危険な隣人

 翌朝。

 俺とドラゴンは安心と安全の毛皮で眠った。

 さらに昨夜は熱湯が冷めたあとにそのままお風呂に流用して、サバイバル生活で疲れ切った心身を癒した。


 まさかお風呂にはいれるとは思わなかった。


「朝風呂最高だな!」

「くあ〜♡」


 大自然の息吹を感じながら、入る露天風呂は贅沢以外のなにものでもない。


「見てくれ、ドラゴン。新しい技を作りだしたぞ」

「くあー?」


 『火炎のドラゴンブレス』と『水のフラスコ』から、一定量の火炎と水をひとつの『空のフラスコ』に移動させた。

 フラスコのなかに真白いモヤモヤが充足していく。


「これを解き放つ━━ベクトルVector


 手をかざし前方へ解放、白い霧がぶわーっと勢いよく飛びだす。


「くあー!」


 ドラゴンは霧に飛びこんでいき、無邪気にじゃれはじめた。

 とても楽しそうだ。


「フラスコ間の内容物の移動を利用した、フラスコ内混合操作。いろいろできそうだ」


 ドラゴンが楽しく遊んでいる間、俺はいつものように修行に移る。

 既存の技の精度をあげるのと、新しい技術の考案。

 俺は狂犬にして暴力ですべてを解決する不真面目野郎を目指しているので、こうした日々の努力が欠かせないのである。


「今日は森の探索をしよう」

「くあ〜!」


 修行を一旦切り上げた昼下がり、俺とドラゴンは、森を散策することにした。

 ご近所さんのことを知っておくのは大事だ。

 森ではご近所トラブルで命を落とす危険があるからな。


「むむ、あのオオカミはこの前のやつか」

「くあ!」


 危険な隣人を発見した。

 この前、川辺で俺たちを襲おうとしてた茶色いオオカミだ。


 大きな巣穴の近くで、呑気に居眠りしている。

 

 この前は注意して見ていなかったが、改めてみるとめっちゃデカい。

 昨日の怪物イノシシ以上にサイズがある。化け物かよ。


 木陰から観察していると、向こうから1匹のオオカミが歩いてきて合流する。

 さらに1匹やってきて、もう1匹やってきて……周囲までちゃんと観察したら、合計で6匹ものクソデカオオカミたちがいることに気がついた。


 隣人がほとんど指定暴力団だった件。

 これはだめですね。やばすぎます。


「ドラゴン、離れるぞ。余計なことしないほうがよさそうだ」


 この前、川辺で出会った時は1匹だったのにな。

 まさか群れをなしてるなんて。当たり前か。オオカミだもんな。

 

 俺たちは知らずのうちに、とんでもない奴らの縄張りに住み着いてしまっていたらしい。


 オオカミの巣穴から帰ってきた。

 鳥肌がおさまらない。いいしれぬ不安が拭えない。


 向こうはこの川辺に俺たちがいるのを知ってるんだよな。

 なにもしない限りは、向こうもなにもしてこないかな?

 いや、でもこの前はたしか爆破で威嚇攻撃してしまったような……。

 

「引越ししたほうがいいかな? でも、お風呂とか貯水池とかあるんだよな。焚き火の薪だってたくさん集めたのにな」

「くあーッ!」

「がうがう!」


 ドラゴンの威嚇と、獣のうなり声。

 俺は咄嗟に森のほうへ視線を投げた。


 さっきの怪物オオカミたちがいた。

 息のあった連携で囲むように展開してくる。 


「嘘だろ、襲撃しにきたのか!」

「くあーっ!」


 放っておいてくれないか。

 向こうは俺たちを排除するつもりだ。

 全部6匹。この数はまずい。よくないよ、数の暴力。


「そんなでかい図体で襲ってきて恥ずかしくないのか!」

「がうがう、がるるるぅう!」


 遠慮なく飛びかかってくる。恥ずかしくないようだ。


「くそ! コーディネートCoordinate!」


 ステッキで地面を叩く。火花がバヂンッと弾ける。

 怪物オオカミの一匹が爆炎で吹っんで宙を待った。


 しかし、意外と大丈夫そうですぐ立ちあがってしまう。

 怪物イノシシの時よりドラゴンブレスの封入量は多い。

 

 これでも倒せないのか。

 結構な威力出てると思うんだが。

 

「くあーっ!」

「がうがうー!」


 襲いかかってきたオオカミをドラゴンは頭突きで返り討ちにする。

 しかし、1匹を相手している間に、もう1匹が背後からせまり、ドラゴンの尻尾に噛みついた。


「やめろ!」

 

 俺はベクトルVectorで手元から火炎放射を行い、オオカミたちを焼いた。火炎の勢いだけでオオカミたちは押しかえされる。流石はドラゴンブレスだ。


 オオカミの1匹は尻尾に火がついて、きゃいんきゃいん鳴きながら、大慌てて逃げていく。


 倒し切ることができない。

 臆せずドラゴンに挑んでくる。

 そして子供のドラゴンなら囲んで倒すだけの自信を持っている。

 

 こいつらまじで指定暴力団だ。

 たぶんここら辺の近所で一番やばいやつらだろ。


 単体ならドラゴンの方が強そうだが、囲まれればたぶんやられてしまう。

 俺はドラゴンと背中合わせで互いを守りつつ、コーディネートCoordinateの座標爆破とベクトルVectorの火炎放射で、オオカミたちを迎撃した。


 だが、途中から俺の攻撃はことごとくが躱されるようになってしまった。

 どうにもこのオオカミたちも頭がいい。

 

 推測するに同じ攻撃を連続でする場合の回避率が高い。

 学習能力がある。俺の攻撃のレパートリーがバレてるんだ。


 遠距離ならコーディネートCoordinateの座標爆破。

 近距離ならベクトルVectorの火炎放射。


 まさかこれほど頭がいいなんて。

 野生の獣を舐めていた。


 もうフラスコを使い切ってしまった。

 コーディネートCoordinateを使えない。


 ただ相手も流石に疲れてそうだ。

 オオカミたちの動きは鈍いし、さっきから威嚇してくるばかりで近づいてこない。ドラゴンにさんざん頭突きを喰らって、俺が擬似ドラゴンブレスで焼いて、そうやって与えたダメージは確実に蓄積している。


 あとひと押しあればこいつらに撤退を選ばせることができる。


 俺はステッキでトンっと地面をついた。

 俺が接続し、解放したのは『火炎のドラゴンブレス』だ。

 コップで分けたほうではない。そっちは使い切っている。

 

 ドラゴンがたくさんくしゃみして吐きだしたドラゴンブレスを、フラスコ間の内容物の移動を利用して、1つのフラスコに凝縮した。


 それを解放する座標爆破。

 最大威力のコーディネートCoordinateこと━━━━、


トリリオンTrillion

 

 オオカミたちの背後を指定して最大の爆弾を放った。

 猛烈な火炎の塊が弾け、木々が薙ぎ倒され、衝撃がかけぬける。


 凄まじい破壊音と、熱と光で、混沌が森を席巻する。

 自然現象ではない。意図して作られた巨大な崩壊。


 怪物オオカミたちは爆風に吹っ飛ばされ、転がっていき、そのまま大慌てて駆けだして爆心地からさっていく。


「い、いてえ……」

「くあー!」


 俺も爆風で吹っ飛ばされかけたが、ドラゴンがうえに覆い被さってくれたおかげで、被害を少なく抑えることができた。


「ありがとうな、また助けられたな」

「くあ〜!」


 顔をあげる。赤々とした炎が森に広がろうとしている。

 俺は手をかざし『霧のフラスコ』を解放した。

 

 膨大な水蒸気は空気にふれた途端、冷やされ、微小の水滴となり、もくもくと広がり、燃え広がろうとする火災現場を一瞬で鎮火した。


 まさかこんなはやく使うことになるとはな。

 『霧のフラスコ』を作っておいてよかった。


「疲れたな、風呂に入ろう……」

 

 森の探索を切りあげて、湯に浸かることにした。


 翌朝から俺は修行への気持ちを新たにしていた。

 新しい方向性が必要だとわかったからだ。


「あのオオカミたちはインテリ軍団だ。知っているか、怒鳴って拳使うやつより、頭のいいヤクザのほうが怖いんだ」

「くあー!」

「あいつらはきっと俺たちを縄張りから排除しようとしてくる」

「くあ〜!」

「暴力で解決できないことはない。大丈夫だ、俺に任せろ」


 やつらが学ぶように、俺もまた学ぶのだ。

 もっと暴力を鍛えなければならない。


 暴力はすべてを解決する。

 たとえ危険な隣人トラブルだろうとな。


 2日後。

 俺とドラゴンはオオカミたちの巣穴へ向かった。


 やつらの体力が回復しきれば、きっと再び襲撃してくる。

 やつらが万全の状態を整えるまえに、こちらから攻撃する。

 戦うことがわかっているのなら迎撃に徹する必要はないのだ。


 巣穴に到着した。

 オオカミの群れを発見する。

 1、2、3、4……6匹。ちゃんとみんないるな。


「がるるぅう!」

「がうがう!」


 俺たちの接近に気がついたようだ。


「俺とドラゴンのキャンプは渡さないぞ」

「くあー!」


 俺は意識を集中させ、フラスコから猛き火炎を手持ちに収束させる。

 赤々と輝く極熱の塊を、とどめ、とどめ、我慢させ、臨界点を迎えた瞬間、ちいさく「コンバージェンスConvergence」とつぶやきながら、放った。


 赤い輝線が深い森をつらぬいた。

 まだ遠くにあるオオカミの巣穴に命中。

 

 臨戦体勢をとっていたオオカミの頭部を貫通し、着弾直後に爆炎をあげた。

 巨大な体躯が半分消し飛んで、地面に残骸が横たわる。

 

「まず1匹」

「がるるるっ!」


 オオカミたちは爆発に吹き飛ばされ、地面を転がりながらもすぐに体勢を整えてきて、一気に迫ってくる。


「ドラゴン、近づいてきたやつは任せるぞ」

「くあー!」


 俺は「フラクタルFractal」とつぶやき、ステッキで地面を刺すように深く突いた。実際先端は数センチ埋まったと思う。

 

 駆けてきたオオカミの行く手に無数の棘が飛びだした。

 完全な火炎ではないそれは、半個体の火炎である。


 俺の地面の下にドラゴンブレスを解放し、地面を溶かし、火炎に半個体を混ぜこむことで、炎にカタチを与えているのである。


 これを凝固した火炎と呼ぶ。


「2匹目」


 怪物オオカミたちの重たくて丈夫な身体は衝撃に強い。

 だから、分厚い脂肪と毛皮を穿つ攻撃力を用意した。


 オオカミが距離を詰めてきた。

 あと一手で俺の元までやってくる。


 俺は再びフラクタルFractalでの攻撃をしかける。

 オオカミは学んでいた。俺の動作を見て、足元からの攻撃を読んでいた。

 ぴょんっと軽快なステップで回避してしまう。


 大丈夫、計算通りだ。

 お前たちなら学習すると信じてた。


 俺は次にコーディネートCoordinateによる爆破をおこなった。


 こちらの動作にあわせて、4匹すべてのオオカミが一斉にぴょんっとステップする。誰に攻撃されてもいいように。賢い。


 しかし、みんなフラクタルFractalによる火炎の棘を読んでいたらしく、回避距離が少なめだった。ゆえに火炎の棘よりも、攻撃範囲の広いコーディネートCoordinateを避けることができなかった。


 オオカミの1匹がドラゴンブレスに飲みこまれた。

 遠隔での攻撃の種類を増やしたことで、相手の回避を難しくさせることに成功したようだ。ここまでは計算通り。


 ちなみにコーディネートCoordinateの威力は2日前の10倍にしてある。

 この爆炎ならやつらにも十分な威力を発揮する。

 

「3匹目」


 森が火炎に飲みこまれるなか、ついにオオカミは俺のもとまでやってきた。


「くあー!」


 ドラゴンが頭突きして、1匹を弾きかえす。

 さらに尻尾を駆使して2匹目も吹っ飛ばしてくれる。

 

 だが、1匹は通り抜けてきて、ドラゴンではなく俺へ向かってきた。

 大きな身体ながらに、左右にステップを刻んで、ベクトルVectorによる火炎放射のマトを絞らせないようにしてる。


 俺は腰を落として、内心でヒヤヒヤしつつ「かかってこい!」と、その動きから視線を外さない。


 怪物オオカミはついに噛みついてきた。

 俺は手をかざし火炎放射で迎え撃つ。


 だが、オオカミはそこまでお見通しだったようだ。


 ぴょんっとちょっと高く飛び跳ね、火炎放射を華麗に回避しつつ、大きな口をあけた。生え揃った鋭い牙が俺の頭をもぎ取らんとしてくる。

 

 知ってる。お前ら昨日さんざん火炎放射喰らってたもんな。

 十分に警戒して対応してくると、思っていたさ。


 そのための新技トラペゾイドTrapezoidだ。

 俺はステッキでオオカミの腹を下から殴りつけた。

 

 ステッキは瞬間的に爆炎に包まれ、急加速する。

 俺の腕力でステッキを振ったところで、とてもこの馬鹿でかいオオカミをどうにかすることなんてできないが━━しかし、ドラゴンブレスなら可能だ。


 ドラゴンブレスの噴出力ならば、怪物オオカミすら吹っ飛ばす!

 

「きゃいん!」


 まさか俺みたいな、自分よりずっと小柄な人間に吹き飛ばされるとは思っていなかったのだろう。オオカミは遠くまで飛んでいく。

 

「はい、やり直し!」


 接近されなければずっと俺のターンだ。

 

 俺はドラゴンの援護をしつつ、遠隔の敵にフラクタルFractalコーディネートCoordinateベクトルVectorの3種類の攻撃をふりわけておこなった。


 座標爆破と、地面下から突きだす棘束と、火炎放射。

 うまく振り分けて、ちょこちょこ被弾させた。


 そんなこんなで残り2匹となったところで、ついにオオカミたちは逃走をはじめた。俺たちには勝てないと格付けが完了した瞬間だった。


 しかし、こいつらは前科持ちだ。

 俺たちの川辺を襲っている。


 こいつらが森にいる以上、安心できる夜はやってこない。


 俺はステッキで地面を深く刺した。

 火花がバヂンッと散ってドラゴンブレスが解放される。


マトリックスMatrix


 俺の近くの地面から燃え盛る棘が次々と飛びだし、それらは獣道をオオカミよりも迅速に駆け、巣穴を包囲し、棘付きバリケードのように展開した。

 オオカミの1匹が燃え盛る棘のにグサグサっと貫かれ、激しく燃えあがる。


 最後の1匹はバリケードを飛び越えようとする。

 俺はグッと拳を握りこみ、フラクタルFractalを重ねて行った。

 バリケードの棘は急速に成長し、飛びあがったオオカミすら飲み込んで、串刺しにした。すぐのち大発火してその命を燃やし尽くす


 俺はドラゴンの背中に腰を下ろし、深くため息をついた。

 この2日間、寝る間を惜しんで、暴力の牙を研ぎつづけた。


 不安で仕方なかった。眠る選択肢はなかった。

 オオカミは鼻がきく。寝れば最後、襲われると思ってた。

 

「ようやく寝れる……お疲れさま、ドラゴン、俺たちの勝ちだ」

「くあ〜」


 心なしかドラゴンにも元気がない。

 こいつも眠らずに頑張っていた。

 

「帰ろう」

「くあ!」


 今夜は気持ちよく眠れそうだ。



 ━━ルニラスタ・オーフラビアの視点



 フラスコの魔術師の孤城へいたるための手がかりをもとめ、ルニラスタは暗い森に足を踏みいれた。


 自然豊かなこの森にはフラスクニスの街の者は近づかない。

 やってくるのは命知らずと、最高位の冒険者くらいだ。


「音」


 ルニラスタの耳が物音をとらえる。

 駆け寄る。大木の向こう側、血みどろの海が広がっていた。

 地面に横たわる影が並んでいる。動く気配はない。


 奥で木に背をあずけ、いまにも倒れそうな女の姿を見つけた。

 冒険者だ。パーティはすでに壊滅し、最後のひとりのようだった。

 

 悲劇の主は巨大なクマの怪物だ。

 口元にも前足も鮮血で濡れており、その牙は女に迫りつつあった。


 ルニラスタはひと目見て、状況を把握し、抜剣し飛びこんだ。

 駆けつける騎士に、怪物はすぐに気付いた。


 体躯の差は歴然。背丈も横幅も話にならない。


 クマのひっかき攻撃。空気を切り裂きながら最短距離で迫る。

 人間ならジャブに等しいそれは、当たれば四肢が吹っ飛ぶ威力を秘めている。


 ルニラスタは機敏に機敏に回避し、一閃、クマの頭を斬り飛ばした。

 分厚い筋肉と脂肪、太い首の骨すらものともしない豪快な一撃。

 とてつもない腕力で振り回された剣は、砕け、半ばでへし折れていた。


 巨大なクマは大量の血飛沫をあげて倒れる。

 ルニラスタは返り血に塗れながらも、生存者の女に近寄る。


「ひ、ひぃぃ!」

「大丈夫ですか」

「こ、来ないで、あ、あぁ、あああああああ!」


 女は震えながら、ルニラスタの接近を拒否、恐怖に顔を染めて、そのまま走り去っていってしまった。


「……」


 ルニラスタは寂しい気持ちを抱いたが、しかし、いつものことなので気にしないことにした。


「無事に街まで戻れればいいですが」


 折れた剣を捨てて、死んだ冒険者の剣を「借りますね」とつぶやき拾った。

 死体の懐をまさぐり、装備を確認する。

 どれも上質なもので、被害者たちが熟達の冒険者だったことは明らかだ。


 被害者のポーチからメダリオンを発見する。

 冒険者等級を示すものだ。

 

(いまの冒険者たち、フラスクニスの最高位冒険者だったみたいですね……。流石に魔境たる暗い森に挑むのは無謀だったみたいです)


「私も長居はしていられないですね」


 ルニラスタは死した冒険者たちのメダリオンを回収する。

 それらは組合に提出することで、彼らの死亡を示す証拠になる。

 冒険の終わりを迎えたものへの彼女なりの礼儀だった。


「ん、また物音が……」


 ルニラスタは遠くで奇妙な物音を聞く。

 くぐもったような低音で、地面を通して微妙に衝撃が伝わってくる。

 複数回にわたり、衝撃と振動は続き、やがて静かになった。


 ルニラスタは赤い髪の受付嬢の話を思い出していた。

 物音のするほうを目指して、歩き続けた。

 

 やがて霧の深いエリアを発見した。

 

「朝霧には遅い時間ですね。それにどうしてここだけに?」


 疑問に思いながらも、うっすらと霧の広がった冷たい空気に足を踏みいれる。

 強烈な焼けた匂いのなかに、血の匂いが混ざっていることに彼女は気がついていた。


 だから、生物の死体があるのだろうとは推測していた。

 しかし、彼女はそれらを見つけた時、驚きを禁じ得なかった。


 見たこともないサイズの巨大なオオカミの怪物が横たわっていた。

 それも全部で6匹だ。全身丸焦げになっている死体もある。

 体が半分なくなっている死体もある。どれも漏れなく凄惨だ。


 ルニラスタは冷や汗をかきながら、そっと死体に近づき、完全に死んでいることを確かめる。

 

(まさかこの怪物はヤバイヌ……?)


 ルニラスタは暗い森について調べた時に、恐ろしい怪物の伝承を見つけていた。目の前の死体は伝承の怪物とぴったりと特徴が一致した。


(フラスクニス冒険者組合が危険すぎるとして70年前に討伐禁止対象に指定している怪物。別名:悪魔の獣。古い文献では、1匹の悪魔の獣によって、一晩で滅んだ街もあったとか)


 とんでもない化け物。

 それが死んでいる。


 つまり悪魔の獣ヤバイヌを上回る存在がいるということ。

 それも街を1匹で滅ぼす怪物の群れを、凄惨に殺す者が。


「火を操る怪物……ドラゴン?」


 ルニラスタはゴクリと生唾を飲みこみ、震える手足を律し、森の奥へ進むことを決めた。そこに自分の求めるものがいる予感を信じて。




















━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ドラゴンブレス派生技


ベクトルVector

 意味:方向と大きさ

 発動速度:A

 射程距離:A

 操作しやすさ:A

 ドラゴンブレスを手元で解放する基本技。

 前方にドラゴンブレスを放つ。火炎放射。威力と方向を調整できる。


コーディネートCoordinate

 意味:座標

 発動速度:A

 射程距離:A

 操作しやすさ:C

 地面をステッキで突いて指定座標を爆破する基本技。

 自身から遠い場所を直接攻撃するため精度は低め。


コンバージェンスConvergence

 意味:収束

 発動速度:E

 射程距離:S

 操作しやすさ:A

 手元で火炎を収束し、熱線を放つ技。

 チャージ時間がいるが、長い射程、高火力。


フラクタルFractal

 意味:部分と全体が再帰するもの

 発動速度:B

 射程距離:A

 操作しやすさ:C

 地面から凝固した火炎の棘束が飛びだす。半固体火炎。

 単発で使用し、遠隔から直接相手の足元を狙う。


トリリオンTrillion

 意味:1兆、10の12乗、でかい数字

 発動速度:A

 射程距離:A

 操作しやすさ:C

 杖で地面をつき、遠隔地にドラゴンブレスを飛ばして爆発させる。

 威力が高すぎて、高い確率で自身も巻き込まれるため注意が必要。

 ドラゴンブレスの消耗が激しく、プールフラスコ1本消耗する。


マトリックスMatrix

 意味:行列

 発動速度:B

 射程距離:A

 操作しやすさ:B

 大量のフラクタルFractalを地面から次々と生やす。

 自分の近くから線引きを始めることで体感操作精度をあげれる。

 地図上に線を引くように、地上での相手の動きを制限する。


トラペゾイドTrapezoid

 意味:台形

 発生速度:S

 射程距離:D

 操作しやすさ:S

 ステッキに火炎を瞬間的に纏わせて叩く。近接技。

 腕力ではなく噴出するドラゴンブレスでステッキをふりまわし、またドラゴンブレスの圧力で近づいてきた敵を燃やしながら吹っ飛ばす。

 

 

 

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