第4話 異世界転移アプリ
「いいか、綾。今から目の前で何が起きても驚くな。これ、父さんのビデオカメラだ。撮影しておくから、もし僕が消えたらこれを大人達に見せろ」
「お兄ちゃん、どうしたの? 怖い顔……なにがあったの?」
「兄ちゃんは、友達を助けに行く。多分相当腹が減ってる筈だ。どんな世界か分からないけど、準備できそうな物は用意した。いいか、兄ちゃんは絶対帰ってくる。だから、綾も頑張ってくれ」
「お母さん呼ぼうよ! 翼くんがいなくなった理由、なにか気が付いてるんだよね?! 危ないよ! やめようお兄ちゃん!」
「……時間がないんだ。あいつらが消えて、もうすぐ丸一日。飲まず食わずなら、そろそろ喧嘩が始まってる。大人達は頼りになるけど、判断が遅い。綾、悪いけどスマホを貸してくれ」
「お兄ちゃん、どっか行く気だよね! やだよ! スマホあげるから、どこにも行かないで!」
計は、優しく綾の頭を撫でた。
「なにも起きないかもしれないんだ。だからあまり、構えなくて良いよ。けど、念のため兄ちゃんから離れておけ」
「お兄ちゃん……! やだぁ……!」
「なぁ、綾の友達が困ってたら、綾はどうする?」
「助ける……!」
「兄ちゃんも同じだよ。多分綾が見た事を話しても、誰も信じてくれないかもしれない。けど、頑張ってくれ。綾が助けてくれれば、翼達を助けられる」
「……分かった……お願い……なにも起きないで……!」
綾の願いは、叶わなかった。目の前で兄が消え、綾は泣きながら両親の部屋に駆け込んだ。
「腹が……減った……」
「くっそ、あの狼を食えれば良かったのに」
「消えちゃったよ。この石を残してね。売れるみたいだけど、どうする?」
「街を探すか?」
「すんなり街に入れると思うか? 入国税とか取られるんじゃねぇの?」
「なんだよそれ」
「ここがどこか、さっぱり分かんねえけどさ……マジで異世界転移してるんじゃねぇ?」
「異世界転移って、あのアプリ?」
「かおりが、QRコード読み取ったりするから……!」
「なによ! みんなもノリノリでゲーム始めたじゃん!」
「あーくそっ! そんなんどうでも良いよ! 腹減った!」
「私も……」
「翼のポテチは、食べ尽くしたしな」
「鞄にあったお菓子、みんなさっさと食べちゃうんだもん。少しは残しておけば良いのに」
「今更そんな事言うなよ!」
「あーもう! みんなうるさい! これから、どうするの! お家に帰りたいよぉ……!」
かおりが泣き出し、翼と公平は顔を顰めた。聡子は溜息を吐き、心の中で呟いた。
『計くんがいたら、良かったのに』
聡子の心を読み取ったかのように、目の前に大荷物を抱えた計が現れた。
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