・フラスクと同じ道をいこうとしてるけれど」

「でも、そうしたいんだから仕方ないだろ。なんだよ、文句つけるのか」

「別に。好きにしたらいいと思うけど」


 まあ、コーリングの言にも一理ある。

 俺がしたいと思ってることは、遥か昔の俺━━━━ジン・フラスクもしたかったことだ。そのすえに彼はリセットを選んだ。魂の摩耗によって。


 俺はいま強くてニューゲーム状態。

 ならばリセットした過去からの教訓をいかさないといけない。

 

 つまりは魂の摩耗に備えるということだ。

 

「どうすれば魂って摩耗しないんだ」

「知らないわよ、そんなこと」


 天使がなんか言ってた気がする。

 たしか新鮮な体験とか、なんとか。


 ともすれば、数世紀引きこもったりして、孤独を極めたのが一番摩耗を引き起こしてる気がする。だってそうだろう。どんなに自分の家が好きでも、そんなにずっといたら全てのことを見飽きるだろ。

 

 俺の気質から自然と孤独を選びがちになるのは想像に難くない。

 であるならば、俺の性格が避けがちなことに挑んでいけば、自然と摩耗対策になるかな?


「いま考えても仕方のないことだな。まあいいや、いろいろ助かったよ、コーリング。あんたのおかげで大事なことを知れた」

「最後にひとついいかしら」

「まだなにか?」

「ジン・フラスクは極度の女性嫌いだったわ。悠久の時を生きてきて、ひとりも伴侶がいなかったって言ってた」

「お、おう」

「自分のことを悠久の童貞だと、澄ました顔でいっていた」


 カッコつけてんじゃねえ、俺。


「私は美少女だけど、ちっとも興味を示さなかったほどよ」


 悲しいな。どんだけ拗らせてるんだよ、俺。

 拗らせたまま永遠の時を生きようとするな。


「なのになんであの女騎士と仲良くなってるかしら。意味不明なのだけれど」

「別に仲良くはなってないが。たとえ仲良くなってても、あんたには関係のないことなんじゃないのか」


 コーリングはムッとして目元に影を落とし、鋭く睨みつけてくる。こわい。


「なんだよぉ、や、やるのかぁ?(震え声)」

「馬鹿らしい。本当に馬鹿らしい」


 コーリングはボソボソつぶやいて、早歩きで去ってしまう。

 なんだよ、俺なんか怒らせるようなことしたか?


「女ってやっぱ分かんないな」


 俺は昔から女の子が苦手だった。


 中高と男子校で暮らし、理系大学に進学、しかも地獄の数学科という道を歩き、コンビニバイトで一緒だった女の子に話かけたら、店長に言いつけられて、呼びだされ「真鳥くん、それコミュハラだよ」と厳重注意された経験をもち、もはや女性を女性ではなく、人類として接することで、そこにはワンチャンお近づきになれる可能性など存在しないと自分に言い聞かせてすごしてきた。


 だから、女の考えていることはよくわからない。

 わかりたいという気持ちもあまりない。

 わかってしまったらきっと恐ろしい。

 

 夕方、俺は美味しそうなものや、毛布の類を買いこんで暗い森に帰宅した。


 川辺に戻ると、ドラゴンがお腹を天にさらしている姿と、そのそばで魅惑のお腹をなでなでしているコーリングの姿を見つけた。



 ━━ドラゴンの視点



 今日もご主人は街にいっちゃいました。

 私はずっとご主人と一緒にいたいけど、でも、ご主人にはやることがたくさんあって忙しいから、わがままは言わずに我慢します!


「あら、あなた、ひとりでお留守番しているのね」

「くあ〜!(訳:コーリングさんだ!)」


 1ヶ月ぶりに森にやってきたのは、ご主人のことが大好きなコーリングさんです!


 コーリングさんは人間の姿をしているけれど、私にはわかります。

 この綺麗な人はドラゴンです!


 きっとすごく強いドラゴンなんだと思います!

 だって身体中から力の波動を感じますから!


 そして、ドラゴンさんだからこそ、好き好きオーラもわかります!

 メスのドラゴンは好意を寄せる対象のまえでは、ついつい求愛フェロモンが出てしまうのです!

 

「くあ〜!(訳:ご主人はまだ帰ってきてません!)」

「あなたはどこの出身のドラゴンなのかしら。あなたのドラゴン語、なまりがひどくて私にはわからないのよね。遠くの地から連れてこられたのかしら」

「くあ〜……(訳:どうりでコーリングさん、全然返事してくれないなぁって思ってました……)」


 いままで一生懸命話しかけてたのに、いつも難しい視線を送ってくるだけ。

 無視されてるのかなぁって不安になったりもしましたけど、新事実が発覚、どうやら私のドラゴン語はコーリングさんに1ミリも伝わってなかったみたいです!


 よかったです!

 無視されてたわけじゃなかったんです!


「どうしてあんたがここにいるんだ」


 あっ、ご主人が帰ってきました!

 おみやげがたくさんある匂いがします!


 うわあ〜! 街の食べ物です!

 見たことないものがたくさん!

 

「別に。このドラゴンを撫でたいと思ってたからすこし立ち寄っただけよ」

「くあ〜!(訳:5時間くらいもうここにいます!)」

「昼間、どうして怒ってたんだ?」

「くあ?(訳:ご主人とコーリングさん、喧嘩したんですか?)」

「別に怒ってないわよ。私は瑣末なことでいちいち気を荒立てたりしないわ」

「いや、でもあれは怒ってたけどな」

「怒ってないわ。はぁ、この際だからついでに聞くけど、あなたあの女のことどう思ってるわけ」


 これはついでに聞くとはいうレベルじゃないどストレートな探りです!

 もはや前後の文脈なんかすっとばして好意を匂わせてます!


「どう思ってる? 真面目だなって」

「くあー!(訳:ご主人、違います! もっと色恋的な意味だと思います!)」

「私はあなたがジン・フラスクだった頃からの付き合いよ。知り合ってざっと500年は経ってるわ。あなたのことはだいたいわかってるつもり。あなたは女に興味がない。人間の女になんかは絶対に興味を示さなかった。これまでのあなたの行動と今日のあれは違っていたわ。なんのつもりなの」

「く、くあー!(訳:コーリングさんは、だれか人間族のメスにやきもち焼いてるみたいです!)」

「興味は示すだろ、そりゃあ。あいつはドラゴンのことで不可思議なムーヴをしてたしな」

「くあー(訳:ご主人、だからもっと色恋的な感じだと思います)」


 ご主人はすこし鈍いところがあるかもしれないです。鈍感系ですね。


「あなたと女騎士が酒場に入店してから店を出るまで4時間32分22秒かかったわ。ジン・フラスクがこれほど長く女と長話をするなんてことありえない。あなた、本当はあの女が気になっているんじゃないの? 500年前からの知り合いの私よりも」

「くあ〜!(訳:これはわかりやすい選択の強制です! コーリングさん、浮気を咎める妻気取りです! さりげない交流年数マウントも忘れません。こんな露骨に嫉妬されたらさすがのご主人も気づくはず!)」

「本当のことを言うと気になってる。あいつ真面目だから、このままどっかで滅びを迎えるんじゃないかって」

「くあー(訳:ご主人わざとやってますか?)」

「ところで、コーリング、これはなんなんだ」


 ご主人、ようやく川辺にセットされた机と椅子に気づきました!

 これはコーリングさんがお昼にやってきて、凄まじい腕力と技術でつくりあげたものです! コーリングさんはたぶん私よりずっと長生きしているので、たくさんのことを知ってて、それでいて力も強いんです!


 おしゃれな机も椅子もあっという間に完成しちゃいました!


「これは別にあなたのために作ったわけじゃないわ。まだ60歳に満たないコドモドラゴンに人間世界で生きる術を伝えていたの」

「人間世界で生きる術が必要なのか、ドラゴンに?」

「ええ。ドラゴンの多くは人間に変身して、人間世界で暮らすことがあるのよ」

「へえ、そうなのか。それはまたどうして」

「だって暇じゃない。ドラゴンは永遠の命を持ってるのよ。ずっと山や洞窟で昼寝して過ごせって言うの?」

「なんでお前がドラゴン側の立場で話をしているのかわからんのだが……」


 ご主人、椅子に座ります。

 コーリングさんは調理したお肉を持ってきました。


 これはお昼にコーリングさんが素手で殴り殺してきたイノシシのお肉です!

 平らな岩をしたから火にかけて、そのうえでジュージュー焼いてました! 

 詳しいことはわかりませんが、お皿に綺麗に盛られてます! おいしそう!


「なんだ、この料理は」

「くあー!(訳:コーリングさんがご主人のために作った料理です!)」

「イノシシ肉よ。塩と胡椒とニンニク、数種類のハーブで味付けしてあるわ。別にあなたのために作ったわけじゃないけど、食べたいなら食べても構わないわ」

「くあ〜!(訳:どこをどう考えても、ご主人のために作ってます! そっか、コーリングさんはライバルが現れて、そのことに焦って、手料理で胃袋をつかもうとしているんですね! こんなわかりやすいツンデレ、いくらご主人でもさすがに気付いちゃいますね!)」

「なんだよ、俺のために作ったわけじゃないのか。じゃあ食べちゃ悪いよな。大丈夫だ、俺のことは気にしないでドラゴンとふたりで食べてくれ」

「くあ━━━━!(訳:ご主じぃ━━━━んっ!)」

 

 ご主人は筋金入りの鈍感系かもしれません。

 コーリングさんは険しい道を選びましたね。

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