第89話「心配無用です。だって――」
アレクがSSで放った技にね、何かカッコいい技名を考えようと頭を捻っているんです私。
剣先から光る帯が出ましたからね、特に七色ではなかったけど『レインボーなんちゃら』とかカッコいい気がするんですよね。けど『なんちゃら』の部分がいまいち思いつか――
「殺すーーっ! 殺す殺す殺す殺す殺すーっ! 殺すぞコラーっ! ってかぁ!?」
要らない事を考えてたからびっくりしちゃいました。
あ、いえ、こんな時にそんな事考えてた私が悪いんですよ。
分かってるんですけど、だってね、なんだか余裕で倒せそうじゃないですか。
「殺すって僕らを? そのゴーレムがとっておきじゃあ無理じゃないかなー?」
「さっきのは別にとっておきじゃねえよぉだ! ぶぁぁあか!」
魔王ジフラルトはヒラリとゴーレムの肩から飛び降りて着地。そしてご自分が乗っていたゴーレムの脚をバンパンパンと叩いて言います。
「とっておきはコイツ! さらに――」
続いて両の親指を立てて自分の顔へグッと向け――
「――俺様だ! なんつっても俺様は魔王! そこらへんの魔族と一緒にしてんじゃねぇぞコラぁ!」
――アドおじさんの方を指差して、高らかにそう叫びました。
そしてジフラルトは本人が言うところのとっておきのゴーレムの体をバンっと叩いて、「やれ!」と一言だけ指示を与えました。
するとゴーレムの体がぼんやりと光り、徐々にその体を小さく変形させていきます。
「コイツの『核』には細工がしてある! 知りたいかぁ? 知りたいだろうがぁ?」
「別に良いよ」
アレクは右手に持ったSSを振り、先ほどと違って細く光る帯を縮んでいくゴーレム向けて放ちました。
直撃し千切れたゴーレムの右腕がごとんと落ちましたが、当のゴーレムは素知らぬ顔。あの落ち着きのないジフラルトさえ半笑いです。
「ぶぁぁああああか! そんなんコイツには効かねえよぉぉだ!」
落ちたゴーレムの右腕は、近くにあった自分の足に吸い込まれる様にして消え去り、そして斬られた所が盛り上がるように元通りになってしまいました。
「コイツの核は! ある魔族の核の一部を埋め込んである!」
うわぁぁ……。
嫌な予感しかしませんよ私。アレクも苦い顔ですもの。
「その魔族の核とは! 俺様の盟友であり執事長!
『ま゛ーー!
やーっぱり! もう良いですよ
「残念ながら古の魔族言葉と『ま゛ー』しか喋れやしねぇが……。やれ! フルゴーレム! 他のは向こうをやれ!」
アレクの後ろをごそごそと動いていた二体のゴーレムは跳び上がって丘の上のジンさん達の下へと向かい、二メートルほどまで小さく細くなったフルゴーレムはアレクへと歩を進めました。
「おい! 増えやがったじゃねえか! アレクのバカなにやってやがんだ!」
レミちゃんに縛られていた筈のゴーレムは二体で協力して縛めを脱し、あり得ないほどの連携の良さで三人を翻弄していました。
そこへさらに二体のゴーレムです。
ジンさんが喚くのも無理ありませんね。
「レミ! いっちょデカいの撃て!」
「デカいの撃つ」
コクリと頷いたレミちゃん。蓄えた魔力を一気に放射!
「――な……なんという魔術だレミ
合流した二体のゴーレムへ、空から落ちた竜の形をした雷が直撃! 二体とも木っ端微塵です!
……そんな事が出来たんならとっととやってれば……と思ったのは一瞬でした。
「デカいの過ぎた」
魔力枯渇に陥ったらしいレミちゃんがぺたんとお尻をついて座ってしまいました。
「バッカやろう! 程があんだろ程がよ! オッサンと二人でゴーレムとやんのかよ!」
謎の連携の良さを見せた二体のゴーレム。対して連携も何もない脳筋二人ではちょっと……
と、思うじゃないですか。
心配無用です! だってあの
「せぇぇぇえいっ!」
北から一気に丘を駆け上り、リザが戦斧を振り上げ跳び上がります!
「せぇぁああっ!」
ざんっ、と一体のゴーレムをプリンでも切るかの様に唐竹割り!
「癒せ――!」
「姫さん! 来たか!」
「リザ姫?」
「トロルの姫! ……ん?」
着地とともにジンさんのお腹の傷を癒し、そして一言言い残してまた駆けました。
「あとの一体はお願いします!」
「任せとけ。アレク頼むぜ!」
「はい!」
アレクとフルゴーレムは一進一退を繰り広げていました。
以前、本物のフルと戦った時と同じ様相。アレクはフルゴーレムを幾度も斬り刻みますが、しかし、フルと違ってその場で即再生してしまうのです。
『ま゛ー!
「せどま……? そんなの、キショ、言ってた、っけ?」
喋りながらもSSで突き、斬り刻みますが、単純に言って全く効いていないようです。
ゴーレム七体を瞬殺した光る帯を当てられればどうにか出来そうにも思いますが、小さくなったフルゴーレムの素早さは先のゴーレムとは段違い。
僅かとは言え『溜め』のいる大きな帯では当てるどころか出すだけでも一苦労です。
「うーん、決め手に欠け――っ――!」
「俺様とも遊んでくれや! 勇者さまよぉぉ!」
「ぐっ――クソっ!」
不意を突かれました。
後ろからアレクの首根っこと右腕をガシッとジフラルトが掴んで持ち上げます!
「ぐぅ……げはっ――こ、のっ――」
「暴れたって無駄だよぉぉ! ほれ! フルゴーレム! 殴りまく――」
はい、そこまでです。
「わたくしの! わたくしのアレクに何をしてるんですか!!」
ドンっ――
「……はぁ? 何言っ――ギャァあああ!」
真上から振り下ろされた戦斧が、アレクを掴むジフラルトの両腕を断ち切りました! よっし!
「貴方もです!」
少し咳き込むアレクを跳び越えたリザは、斧刃を寝かせた戦斧を振りかぶり、フルゴーレムの頭上へ真っ直ぐ振り下ろします!
ドスンっ――
容赦なく、もう、一切の容赦もなく叩き潰しました。
けれどさすがに幾つか残る少し大きめの欠片たち。リザはそれらを戦斧の
絵面は少し面白いですけど、大事な事ですね。
『……ま゛、ぁ……
無事に砕き尽くしたらしく、フルゴーレムが本家と同じセリフを残して散りました。今度こそ永遠にさよならして下さいね。
「アレク! 怪我はありませんか!?」
「けほっ、だ、大丈夫――。また助けてくれたね」
咳き込むアレクへリザが駆け寄ろうとしたその時――
「おぉぉ俺様の腕ぇぇ! くっそがぁぁあ!」
痛みと言うよりも、腕を切られた事への怒りに震えるジフラルトの声が響き渡りました。
けれど――
「……はぁ? なんっだよコレはぁぁ!?」
ジフラルトの喉の下、左右の鎖骨の間から刃が飛び出ていたんです――
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