第85話「僕が行く」
「よぉ婆さん。どこほっつき歩ってたよ?」
ベトネベルトにお腹を抉られたジンさんがいつもの軽口を叩きました。
人聞きの悪い事を言いますね。
『ほっつき歩いてもいましたけど、ずっと見てましたよ』
「うへぇ、見られてたんかよ。カッコ
そりゃあ見てますよ。
リザの事も心配ですけど、同じくらい貴方たちの事も心配しているんですから。
『せっかく良い話を持って来てあげたんですけど、そんな事を言うんならリザのところに戻っちゃおうかしら』
「え!? 教えてお婆ちゃん!」
アレクが慌てながらも満面の笑顔でそう言います。
良い話、って最初に言いましたからね。期待しちゃいますよね。
『良いでしょう。話してあげます』
にっこり微笑んで、んんっ、と
『リザがあの
おぉ〜〜、と拍手とともに
私が倒したわけでもないのに気分が上がりますねぇ。
「怪我は!? リザ怪我なんかしてない!?」
どうしましょう……でもまぁ一発食らった事なんか言わなくても良いですよね。優しい嘘というやつです。
『ええ。怪我ひとつありません。ピンピンしていますよ』
「やったね! それでこそ僕のリザだ!」
そう言って喜んだアレクがジンさんを見遣ってニヤリと笑って見せました。
「約束守れなかったのジンだけだね」
「うるせ! 俺は姫さんと約束してねえっつうの!」
確かにジンさんは約束していませんが、実際怪我らしい怪我を負ったのはジンさんだけです。
アレクは完全に無傷で魔力消費も抑えて戦っていましたから十全。
レミちゃんは魔力消費は激しいですが無傷。
逆にジンさんの魔力消費は大した事ありませんが、こう見えて割りと重症です。
元気に会話していますが、それも隣で眠るレミちゃんの
でもね、ジンさんが怪我したのもレミちゃんを守る為に負ったものなんですよ。
アレクと対峙していたベトネベルトは
魔物に対して魔術を放ったレミちゃんの隙をついたベトネベルトが攻撃を放ち、それにジンさんが即座に割って入ってお腹で手刀を受けたのです。
貫かれた手刀が背からチラリと見えつつも、ジンさんお得意の身体硬化を使ってがっちりキープ。
お腹から口から血を噴きながら――
『ぐっふ――アレク! やっちまえ!』
『任して!』
『ギャァァァ!』
という展開で、見事に核を砕かれたベトネベルトは絶叫と共にその体を崩壊させたのです。
フルに比べて他の魔族はシンプルで良いですねえ。ってそれが普通なんですけどね。
「元はと言やぁ、オメエがとっととやっつけねえから――……お、起きたんか?」
なんだかニヤニヤしながら眠っていたレミちゃんが目を覚ました様ですね。
「好き……」
「……は?」
「もっとして――」
「――はぁっ!?」
寝ぼけ
「ロン様は?」
「……はぁ。そんなこったろうと思ったよ。ロンの野郎はちっとも姿を見せねえよ」
照れっ照れに頬を染めたジンさん。さすがにドギマギしますよねぇアレは。
寝起きの女の子ってただでさえ可愛いのに、ぼんやり虚ろな目付きのレミちゃんに『好き……もっとして――』なんて言われちゃね。
ナニをもっとしたら良いの!?
なんてオロオロしちゃいますよ、私なら。
ニヤニヤしていたレミちゃんはきっと素敵な夢を見ていたんでしょうね。
「そんで? 姫さんとロンの野郎はいつ頃来るんだ?」
『リザは順調なら夕方には。ロンは――』
こちらもどうしましょう?
今はまだボカしておいた方が良い気がしますね。
『ロ、ロンの事は心配しないで――』
「ロンの心配はしてねえ。ロンがちゃんと仕事すんのか心配してるだけだ」
ぐっ――。
ジンさんのクセに正論ですね。
『それも大丈夫です。ロンとカコナにはちゃんと考えがあるようです。二人を信じて良いと思います』
「カコナ=チャンも噛んでんのか……なら、まぁ信用すっか」
ロンが信用できなくてもカコナは信用するんですね。ちょっと不思議ですけど、基本的にジンさんは女の子に甘いところがある、ような、なんかそんな気がしますものね。
「お婆ちゃまだ」
『あ、起きました? どうですか? 魔力の方は』
「三割程度」
指を三本立ててそう言います。
まだまだ頼りないですね。リザが来るまではジンさんの復調も難しいですし、ここはアレクだけが頼りですね。
「おい。おかしな透け透けチビトロルと談笑してる場合じゃないぞ」
あら、いらっしゃったんですね、アドおじさん。なんてね。
相変わらず縛られたままなのに、普通に輪に混ざってて違和感なさすぎです。
リザの活躍を聞いて普通に、アレクとジンさんと一緒に『おお〜〜』と喜んでくれてましたし。
倒されたのは貴方の甥っ子なんですけどねぇ。
「来たぞ。
アドおじさんから数えて四番手ですか。
襲来が思っていた以上に早いです。
いかにリザが全力で走ったとしてもさすがに間に合いません。
ジンさんもレミちゃんもまだまともに戦える状態ではありませんがどうしましょうね?
「僕が行く。二人は休んでて」
右手をそっと左手首に置いたアレクが、焦りも気負いも見せずにそう言いました。
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