第2話 消えた友人達

次の日、学校に来た計は驚いた。親友の翼は休みだと知っていたが、公平も、かおりも、聡子も休みだったのだ。


「なんだー、計の班は昨日変なものでも食べたのか?」


呑気に笑う担任の声が、上擦っている。翼の母親も、目が真っ赤に腫れていた。計は嫌な予感がして、休み時間に担任を問い詰めた。


「先生、翼と公平、かおりと聡子はなんで休みなんですか?」


「……体調が悪いんだろう」


嘘をつくのが下手な担任だ。そう計は思った。担任を問い詰めた計は、四人が行方不明になっていると知った。


警察も動いているが、子ども達を混乱させたくないからまだ内密にして欲しい。そう頼まれた。


計は、学校を早退して翼の家を訪ねた。


「おばさん、大変な時にごめん」


「良いのよ。計くんなら大歓迎よ。ねぇ、教えて。翼は……なにか悩んでた?」


いつも、翼は悩んでいた。走れなくなった足を、何度も何度も叩いて、泣いていた。けど、翼は家では明るく振る舞っていた。親に心配をかけたくない。そういつも言っていた。


翼の努力を、踏み躙れない。翼は自分に黙って姿を消す事はない。そう計は確信していた。


姿を消した四人の共通点……それは……。計は、自分の想像があまりに荒唐無稽だと呆れ、嫌な考えを頭の隅に追いやった。


「僕には分かりません。あの、翼の部屋を見せてもらえますか?」


「どうぞ。私が荒らしちゃったから、散らかってるけどごめんなさいね」


翼の母親も、どうにか息子の居場所を知りたい。そう思っているんだろう。


翼の部屋は、いつも通りだった。だけど……。


「鞄と、制服がないの。それから、部屋で食べるって持って行ったポテチも……ねぇ、計くん。翼は……おばさんが嫌いになっちゃったのかな……?」


「翼はいつも、おばさんに感謝してるって言ってましたよ。大丈夫、翼は無事です。僕が探します」


ベッドに置いてあるスマホが、妙に気になる。手に取ると、ロックがかかっていた。


「開こうとしたんだけど……パスワードが分からなくて。おばさん、駄目な母親だわ」


自分で自分を駄目と言うな。何度も翼に言った言葉だが、今はそんな言葉で親友の母親を慰める気にもならない。


「……確か……」


慣れた手つきでパスワードを打つと、あっさりロックが解除された。計は翼が怪我をした時、代わりにスマホを操作した事があるからパスワードを知っていた。


「なんだこれ……? RPG?」


画面には、昔のコンピュータRPGのような画面があり、四人の男女と思しき人々が街の外で木の影に隠れている。


「……ゲームで遊んでたのね。私……翼の事なにも知らない……」


泣いている翼の母親の声が遠い。彼女は単なるゲーム画面だと思っているが、計は背筋が凍り、震えを抑えるのに必死だった。


画面に映る四人の男女は、デフォルメされているが友人達に間違いない。


「……おばさん、僕も心当たりを探してみるよ。だからこのスマホ、少しだけ貸してくれないかな?」


無理を承知で問いかける。


「計くん……なにか心当たりがあるの?」


「まだ分からない。けど、翼はおばさんに心配かけるような事、する奴じゃない。明日必ず返すから……このスマホを貸してくれませんか?」


「分かったわ。私も、諦めずに探してみるわね」


「ありがとう。おばさん」

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