第70話「ぼんそわーる」


 翌日です。


 先に言っておきますね。

 今日、私はめ〜っちゃくちゃに嫌な予感がするんです。


 何がどうっていう訳ではないので、リザ達には何にも言ってないんですけど、言っておいた方が良いかしら……



「もうちょっと遠くで訓練って言ったってさ、それだと森の近くまで行っちゃうね」


「しょうがねえんじゃね。ニコラの爺さんに釘刺されっちまったしよ」

「まぁそうなんだけどさ」


 リザたち四人は今日も訓練ですね。

 昨日はリザがどこまでできるのかと、ジンさんやレミちゃんの実力をリザに見せることに終始しましたから、次は三人の連携訓練ですね。


 アレクの連携訓練はしないのか? ですか?


 アレクの力だけは隔絶してますからね、訓練に参加する必要さえないんですよ。

 元々このパーティでの戦闘は、いかにして強敵にアレクをぶつけるか、ここに――ここだけに重点を置いたパーティですからね。


 リザ加入前だって、有象無象をレミちゃんとジンさん、強敵をアレクが、という形で捌いてきたんです。


 今のところはアレクにさえどうしようもない敵との邂逅は無かったそうですから、それで充分やってこれました。デルモベルトは不意打ちの瞬殺でしたしね。



「じゃあ夕方までに森の手前の拠点近くまで行こっか。実戦訓練は明日って事で」

「ま、そうなるわな」


 アレクとジンさんの言葉に、女子二人がこっくり頷きました。



 ちなみにロンとカコナはロステライドでの迂回ルートの検討をするそうです。

 昨夜レミちゃんがカコナへ、『もっとロンと仲良くなっても良い』と意味深に伝えていましたが、それに対してカコナは鼻で笑って、『嫌だよ! バルクが足らんもん!』と返していました。


 カコナにも誰か良い人いませんかね? ちょうど良いバルクのジンさんじゃ色々とダメっぽいですし。



 速やかに移動を始めた四人は、各々が魔力なり精霊力なりで強化を施し飛ぶように駆けていきます。

 レミちゃんだけは鼻粘膜強化も常時かけっ放しですが、すっかり慣れた様で特に支障はないみたい。


 ここだけの話、昨日の訓練中にレミちゃんが魔力枯渇を起こしたのって、前日に一晩中全力の鼻粘膜強化をいたせいなんですって。


 のも大概にして貰わないといけませんね。



 途中、少し休憩を取って軽めの食事。

 水と携行食の干し肉をみんなで齧り、ジンさんを除く三人は顎を疲れさせていました。


「今のリザだと干し肉、堅いんだね」

「そ、の、様です!」

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

「なんでぇ、だらしねえぞオメエら」


 バフがあっても食事時までは作用しませんから。バルク不足だからか顎が細いからか、三人には少し硬すぎるみたいですね。



「ジンさん、ごめんなさいね」

「ん? ああ、コイツか? 気にすんな、いつもこうだし今日は一日分で軽いしよ」


 リザは顎の弱さを謝った訳ではありません。ジンさんだけが背にリュックを背負っているからですね。

 バルクだけでなく、ジンさんの魔力による身体強化はパーティの中でもピカイチですから、荷物持ちもお手の物ですの。



 サクサクサクっと野を越え林を抜け、夕方の少し手前、魔の棲む森の手前までやって来たアレクたち。朝がゆっくりだった割に、さすがにこのメンバーだと速いですね。



「ねぇ。ちょっとさ、イヤな感じしない?」

「する」


 アレクとレミちゃんはそう言いましたが、ジンさんだけは特になんとも感じないようです。


「そっか? ここいつもこんな感じじゃねぇ?」


 もうほんの少し行けばアレクたちも割りと良く拠点としている場所です。

 特に建物がある訳ではないですが、小さな沢までも近いですし、布を吊るすのにちょうど良い程度に木々が疎らに生えています。

 あとは腰掛ける為に置いておかれた丸太がいくつか転がっているだけですね。


「リザはどう?」

「特に気配は感じません――」


「だろー?」

「――けれど、マナが騒ついています」


「え、そうなん?」


 私の嫌な予感が的中しましたかね?

 真剣な顔付きで森の方を見詰める三人の顔を、グルリと見回したジンさんも表情を改めます。


 ジンさんは背に負っていたリュックを下ろし、小脇で拳を握って警戒を始めて言います。


「よし、ゆっくり進むぜ。アレク達は少し後ろ、姫さんはその後ろでマナを探ってくれ」


 キリリと顔を引き締めたジンさんがそう言って少しずつ森へと近づいて行きます。


 ジンさんはどうしたんでしょう。

 ここのところジンさんらしくないじゃありませんか。


 何か変なものでも召し上がったんでしょうか――


 ――なんて言っちゃ悪いですね。

 恐らくこっちのジンさんが素のジンさんなんでしょうね。



 かなりゆっくり慎重に進むジンさんへ、何かを察知したらしいリザが鋭く声を上げました。


「森の中ほど! 百を超える魔物の群れ――!」


 リザが上げた声に、三人は


「なんでえ、そんなら割りと平気だな」


「だね」

「平気」


 慌てた声のリザに対して、とっても余裕のある三人の声。

 三人にとっては、百や二百の魔物の群れ程度ならなんとでもなる、という自信からの余裕を感じますね。


 けれど、すぐにその余裕が剥がれる事になりました。



bonsoirぼんそわーる Ça faitふぇ longtempsろんとん!  C'est moiもあ!」



 ……長文は止してほしいですね。


 ――こんばんは、久しぶりだね! 私だよ!――


 だそうです。

 あ、私、思い出して鳥肌が……。

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