第二章 恋慕

第二十三話 夏の記憶

「幼馴染、ですか」

 警察の男が、納得しているのかしていないのか、判断のつきにくい淡白な声で言う。

「それで、二人でルームシェアをしていたと」

「はい。本当にそれだけの関係です。僕と優で二人でいれば、生きやすかったんです」

「生きやすい?」

「はい。僕と優は、出会わなければそれぞれ孤独だったでしょう」

 そんなことをこの男に言ったところで、分かってもらえるはずもないのだが。

「流血に対する性欲があると、先ほどおっしゃっていましたよね」

「はい」

「ではあなたは、異性愛者や同性愛者、両性愛者でもない、ということになるのですか」

 そんな質問が飛んできて、僕は脱力のあまりパイプ椅子の背にもたれたくなった。僕はその、名前の決まっているマイノリティーになら理解が及びますよという話し方が癪に障った。

「はい。人に対する恋愛感情なんて、持ち合わせていません」

 僕は、恋愛感情と性的欲求をなるべく切り離して見るようにしている。血に興奮しても、血に恋愛感情を抱くなんて、僕に関してあり得ることではないからだ。

「それではあなたには、血に興奮する、という欲求だけがあったと」

「言ったはずです。僕の欲求は、事件に直接的な結びつきはないと」

 警察の態度にいらつきながら、ああ、そういえば、と僕はとあることを思い出す。

 僕が思い出したのは、大学一年の頃の、夏の記憶だった。僕はとある人に出会い、そして恋愛的なつながりのあるはずがない人間なんだと再認識させられた。

 二つ目の回想は、とあるマイノリティーの女性と出会うところから始まる。

 

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