第3話 確信
「綾! 頼む、スマホを貸してくれ!」
いつもと違う深刻な兄の顔。計の妹の綾は不安を覚えながら兄にスマホを貸した。メッセージアプリには、兄宛のメッセージが溜まっている。
綾は、兄に届いたメッセージは決して開かない。
計は急いでメッセージを開く。昨日は課外授業のまとめ作成に必死で、スマホの事など忘れていた。昨日……気が付いていれば。
いや、これで良かったんだ。自分だけが事情を知っている。友人達を救えるのは自分だけだと計は自分に言い聞かせた。
メッセージを開き、かおりが送ったアプリを開く。
ポップなイラストに、2Dで描かれる可愛らしいプレイ画面。『異世界転移アプリ』と書かれた文字が、不気味に見えて仕方ない。
こんな事、現実的じゃない。
だけど……友人達が消えたのは事実だ。そして、翼のアプリは友人達が戸惑っている様子が手に取るように分かる。
狼のような獣から、走って逃げている友人達。計は、何かできないかと異世界転移アプリを操作する。魔法、という欄を見つけた。狼に向かって魔法を使うと、狼が消えた。
「はぁ……はぁ……。なんだこれ。急に火が……」
「凄い! 翼がやったよね?! それに、走れるじゃん!」
かおりがテンション高く騒ぎ始めた。
「ほんとだ……いつもは足が引きつるのに……なにも問題ない」
「これ、魔法か? なぁ、どうやってやったんだよ翼!」
公平が興奮気味に騒ぎ出す。大騒ぎする三人を他所に、聡子は狼が消えた後に現れた光る石を手に取った。
「なにこれ?」
聡子が石を手に取った瞬間、頭の中に情報が流れ込んできた。
「ねぇ! この石、売れるっぽいよ!」
聡子の話を、誰も聞かない。みんなは翼の出した魔法らしきものに夢中だ。
またかと聡子は思った。聡子は大人しく、学校でも、家でも発言を無視される事が多い。だから、慣れている。平気だと心に言い聞かせた。
「……あいつら、また聡子の話を無視しやがったな」
可愛らしいドット絵を眺めながら、計が呟いた。計は、昨日カードを拾った神社に来ていた。カードの忘れ物は、自分のものだった。妹が遊びで作ったカードで、自分のものだと思わなかった。そう嘘を吐いて預けたカードを引き取った。
「あの、お姉さんはこのQRコードを読み取りました?」
「QRコード?」
「なんでもないです! これ、妹が作ってくれて読み取ったらメッセージが見れるんです。知らない人に見られたら恥ずかしいなって」
「ああ、そゆこと。大丈夫、見てないよ。見ようかって声もあったけど、コンピュータウィルスだと困るしやめたの。ちょっと怪しいし、警察に行くか迷ってて。良かったわ。可愛らしいメッセージで」
「見られなくて良かったです。ありがとうございました」
計は自宅に帰ってすぐに、カードをシュレッダーにかけた。
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