第二十四話 再会
学食に、人々の笑い声や話し声が混ざった喧騒が響く。さまざまな人や食事の匂いが鼻を掠め、ここに存在している感覚が少し麻痺してくる。
「やっぱチキン南蛮が一番うまいわ」
大学で同じ学部である
僕はふとガラス越しのグラウンドに目を向ける。
敷地に照り付ける太陽、明るい緑を茂らせる木々。季節はもう夏に入り始めていて、徐々に夏季休暇に近づきつつあった。
「あ~やっと試験から解放されたわ。あ、なあ、夏休み入ったらすぐに花火大会あるじゃん」
「ああ、近くの」
大学の隣には日本でも規模の大きい川が流れており、近々そこで花火大会が行われるのだ。交通規制を知らせる看板をちらほら見かけるから、僕はそこでこの地域の花火大会の存在を知った。
「うーん、あんまりそういうイベントごとには行かないからな」
「ん、バイトとか?」
「まあそれもあるけど……」
僕はそこで言い淀んだ。小説家である優とルームシェアしているなんて、ましてや優の病気に関することなんて、言い出しづらいからだ。
すると、急にどこかから一度バイブレーションがなった感触がした。和也のスマホみたいだった。和也は机に画面を伏せたスマホを取り上げ、画面を見てうげ、と声を上げた。
「誰から?」
「部活の先輩……。うわめんどくさ……」
その後もぶつぶつ言い続け、和也はスマホを切った。するとすぐまた、スマホを開き、待ち受けの画面を僕に見せてきた。
「見てみてコレ、かわいくない?」
ニヤニヤしながら見せてくるスマホの待ち受けには、何かのアニメキャラクターだろうか、女性の絵が設定されていた。
僕はもちろん、返事に窮した。
「まあ、そうだね」
それくらいしか言うことはなかった。世間的に見れば、今のは「かわいい」とされるイラストなのだろうということは分かった。
「あ~マジで彼女ほしい。彼女と花火大会とか絶対楽しいじゃん」
和也は背もたれに背中を預け、後頭部でだらんと腕を組んだ。和也の言葉には、共感できなかった。でも僕はそのことに対して、そこまで良いこととも悪いこととも思っていなかった。
――共感できないって、ちゃんとあなたが思うことが大事。
ふと、優しい声が頭の中を過る。
「そういえばさ、光基から好みのタイプの話って聞いたことないな」
和也の言葉に、僕は内心焦る。だけど、こういう場面には何度だって出くわしてきた。慣れはしている。
「そういう話はしないようにしてるからね」
「なんで?」
「……あんまり詮索されるのが得意じゃないんだ」
「ああ。そう」
和也は空気を読んだのか、読んでないのか分からないが、この話を中断してくれた。医学部ほどの学力の高い学部に居れば、いじめなんてあるはずがない。少なくとも、誰かが不快になるような行動をわざとするような人はいない。
僕にとって、そんな場所が心地よかった。勉強にも集中できるし、それに周りから浮くこともない。
その後は僕達は昼食を終え、講義室へと歩き出した。
ホールを出ながら試験の成績について談笑する様は、何処にでもいる大学生そのものだった。
試験の成績は、以前と変わらず学内トップレベルだった。相当和也から羨ましがられたが、僕はどう反応していいか分からなかった。
和也とはバス停で別れ、僕は駐車場へと歩き出した。
今の時間帯となると、通りの歩道を歩く学生が多くなる。僕はふと歩きながら斜め上を見上げる。道路を跨ぐ学校の渡り廊下を下敷きに、薄い夕焼けの空が大学病院や市役所のビルやマンションに遮られながらも広がっていて、どこか自分は遠い場所に来てしまったんだな、という感覚に支配された。この感覚に、僕は未だに捕らわれることがある。優のために、僕はここにいることを選んだのだと。
バスや車、人の足音がひしめき、自分がその中に混ざっているのが不思議な感覚だった。
すると、何か覚えのある男性の影を見つけたような気がして、僕は右手にある向かいの歩道を見た。
……勘違いだよな。
そう思って僕は進むことにする。帰って何をしようか。向き合いたくないことから逃れるように、僕は考えた。久しぶりに読書に
右手にある医学部の棟が、僕の進む歩道に斜めに影を落とす。その影から出ようという頃、僕は後ろから女性に声をかけられた。
「あ、光基君⁉ 光基君じゃん!」
その声が聞こえ、僕は後ろをゆっくりと振り向いた。
「あれ、えっと」
人の流れから置いて行かれる。バイトが忙しくてさーと笑い合う女子大生が僕の横を通り過ぎる。
そこにいた人物に、僕は覚えがあった。
白いブラウスと薄桃色のフレアスカートに身を包んだ、ショートヘアの女性。ひらひらとこちらに駆け寄って、その女性は言った。
「ほら、中学の時、一年と三年で一緒だった、梓。
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