第42話「リザの正直な気持ち」


「……な〜んだ。トロル限定の変身能力なのかー」

「……ちっ」


 カコナはともかくレミちゃんのリアクションが殊更ことさら酷いです。

 気持ちは分かりますけどね。


 そうは言っても明るく言った二人に対し、やや重たい空気のリザが口を開きます。


「…………お二人は……十分に可愛いじゃないですか」


 リザの口から出た言葉に、レミちゃんとカコナの二人が口をつぐみます。

 先程までの和気藹々わきあいあいが一気に吹き飛んで霧散し、慌ててリザが謝りました。


「ご、ごめんなさい。わたくし……失言でした。聞かなかったことにして下さい」


 少しの間だけ、微妙な空気と沈黙が流れましたけど、根っから明るいカコナがそれをさらに吹き飛ばします。


「聞かなかった事にしない! 逆にもっと言いな! リザ姫さまはもっと正直になれば良いの! ワタシもレミもおばあちゃんも聞くから!」


 なんて頼もしい、有り難い友人でしょうね。

 ほぼ初対面のレミちゃんの事もあっさり呼び捨てになりましたし。


「カコナが正しい。レミも聞く」


 あら、レミちゃんも呼び捨て。

 良い子たちねぇ、ホント。


「……正直に……。わたくしの、正直な気持ち……」


 オロオロと視線を彷徨わせるリザに、うんうんと頷くカコナにレミちゃん。



「わたくし……、わたくしは……、にいても釣り合うような女の子に……なりたい、です……」


 …………


 まぁっ! 遂に、遂にリザが認めましたね!


 先日アレクに求婚されて以来、幾度も頬を染めては『こんな醜い自分が』なんて首を振り、認めようとしなかった自分の気持ちを。


 この際、歳の差や種族の違いなんてつまらない事は考えず、とにかく自分の気持ちに正直になる事が大事だと私も思いますよ。


 テーブルの天板を見詰める様に俯いた姿勢のリザの肩にレミちゃんがポンと手を置き、カコナはリザの頭へ手を置いて、二人が揃って言いました。


「「よく言った!」」


 カコナがリザの紅髪をわしわしと掻き混ぜる様にイイコイイコしています。

 なんだか三人とも嬉しそうですね。



「よし!」


 と一声かけたカコナが私の方へ向き直りました。


「じゃあお婆ちゃん、変身について教えて! ワタシらも協力するから!」


 カコナは勝手にレミちゃんも一括りにそう宣言しましたが、レミちゃんも力強く、


「うん。する」 と頷いてくれました。



『良いでしょう。二人にも一緒に行って貰えれば心強いですから、私からもお願いしたいくらいです』


「行くって、どちらへ?」


「魔の棲む森です」



 リザには先日説明しましたが、カコナやレミちゃんの為に掻い摘んで説明します。


『かつての、古のトロル達は自由に変身能力を使っていましたが、その身に宿る精霊力の変質に伴いその力は失われました』


「え、じゃあ無理じゃん。リザ姫さまも使えな――」

『はい、カコナ慌てない。最後まで聞く』


 立ち上がりかけたカコナが大人しく椅子にお尻を下ろしました。


『秘密はね、この間カコナ達が見つけたです』


「こないだの?」


『そう。トロルの身に宿る精霊力は変質しましたが、このメ・ダイシン世界に宿る精霊力に変化はないのです』


「なるほど、分かった。一度リザ姫の精霊力を入れ替えるの」


 やっぱりレミちゃんの理解は早いですね。カコナなんて未だに首を捻っていますもの。


『そういう事です。やり方は私が教えてあげられますから、唯一で絶対の問題である精霊力の変質もこれで解決できる――です』


 そう私が言った途端、三人の娘さん達の瞳から一瞬光が消えました。

 私だって言いたくありませんでしたけど、万が一、いえ、千……百が一くらいには……。


『も、物事に絶対なんてありませんし! それに私だって初めてやるんですからしょうがないじゃありませんか!?』


「どれくらい?」


『……まず大丈夫だと思いますけど、九割九分くらいには自信あります』


 パシンっ! と音が響いて見てみると、カコナとレミちゃんが同時に、右拳を左掌に打ちつけた音でした。


「充分よね」

「うん、充分」


 頷き合った二人が、私の顔を見て、そしてリザの顔で視線を止めました。


「きっと大丈夫」

「九割九分の件はおばあちゃんが責任持つとして、あとはワタシらに任せてね!」


 では、出発は翌早朝、女の子三人パーティで行きますよ!

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