第5話「可憐とガテンと」
「そいでよ。いつからオメエはでっかいお姫さんの事が好きな訳?」
「いつからって、初めて会った日からだよ」
勇者アレク一行は魔の棲む森に入った辺りで野営ですね。
少し
「初めてっていつだっけ?」
「去年。
ジンさんの問いに素早くレミちゃんが答えました。
猿の月は、そうね……、皆様方の世界で言うと九月にあたるかしら。
ちなみに今は四月に当たる
「猿の月って事は……、ああ、初めてアイトーロルに来た時だっけか」
「そうだよ。トロルのみんなと魔の棲む森に来た時だからね」
それは魔王討伐に赴く際、騎士国アネロナからの要請もあってトロルの精鋭を率いたリザ達がこの三人を魔の棲む森の中腹まで案内したんでしたね。
「へぇあん時にねぇ。でっかいお姫さんがでっかい斧振り回してた時だよな」
「ねえジン。その『でっかいお姫さん』って
「なんで? でっかいもんはでっかいだろうが」
「アレク無駄。ジンには乙女心、分からない」
あら。いつも無愛想で無関心な感じのレミちゃんですけど、さすがは女の子ね。
「乙女心ってガラかよ。しかももう二十四なんだろ?」
「ジン、そういうところ」
そうそう。そういうところですよ。
このジン・ファモチという二十八歳の殿方、誰がどう見てもワイルドな男前、背も高いし人族視点ではちょうど良いバルクとカットの筋肉。
なのにデリカシーが無いせいか女性人気は大した事ないのよねぇ。
「何言ってんだ。レミだって乙女心ってぇガラかよ」
「バカジン。死ねば良いのに」
レミちゃんもそういうところよねぇ。
こちらのレミ・パミドという十八歳のお嬢さん、お胸はやや平坦ながら顔の作りは美少女と言って差し支えないんですけど、内面の無愛想が常に顔に出ているせいか無表情。
そのせいかこちらも決まった男性はいらっしゃらないの。
二人とも
ジンさんはお酒と美人が大好きで、レミちゃんは甘いものと美少年が大好きなの。
そんな二人ですけど、『他者の為に進んで善行を』という女神ファバリンの教えは忠実に守っていらっしゃいますから、教義的には一つも問題ありませんけどね。
「そんな事だからジンはモテない」
「バカ。オレはモテモテだっつうの」
「商売女限定」
「分かってねぇな。オレは商売女が好きなんだからそれで良いんだよ」
始まりましたね。いつもこうなんですよね、この子たち。
「ねぇねぇ。二人がたまに言ってる商売女って何? 働くお姉さんのこと?」
ほら見なさい。アレクは勇者と言ってもまだ十二歳なんですからね。
もうちょっと考えて口にしなきゃダメよ。
さすがに教育上良くなかったかと、二人が顔を見合わせました。
「……いや、なんつうか――なっ?」
「……ええっと、ま、まぁそんなとこ」
「そっか! 僕も働くお姉さん好きだよ! リザも仕事してるし!」
アレクには大人びた面もありますけど、この三人でいる時が一番無邪気になれる時かも知れませんね。
「でっかいお姫さんの仕事ってあれだろ? ギルド経由の――」
「そ、新人冒険者の訓練。それに国の外周の警備指揮。リザはアイトーロルじゃ五本の指に入る戦士だからね」
「……お姫さんの仕事じゃねぇよな」
まぁ確かに、私なんかもそう思いますけど、リザは姫でありながら
よく働く娘ですけど、もともと国民に働かせて自分だけ一人お部屋で紅茶とパンケーキ、なんて出来るタイプじゃありませんから。
「何回かね、リザのお仕事覗きに行ったんだけどさ」
「おお、変態ストーカーの本領発揮だな」
「茶化さないでよね。確かにこっそり覗いたんだけどさ」
「やっぱりストーカー」
「……もう! もういい! もう二人には話さないもん!」
あらら。ちょっと涙目のアレクがヘソを曲げちゃったわ。
だから言ったじゃない、ちゃんと考えて口にしなきゃって。
「悪りい悪りい、そんなむくれんなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」
「ごめん、大人しく聞く。だから」
「……じゃぁ、あのね、リザって普段あんなに可憐なのにさ。でっかい斧で魔物をやっつけるのがとってもカッコよくてさ、そのギャップに余計好きになっちゃうよね!」
私の事じゃないのに照れちゃいますわ。
だってこんな潤んだ瞳の美少年がほっぺ赤くしてそんな事言うんですもの。
レミちゃんだって頬を赤くして、ハァハァ言いながら鼻から少し血が覗いていますよ。
普段は隠してますけど、レミちゃんって割りとヤバいくらいの美少年好きですからね。
でもアレクに恋愛感情はないらしくって、ちょっと私にはよく分からないんですけど、『推し』って言うのかしら? なんかそんななんですって。
それに対してジンさんの冷めた目ですよ。
「……あれが可憐ってガラかよ、ったく。あの筋肉は可憐っつうよりガテン系って感じだろうが」
ジンさん、そういうところですよ、ホント。
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