第88話「勇者パーティ」
「バカって言った方がバカなんだよぶぁぁああか!」
ジフラルトの声をきっかけに、最後に現れたゴーレムが跳び上がり、ズズゥンと地響きと共にアレクの側に降り立ちました。
その他の六体も、ノロノロと蠢きながらも一体また一体と、立ち上がっては跳び上がり地響きを立てました。
「おいおいおい、近くで見るとまたでっけえなぁ、おい」
アレクの所へ四体。ジンさん達の所へ三体。
それぞれ全てが高さも厚みも魔竜の倍近い体躯です。
「とりあえず持ち堪えろ! すぐそっち行ってやるからよ!」
「よく言うよ! 僕が行ったげるから持ち堪えてて!」
「へっ! 生意気言ってんじゃねぇよ!」
カッコつける男の子たちは素敵ですね。
けれど実際問題、どちらの状況も良くはありません。
どちらかと言えばジンさん達の方が厳しそうでしょうか。
「よっしゃ! いっちょやったるか!」
本当はまだお腹が痛むでしょうけれど、ここでカッコつけられるのがジンさんですよね。
「レミ、やれるな!?」
「やれる。当然」
「レミ! 俺様のコレも解いてくれ!」
ああ、そう言えばそうですね。
そのままではアドおじさんはゴーレムに踏んづけられてぺったんこ間違いなしですものね。
「俺様も混ざる! 悪いようにはせんと誓う故! 頼む!」
そういう意味でしたか。
ジンさんと良い勝負ができるアドおじさんが味方してくれれば心強いですよね。
「――ダメ。やり直し」
「……は? やり直し……?」
訳がわからんという顔で、アドおじさんがジンさんへ視線を向けます。
「わかんねぇけど……たぶん
えっ? 呼び捨て?
「……くっ――! レ、
コクリ、と一つ頷いたレミちゃんがアドおじさんへ掌を向けると、淡く輝き続けた
「
『びあん!』は、よーっし! ですね。
ジトっとレミちゃんに見つめられたアドおじさんがすぐさま『さん』呼びに直したの可愛いですね。
「バーカ。俺たちゃ勇者パーティなんだぜ。こういう時はよ――三人で一体ずつだよ!」
ジンさんがそう声を上げると共に、先ほど解けたレミちゃんの魔力のヒモが地を這います。
「とりあえずコイツから行くぞ! はぁぁぁっ!」
魔力を溜めたジンさんが腰を落とし、一体のゴーレムへ向けて正拳突きからの拳弾を飛ばしました。
どんっ! と脛へ直撃させてぐらつかせ、さらにもう一発放った拳弾を逆の脛へ!
ずずん、っと地響きを上げて倒れたゴーレムへ向け、今度は直接拳を叩き込み始めました。
「オッサン! ぼおっとしてねえでオッサンも
「いや、しかしもう二体が――」
「それは良い! 一体ずつだ!」
それでもアドおじさんが不安げにもう二体のゴーレムを見遣ると、
「早く削る」
見るとレミちゃんの魔力のヒモが二体のゴーレムの脚にがっちり絡みついて固定していました。
「そういう事か! ……しかし勇者パーティがそんなで良いのか?」
「この
「――な、なんと……! 俺様は――いや、吾輩は今日より! 貴様らの拳となる事を誓おう!」
魔族にあるまじき感激屋さんだったらしいアドおじさんが高らかに宣言しました。
だばだばと涙を流すアドおじさんもジンさんの逆側に陣取り、横たわるゴーレムにガツンガツンと拳を叩き込み始めます!
ものの数分もそれを繰り返すと、ゴーレムの岩の腕は砕かれ、その胴も頭も随分と小さくなっていきました。
「見つけた! 核だ!」
「よっしゃオッサン! とっとと砕け!」
ジンさん達はなんとかなりそうですね。
ホッと胸を撫で下ろしている間にゴーレムが一体、アドおじさんに核を砕かれ砂へと還りました。
一人で四体を相手にするアレクの方はどうでしょうか。
「くっ! 硬い!」
アレクは魔力消費を抑える為か、
さらに、ジンさん達は
当然アレクのスピードには到底勝りませんが、あの大きさにしてはとっても速いです。
「やっぱりこれじゃダメか……しょうがない!」
アレクはレイピアを左手に持ち替え、右手を左手首にそっと触れて
二刀流にはなりましたが、手甲や脚甲はなしでいくみたいです。
それも魔力消費を抑えるためでしょう。
叩きつける様なゴーレムのパンチを宙返りで
そしてさらにそのまま――
「たぁぁっ!」
――眉間にSSを一突き! 大きな破裂音とともにゴーレムの頭が爆ぜ飛びました!
崩れかかるゴーレムの肩を蹴って別のゴーレムのパンチを避け、さらにその拳を蹴って跳び、また別のゴーレムへとSSを突き入れます!
胸に大きな穴の空いたゴーレムもズズンと地を震わせて倒れました。
四体いたゴーレムも、もう残り二体です。
これは結構余裕なんじゃありませんか?
「はぁ、はぁ――」
「さーっすが勇者さまぁぁぁんっ! ってかぁ!?」
「――そう? 僕、全然本気じゃないよ?」
二体のゴーレムにも注意を払いながら、アレクは一度SSを腕輪に仕舞います。
出しっぱなしにせず頻繁にSSを仕舞うのは、どうやら装備するだけで魔力や体力が奪われるからの様ですね。
あのアレクが、はぁはぁと肩で息をしていますもの。
ジンさんと違ってパワーでなく鋭さで戦うタイプのアレクにとって、SSなしであの手の敵と戦うのはあまり相性がよくないかも知れません。
せめて魔力と体力が十全であれば違ったでしょうけど……。
……って、アレクってそんなに疲れてるんでしたっけ?
「ギャハハハハいっちょまえによぉ! ならもっとだ! ギャハハハハハハ!」
ジフラルトは、今度はちゃんと大地に魔術陣を張り、そして再びゴーレムを作り出します。
その数、再び七体!
「二体倒すのにはぁはぁ言っちゃってよぉ! いま出したのと併せて十体のゴーレムが相手してやんよぉ! ヒャーハハハハハハハ!」
「バーカ。魔族は足し算も習わないの? 二足す七で九体だよ」
再びSSを抜いたアレクはそう言って、さらに手甲も具現化させました。
そして一気に駆け、新たに生み出された七体のゴーレムへ向けてSSを突き入れます!
「たぁぁぁあっ!」
眩い光の帯が斜めに走り、七体のゴーレム全てを撃ち抜きました!
「――これで九引く七。また残り二体だね」
「オ、オマエ――はぁはぁ言ってやがったクセに――っ! なんでだ――!?」
「エスエスちょっと使ったくらいで魔力枯渇なんてしないもん僕。騙されてやーんの!」
……そう言えばアレクが真剣に戦ったのは四人目のアンテベルトと魔物の群れだけでした。
そこまで疲労なんてしませんよね。
それもこれも、ここまでアレクの力を温存させたジンさんとレミちゃんのお陰です。
さすがは勇者パーティですねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます