異世界転移アプリ

編端みどり

第1話 謎のQRコード

「ねぇ、このQRコードなに?」


好奇心旺盛なショートカットの少女、かおりが見つけたのは神社の隅に落ちていた小さなカードだった。カードには、QRコードが印刷されている。QRコード以外の情報は一切ないシンプルなカードだ。


「落とし物だろ。神社に届ければ良いんじゃないか?」


班長の計は、制服のネクタイをいじりながらめんどくさそうに言った。今は課外授業の真っ最中。余計な物に気を取られて欲しくない。


「こんなの届けても神社も困るぜ。適当に捨てておけば良いだろ」


翼はつまらなそうに言った。陸上部のエースだった翼は、足を怪我して走れなくなった。それからというもの、何に関しても無気力だ。今回の課外活動だって、サボる気満々だった。だけど親友の計が必死で頼むから、仕方なく来たのだ。


「けど……落とした人は困ってるかもよ」


公平は、恐る恐る口を開く。公平は翼と仲が良かったが、最近の翼は何にでもすぐ突っかかり怖い。今回の課外活動の班分けも、自由に決めて良いと言われて翼と組むか迷っていた。翼の親友の計がいるから大丈夫だろうと、同じチームになろうと二人に声をかけたのだ。


「そうだよ。すぐそこでお守り売ってるじゃん。巫女さんに渡しておけば良いよ」


おっとりとした三つ編みの少女、聡子はそう言って笑った。そのまま計からカードを受け取り、巫女さんの所へ行こうとする。班長の計が時間を気にしているのは分かっていたし、公平の言う通りそのままにしておくと困る人もいるかもしれない。だから、さっさとこのカードをみんなの前から消してしまえばいい。人が揉める姿を見るのが大嫌いな聡子は、そう考えた。


「ね、どんなのか気になる。ちょっとだけ貸して!」


気になった事は確かめないと気が済まない。かおりはスマホを取り出し、QRコードを読み取った。


「ちょっと! かおり! スマホは禁止のはずでしょ! それに、こないだ習ったじゃん。なんでもかんでもコードを読み取ったら危ないわよ」


「大丈夫よ! 見て! アプリが開いたわ! なにこれ、異世界転移アプリ?」


「ゲームっぽいタイトル。ねぇ、見せてよ!」


ゲーム好きな公平が、かおりのスマホを覗き込む。


「アプリの案内チラシかなにかだったのかもな。とりあえず、届けてくるよ」


カードを落とし物として届けた計が戻ってくると、全員かおりのスマホに釘付けになっていた。


「かおり……スマホは禁止だろ。そろそろしまってくれよ。先生が見回りにでも来たら面倒だ」


「そっか。ごめんごめん。じゃ、このアプリをグループに送っておくよ。面白そうだし、みんなでやろ! 計はさ、妹ちゃんに貸してもらいなよ」


「……分かった。けど、みんなみたいに長時間は無理だから」


中学生のスマホ保有率は、年々上がっている。だが計は厳しい親に禁止されており、スマホを持っていない。妹は女の子で塾帰りに危険だからと、小学生なのにスマホを与えられている。男女差別だと文句を言ったところで、頑固な父親は首を縦に振らない。だから計は、高校生になるまではスマホを諦めている。


だが、中学生でも友人との連絡手段は必要だ。その為、妹のスマホで友人と連絡を取っている。自分だけスマホを持たされて兄に申し訳ないと思う妹は、喜んで兄にスマホを貸す。


「帰ったらやろ! 面白そうじゃん!」


「僕は無理かも。でも、後でインストールしておくよ」


無邪気に笑う友人が少しだけ羨ましい。計はそう思っていた。

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