第22話「地下牢にてリザとアレク」
トロルナイツ詰所の一つであるアイトーロル西端の砦、地下に位置する牢。
鉄格子を挟んでリザとアレクが相談を始めたところです。
「リザ、今日も君は健やかに綺麗だね」
「アレク、今はそういうのは結構です」
ピシャリとリザがそう言いますが、リザの頬は早くもほんのり赤味を帯びていますね。
傍観する私にさえ、アレクに冗談やお世辞のつもりがないのがよく分かっちゃう程に真剣な瞳で言うんですもの。しょうがないですわね。
「そんな事よりもね。ロンの事なんですけれど」
「ロン? 誰? 知らないよそんな人」
「
「僕、子供だもん!」
そうですね。確かにアレクは子供ですけど、そんなこと言ってて良いんでしょうかね。
「……そうですわね。子供に相談するなんてわたくしが間違えていました。ならばロン本人に――」
「うそウソ嘘うそ! いまの嘘! ロン知ってる! だから僕に相談して! お願い!」
そうなるのは火を見るよりも明らかなのにね。アレクは賢いんだか馬鹿なんだか、良く分かりませんねえ。
でも、まぁ、賢いとか馬鹿とかじゃなく、子供なんでしょうね、実年齢どおりに。
「そう? でしたら助かりますわ。では本題に戻ってよろしいですか?」
「どうぞ! よろしいです!」
牢の中のアレクがピシリと敬礼で応えました。
「ロンはもう魔王ではないのですから、引き上げた警備レベルを元に戻しても良いと思うのですが、貴方はどう思いますか?」
「そうだね。当然それで良いと思うよ――けど、なんて言って戻させるの?」
「そこなんですよ。そこを貴方に相談したいとここまで伺ったのです」
なるほど。魔王の姿を見たと言ったのはアレクたち勇者パーティのメンバーですからね。
アレクたちを無視して警備レベルの引き下げをするのもおかしな話ですものね。
「あぁ、そういう事か。リザってば賢くて優しい、ホントに素敵な
「――っ! い、いえっ、そういう訳ではなかったんですけど――っ」
「うん、でも助かるよ実際。僕らってアネロナの認定勇者パーティな訳だけど、結構いろいろあってさ。あんまり勇者としてのポカはしたくないんだよね」
アネロナは大国ですからね。
認定勇者にも条件や制約なんか、さらには見返りなど、それなりに色々とあるのでしょうね。
今でこそ魔王討伐に成功したパーティとしてアネロナの名を上げましたから、こんなふうにアイトーロルに常駐するという独断も許されているんでしょう。
「なんと言ってもさ。アネロナへ手紙出しちゃったからね」
「先ほども仰ってましたね。どんな内容ですの?」
「レミに頼んだから僕は読んでないんだけど――魔王復活! 最上級の警戒を! 最上級の精霊武装を! みたいな内容の筈だね」
「あぁ。それを『やっぱり勘違い』とは言いにくいという事ですね」
「そういうこと」
アレクが自嘲気味に肩を竦めて渋そうな顔をしてみせました。
「お手紙はニコラが手配でしょうか?」
「だと思う。最後まで見てなかったけど」
「でしたら恐らくはわたくし達トロル
今すぐに出発しても追いつかないでしょうねぇ。
アネロナまでは駿馬を数頭乗り潰すつもりで駆けて五日の距離ですが、その数頭の駿馬に遜色ない速さで伝令方トロルは走り通しますからね。
「僕のが速いとは思うけどね、脚。でも五日走り通しはちょっと無理だなぁ。体力はともかく魔力が
魔力で補助する走り方ですね。
去年の魔王デルモベルト急襲作戦で私も拝見しましたが、確かに伝令方よりも速かったです。けれど当然そんなので何日も走れませんよね。
「間に合わないんだから別の案だと……、早々と僕らが解決した事にするのが一番簡単かなぁ。それか僕らが見たのはデルモベルトじゃない別の魔族だった、とか? どっちにしたって嘘だから説得力が欲しいところだけど」
「認定勇者としては説得力も大事ですわよね」
「うん、あるに越した事ないね」
そうねぇ。どうせ嘘をつくなら説得力は欲しいところですよね。
アレクが求めた最上級の精霊武装って、アネロナにとっては国宝並み――いえ、実際に国宝なんだったかしら――の貴重な物ですからね。
勘違い! ごめん!
では済まないかも知れませんね。
「わたくしとしては無駄に警備レベルを上げているのは望ましくありません。有事でないのならばトロル
リザならばそう言いますよね、もちろん。リザでなくても上に立つものならば当然でしょうけれど。
「う~ん。だったら『もう解決した』なんだけど、やっぱりロンの奴も混ぜなきゃ難しいね」
「そうですね。昨日もなんだかんだで中途半端になってしまって、まだロンには何か伝えたい事がありそうでしたものね」
「困っちゃうよね。ロンが変なこと言ったせいだよ」
ロンが言った変なことって、リザに逢う為にアイトーロルに来た、っていうアレかしらね?
う〜ん……、まぁ、そのせいと言えなくもないのかしら……。
アレクがリザを拉致しようとしたきっかけですから…………いえ、そんなことないですね。
やっぱりどう考えてもアレクのせいで困っちゃってると思いますよ。
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