逃走と逃走

 冷たい強風が顔を叩きつけた。


「な、なんだぁああ━━━━!」


 風に顔面に受けて吹き飛ばされ、俺はゴロゴロと転がった。

 なお強風は打ち付けるように吹いている。


 薄目を開けて、風上を見やる。

 異常な冷たさ、白い礫、これは吹雪だ。

 ブリザードのごとき猛烈な吹雪が吹いている。


 俺はがむしゃらに風から逃れ、物陰に避難した。

 呼吸を整え、頭を整理する。

 

「なにが起こってやがる! うぅう寒すぎる……!」


 一瞬で変化した景色に戸惑う。


 物陰から周囲をうかがう。

 吹雪の吹き込んでいるのは壁に開いた穴からだ。

 石造の円形の空間。穴の外の景色はホワイトアウトしていてどうなっているか見えないが、うっすらと全体像のようなものは確認できた。


「ヨーロッパのどこか……古城、みたいな雰囲気だな」


 慎重に観測を進めた結果、わかったことがある。

 

 ここは塔のうえだ。高い塔のうえ。

 俺は世界遺産っぽい城の、高い塔のうえにいるのだ。


 しかし、問題がある。

 その塔が崩れかかっている。

 風に開いた穴が少しずつ広がっているのだ。

 前衛的なデザインではなく、外的要因によって破壊されたように見える。


 風景は現世のものとは思えないものだ。

 もう異世界に来たのか? まじかよ。


「はぁ、はぁ、一体、どういう状況だ……」


 俺は恐る恐る周囲を見渡す。

 周囲にはベッドに机に、タンスらしきものが伺える。


「塔の最上階……っぽいな。高さは20mはあるな。落ちたら死ぬぞ」


 いや、穴から落ちなくても寒さで凍え死にそうであるが。


 死亡RTAをするつもりはない。

 俺は穴から離れてあたりを物色することにした。


「あの天使、全然説明なかったな。状況が意味不明すぎるだろ……ん?」


 足元にガラス瓶が落ちていることに気づく。

 フラスコだ。黄金色のモヤモヤしたものが入っている。

 しっかりとコルク栓がされているので、モアモヤが外に出てくる心配はない。

 なんだろうか。気体……だとは思うが、うごめいているように見える。

 

「そういえば魔術とか魔力とか言ってたな。この世界はつまり」


 剣とか魔法がある世界、というわけだろうか。実に興味深い。


「可燃性のガスとかだったら怖いな。爆発したりしないだろうな?」


 もうひとつ奇妙なものを発見した。

 トランクだ。大きなトランクだ。

 中にはたくさんのガラス瓶が入っている。

 フラスコだ。どれもコルク栓がされていて、中身は空である。


「推測するに、このフラスコは何らかの魔術の道具に思えるな」


 俺は黄金色のモヤモヤが入ったフラスコと、トランクのなかに納められた大量の空のフラスコを見比べる。こっちのモヤモヤが内容物だとすれば、この空のフラスコはその内容物を納めるための容器の役割を果たすと推測できる。


 空のフラスコのコルク栓を抜いてみる。

 別になにも起こらない。やっぱり空だな。

 

「グオぉぉぉおお━━━━━━!」

「ッ、な、なんだ?」


 突然、凄まじい重低音が空を突き破って響き渡った。

 ビクッと跳ねあがる。心臓が飛びでるかと思った。

 

 吹雪のふきこんでくる穴の外、巨大な黒い影が横切っていくのが見えた。

 あれは生き物か? めちゃデカい。想像を絶するサイズ感だ。

 よく見えなかったが、空を飛んでいるようだった。

 あのサイズの生物が空を飛ぶのか? 鯨みたいなデカさだったぞ?


「やば……え……なにここ、え?」

 

 見つかったら殺される。

 簡単にぶち殺される。

 本能的な恐怖でわかる。


 この恐怖感は熊に抱くものと似ている。

 あの巨大な影には熊より克明な危険を感じた。


「グォぉおおおお━━━━!!」

「声が近くなってきたな」


 ズドン! 


 凄まじい衝撃が背中から叩いてきて、俺は前のめりに転がった。

 いてえ。まじでいてえ。おでこ打ったぁ。


「いっつぅ……ん?」


 ゴルルル、ルルルルル


 うなり声のようなものが聞こえる。例えば30m級のビッグお猫がいて、すぐ近くでゴロゴロ喉を鳴らしていたらこんな感じだろうか。


 背筋を冷たいものがつたう。

 おかしいな。さっき穴から吹き込んでいた極寒の風が塔に入ってこない。


 俺は恐る恐る、穴の外を見やる。

 巨大な蒼い瞳孔と目があった。

 壁の穴に張り付いて、目を見開いてこちらを見ていた。


 小学生たちの憧れの顔立ち。

 剥き出されるのは鋭い牙。

 頭には威厳を誇示する大きな角。


 ドラゴン。これはドラゴン。絶対にドラゴン。

 異世界ってドラゴン、本当にいるんですねえ。


「や、やあ……こんにちは、今日はいい天気ですね、って吹雪いてるだろーい、どこかいい天気じゃーい……なんつってぇ……あはは…………」

「グォぉぉぉぉおぉぉぉぉおお━━━━!!」


 ゴミみてえな発言を咎められたのか。

 ドラゴンは口を大きく開け、咆哮をあげた。

 ばさっと塔から飛び退くと、距離をとり、大きく息を吸いこむような動作をすると、パカっとおおきく口を開いて、青白い吐息を吐きだした。


「ドラゴンブレス、だと……━━━━」

 

 あ、これは死にますね。

 ありがとうございました。

 二度目の人生、死亡RTA記録更新です。

 いやぁまた凄い選手が出てきましたね。


 死を確信し、俺は本能的に顔を守ろうと手をまえに突きだした。

 すごい音がした。ジュビぃぃぃいいン! って感じの音。

 薄目を開けると、ドラゴンブレスが俺の前のまえで急速にちいさくなって、フラスコのなかに吸い込まれていくではないか。吸引力が変わらないどころの騒ぎじゃない。もはやブラックホールみたいだ。


 やがてドラゴンブレスは止んだ。

 フラスコのなかには青白い輝きのモヤモヤが詰まっていた。

 何がなんだかわからないが、俺は直感的にコルク栓を閉めた。


「はっ…………ははは、すごい、なんだこのフラスコは。見たか、ドラゴン、俺はいまお前のドラゴンブレスをこのフラスコで完全に防いで見せ━━━━」

「グォぉおおおお━━━━!!! グォおおおお!」


 ドラゴンがブチギレたように激しく咆哮をあげた。

 直後、頭から塔につっこんでくる。やばたにえん。


「よせよせよせ、馬鹿野郎、無茶するんじゃあない! うああああ!」


 俺は本能のままに階下への階段へダッシュする。

 と、その時、トランクの存在を思いだす。

 

「くっ!」


 走ってもどり、トランクをガバッと掴んで、大急ぎで階段を駆け降りた。

 直後、頭のうえを高速で何かが通過した。

 

 顔をあげれば、俺の頭上の2mあたりから上の塔がなくなっていた。

 ドラゴンミサイルのせいで、消し飛ばされたのだろう。


「あぁああああああ━━━━!」

 

 俺は心臓をバクバクと鳴らし、白い息をぜぇぜぇ吐いて、呼吸を荒くしながら、無我夢中で塔を駆け降りた。一定間隔で塔はうえのほうからスライスされている。足をとめることは、そのまま即死を意味する。


「降りきった!」


 階段の終わり。

 塔の最下層。


 そこに人影があった。

 暗くて寒いフロアの真ん中で、白いマントを羽織っている。フードで頭をすっぱり覆い隠しているが、華奢な体型的には女性だろうと思われた。

 俺が降りてくるのを待っていたかのように、こちらに体を向けていた。


「おい、あんた! ここは危ないぞ!」


 俺は呼びかけた。

 この俺をして敬語がでない緊急事態だ。


「イカれたドラゴンが暴れ回ってる! ソーセージを包丁で刻んでいるみたいに塔をスライスしてるんだ! ドラゴンクッキングの犠牲者になりたくなかったら逃げたほうがいい!」


 俺は走って塔の外へ逃げようと扉に手をかけた。

 扉が開いた途端、凄まじい吹雪がはいってきた。


 髪の毛オールバックになりながら、尻餅をつく。

 終わったわ。風強すぎて、お亡くなり。

 

「くそぉ! そうだった外は地獄のブリザードだった……!」


 詰んだ。逃げられねえじゃん。


「イグノルティスジンフラスクアグナベラトニーア?」

「え?」


 白いフードを被った女性がなにか言った。

 言葉が違う。一撃で察する。


「ニルトスクラニルトル?」

「……I'm not good at English, slowly please?(英語が得意じゃないのでゆっくりしゃべってもらえます?)」

「クラトス、ベルトモーラ、デストール?」


 英語じゃないよな。いや、わかってたけどさ。

 困ったな。これは異世界の言葉か?

 まじか、言葉とか文字とか自動翻訳してくれるタイプじゃねのか。


 白マントの女性は、そっと手を口元にあて、ひとつ咳払いをする。


「んっん。こほんこほん。……なるほど、言葉も忘れたのね、ジン・フラスク。いえ、いまのあなたはマトリマサトかしら」

「え、喋れるんですか」

「ええ。あなたに教えてもらったから」

「?」

「そのフラスコを渡してくれたら、あなたのことを助けてあげるわ」


 白マントの女性はフードを外す。

 息を呑むほどに美しい少女だった。

 おしゃれに編み込まれた銀髪に、黄金の瞳の輝きが映える。


「あなたを襲っている頭のおかしいイカれ馬鹿あんぽんたんドラゴンは、かなりキレてるわ。ブチギレよ。あなたがなにかしたんでしょうね」

「いや、俺はなにもしてない!」

「そのことは一旦置いておいて。その金色のモヤモヤが入ったフラスコ、渡してくれる?」

「これか?」

「それは違う、ドラゴンブレス」


 ゆらゆら揺らめく青白い輝き。

 フラスコはひんやりと冷たい。


「これ開けたらどうなるんだ」

「絶対にやめたほうがいい」


 少女は強い口調で言って、俺の手首をがしっと掴んだ。力が強ぇッ。


「い、いたたた……っ、折れる、折れる!」

「あっ、ごめんなさい。つい」


 本当に怖かった。

 握力200kgくらいあったんじゃないか。


「こほん。とにかくそれは開けないほうがいいわ。それはドラゴンブレス。強力な凍結のチカラが封印されてる。栓を開けたらチカラが飛びだすわ」


 あぶねえ。ほとんど爆弾だ。


「私が欲しいのはそっち」


 黄金色のモヤモヤが入ったフラスコを掲げる。


「これはなんなんだ」

「それもドラゴンブレスみたいなものよ。とにかくそれをくれればこの凍りついた孤城からあなたを逃がすことができる」


 俺は速攻でフラスコを手渡した。命が惜しい。

 

「たしかに受領したわ」

「お前は、誰なんだ? それにこの城は?」

「時間がないわ。頭のおかしいイカれ馬鹿あんぽんたんドラゴンが来てる」

「答えてくれ、お前は俺の味方なのか? あの天使の仲間?」

「……。転生の補佐とでも思ってもらえばいいわ。ちょっとした手違いがあって、危険な地に転生してしまったから、現地で修正をかけるのよ」


 はぁなるほどな。ちゃんとしてるな異世界転生って。


「はい。これをあげる。交換こ」


 少女は焦茶色の外套をとりだす。

 膝裏くらい丈のあるロングコートだ。


「認識阻害が付与されている。それに寒さもへっちゃら。これを着て20秒以内にあの扉を飛びだして、ひたすらに道なりに走れば、街にたどり着けるはず」


 すぐ頭上でまた塔がスライスされた破壊音がする。

 たしかに時間はなさそうだ。


「さあ走って。死にたくなければ」

「そっちはどうするんだ?」

「私のことは気にしないでいいわ。さあ行きなさい」


 俺は走った。

 塔を飛びだしてひたすら走った。

 背後であの恐ろしいドラゴンの咆哮が絶え間なく轟いていた。


「あぁもうなんて俺がこんな目に……のどかな春の大地はどこいったんだ」

 

 どれだけ走ったからわからない。

 いつかからか吹雪は止んで、雪景色もなくなっていた。

 地形は様相を変化させ、俺は深い渓谷へいざなわれていた。


「すげえ……本当に街があった」


 渓谷に斜面、立体的な構造をもつ人工物の群体を発見。

 あの銀髪の少女を疑っていたわけじゃないが、奇妙な感動があった。


 背後をふりかえってもドラゴンが追いかけてきている雰囲気はなかった。

 遠くの空に暗澹とした雲が広がっている。

 あの陰鬱な雲のしたがブリザードの吹き荒れていた城なのだろう。

 もうずいぶん遠くに思える。ここからではドラゴンの姿は確認できない。


「助かった、のか」


 俺はしゃがみこむ。

 汗がびっしょりだ。

 服が肌に張りついて気持ちが悪い。


「認識阻害の能力、か。たしかにあのドラゴンに見つからなかったし、寒さもあんまり感じなかった。不思議現象。これが魔術のアイテムか」


 すごいものをもらったのではないか。

 しかし、あの少女はどうするつもりだろうか。

 あんな場所にいたらまず助からない。

 

 今頃はきっとドラゴンにぺろっといかれているか……いや、でも天使の仲間とかいう話をしていたか。それにこの世界には魔術がある。

 美しいだけでなく、賢そうな印象を受ける少女だった。それに俺なんかよりずっと落ち着いていた。あの少女は、あの少女で状況を切り抜けたんだろう。


「この世界のこと何も知らない俺なんかが心配しても仕方ないか」


 あの街にいけばひとまずは安全と考えていいはずだ。

 俺は息を整えて、立ちあがり、トボトボ歩きはじめた。


 これより俺は異世界文化圏に足を踏みいれる。

 街に入るためにはしっかりした門を通らないといけないらしかった。


 門のまえに二人組の男たちがいる。

 顔立ちが日本人っぽくない。当然か。

 手には槍。近くの壁には剣も立てかけてある。


 なにか話しかけられるかな、とか思いながら横を通りすぎることに成功する。

 よし、街に入れた。


 たくさん人間がいる。

 そして気がついた。

 みんな知らない言葉を話してる。


 そうだ。自動翻訳とかないんだった。

 あの銀髪の少女は途中から意思疎通できたけど……なんであの女の子だけは言ってることが理解できたんだろうか。


 どすっ。


 考えごとをしながら歩いていると、肩が通行人とぶつかってしまう。


「あぁすみません」


 とっさに謝りながら顔をあげる。

 デカい男が立っていた。額に傷のあるスキンヘッドマンだ。

 くそ恐え顔で「てめえなんだこの野郎」みたいな雰囲気で、睨みつけて、大声でなにかをまくしたてている。


「クルニアストロ、ヴェネステレリ!」


 何言っているのかわからない。

 でも、これだけはわかる。

 怒ってますねえ。


 しまいには大男の仲間っぽいやつらが、俺に注目して周囲を囲もうとしてくる。これはリンチの流れだ。中学生、高校生と、お世話になったあれだ。

 

 あくまで会話による平和的な解決が、紳士たる俺のモットー。

 だが、例外はある。それは会話の通じない相手だ。


 男が掴みかかってきた。

 俺は抵抗し、大男の股間をヒザで蹴りあげた。

 悶絶し、崩れ落ちる大男。


「治安悪ぃな異世界!」


 俺は背を向けて駆けだした。

 言葉の通じないやつと和解なんてできない。


「ネステクロバトロ!」


 なにか叫びながら男たちが追いかけてくる。

 あーもう! なんだよこれ! 追いかけられてばっかだよ!

 ねえスローライフは!? のどかな春の大地はどこだよ!


「すみません! すみません! すみませんって謝ってんだろうがよ!?」


 日本語が通じるわけもなく。

 次第に俺もイライラしてきて、キレながら逃げていた。

 

 そんな時だ。

 目の前から何かが走ってきた。

 

 大地を駆ける影が見えた。

 赤い四肢で一生懸命に走ってる。

 2本の角に、全身を覆う赤い鱗、凛とした瞳。

 全体的に爬虫類っぽいテイストを醸しながらも、背中には翼を背負ってる。

 尻尾を振り乱しながら近づいてくるさまは、犬っぽい。

 

 だが、騙されてはいけない。

 どうみたってあれは犬じゃなくて━━━━


「ドラゴンだと……っ」

「くあ〜!」


 俺を殺しにきやがった! 追いかけてきたのか!?

 いや、違う。ドラゴンの背後に、槍をもった兵士たちがゾロゾロひっついてる。みんなすごい剣幕で何か叫びながら……ドラゴンを追いかけてるのか?


「くあ〜!」


 ドラゴンは見るからに兵士たちにビビっており、その表情が泣いているように見えた。間違いない、兵士に追われているんだ。


 俺とドラゴンは正面でからぶつかり合うように合流。

 同じ方向に逃げはじめる。


「やめろ、バカ、ついてくるんじゃあない!」

「くあぁ〜!」


 右に曲がっても、左に曲がっても、微妙に俺のあとを遅れてついてくる。

 しまいには兵士たちも俺のことを指差してなんか話してる。「あいつなんだ」「わかんねえけど一緒に逃げてるぞ」「わかんねえけど捕まえちまえ!」みたいな会話だろうか。ありえそうで怖い。ふざけんなよ。


「俺は無関係だ! ドラゴンと関係ない!」

「くあ〜!」


 言葉が通じないとはこれほどまでに不利なのか。

 土地勘のない街のなかをいつまでも逃げ切れるはずがない。

 どこかでお縄につく流れだぞこれ。


 なにか打開策はないか。

 荒い呼吸と、バクバクと鳴る心臓。

 極限状態で思考を働かせ……俺はポケットに手を突っこんだ。

 

 ひんやりしたフラスコを握りしめる。

 

『━━━━とにかくそれは開けないほうがいいわ。それはドラゴンブレス。強力な凍結のチカラが封印されてる。栓を開けたらチカラが飛びだすわ』


 銀髪の少女の言葉が思い起こされる。

 俺はフラスコの栓を開けようとし、一瞬躊躇する。


「ええい、ままよ!」


 コルク栓を噛んでポンっと小気味良い音を鳴らして、背後に放りなげた。

 俺は死に物狂いで走りながら、チラッと背後を見やる。


 青白い輝きを宿したフラスコが、地面に落下する。

 ぱりん。割れた。その時だった。

 眩い光とともに、冷気が爆発的に広がった。


 瞬きすら許されない一瞬のうちに、巨大な氷塊が咲いていた。

 大通りのど真ん中に咲いた華は、見る者すべての視線を強力にひきつけ、強烈な吹雪となって、その場にいた全員の顔を強くたたいた。


 通りは大騒ぎだ。

 みんなパニックになっている。

 

 逃亡のチャンス。

 好機を見逃さず、俺は路地裏に駆けこんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、ここまでくれば安全だな」


 今日どんだけ走るんだよ。スローライフ、どこいったんだ……。


「くあ〜♪」

「ぁ?」


 ドラゴンが俺のスネにおでこを擦りつけている。

 こすりこすり。そしてまたこすり。こすり。

 どうやら懐かれてしまったようだ。



















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 作者のファンタスティック小説家です


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