私は蝶になりたい⑪
別に来人がいなくなるわけではない。 ただ何となく今すぐこの気持ちを伝えなければならないと走って教室へ戻った。
「来人くんッ!」
だがそこには来人の姿はなく数人の学生しかいなかった。
「川原さん? もう用は済んだの!?」
先程一依のもとへ来てくれた女性だ。 もう話せると思ったのか笑顔で近付いてきた。
「あの、来人くん知らない?」
「来人くん? さっき友達と一緒に帰ったけど」
「ありがとう。 ちょっと来人くんに用があるから私行くね」
それを聞いて一依は急いで昇降口へと向かった。 確かに既に靴はなく急いで一依も履き替え外へ出る。
―――いた!!
まだ来人は遠くへ行っていないようで学校からでも見える距離にいた。 彼の背中を追いかける。
―――5人グループでいる・・・。
―――話しかけちゃって大丈夫かな?
来人が楽しそうに談笑しているのを見ると気が引ける。 だが一依の想いは止まらなかった。
「く、来人くんッ!!」
「・・・一依?」
来人だけでなくグループ全員が止まってくれた。
「あれ? もしかして来人が変身させてあげた子?」
既に他のクラスにも噂になっているようでグループの一人にそう言われた。
「あぁ、そうだよ。 早かったな、その様子だと上手くいったのか?」
「ううん。 告白はしなかった」
「はぁ?」
実のところ来人にとって一依の告白を手伝おうなんてつもりはなかった。 来人にとって大事なのは悪い意味で浮いていた一依を変身させ輝かせること。
その後、一依が盛一に告白するならすればいいし、しないならしなくてもいい。 だがいざ告白しなかったとなれば理由が気になるのも確かだった。
「先に帰ってて」
「おっけー。 ごゆっくりー」
二人きりになると一依は俯いた。
―――・・・そうだよね。
―――来人くんは盛一くんに告白するために手伝ってくれていたんだもん。
「どうした? 何かあったのか?」
心配してくれる来人に勇気を出して言った。
「・・・私、盛一くん以上に来人くんのことを好きになったみたい」
「・・・」
「本当にごめんなさい! ここまで綺麗にしてくれて盛一くんを呼び出すこともしてくれたのに。 ・・・でもどうしても私の本当の気持ちを伝えたかった」
来人は言葉を捻り出すように言った。
「・・・あー、そうだな。 一依は本当に綺麗になった。 一依が一番似合うショートヘアにして俺好みのメイクまでしてやった。 今の一依は本当に最高だと思う。 自分に自信を持っていい」
「・・・うん」
「正直、変わった一依は魅力的だと思う。 でもごめん。 俺には彼女がいるんだ」
「ッ・・・」
初めて耳にしたことだった。 小巻が狙っていたことからてっきり彼女はいないと思い込んでいた。
「実はそのワンピースは彼女からもらったものなんだよ。 もし嫌に思ったなら返すなり捨てるなり好きにしていい」
「彼女さんのもの・・・? 彼女さんは私が着ていることを知ってるの?」
「もちろん。 彼女にも協力してもらっていたんだ。 変わらせたい子がいるから手伝ってほしい、って」
―――・・・そっか、そうだよね。
―――こんなに格好いいのに彼女がいないわけがないよね。
来人は学校を見て言った。
「彼女は同じ学校にいる。 ネイルを専門に学んでいるんだ。 授業の終わりが違うから一緒に帰ったりはできないけど」
そうして来人は一呼吸おいてこう言った。
「そしてもう一つ伝えておきたいことがある」
「・・・何?」
「俺は一依以外にも今までたくさんの人を変えてきたんだ」
「・・・!」
「男女問わずな。 二人きりでいることが多くなるから変な噂が流れないように同じ学科の子は避けていたんだけど、一依は何故か放っておけなくて」
「それはどうして・・・?」
「小巻にいじめられながらも必死に堪えて、好きな異性には乙女のような顔をしてとても健気だなと思ったから」
それを聞いて一依は嬉しく思い微笑んだ。
「私を気に留めてくれてありがとう。 私以外にも変えてきた人がたくさんいるって聞いて安心した」
「・・・本当に?」
来人は一依だけ特別扱いしたわけではないと言いたかったのだ。 だがそれをすんなり受け入れられたからか戸惑っていた。
「うん。 来人くんらしいもん。 本当に人を変えることが好きなんだね」
「あぁ。 もう俺の生きがいだろうな」
「これからも来人くんらしく続けていってほしい。 私も来人くんが変わらせてくれたことを無駄にしないよう努力しようと思う」
「ありがとな。 正直今まで変わらせた中で一依の変身が一番大きかった。 容姿も心もここまで変わるとは思ってもみなかった。 俺も一依に勇気付けられたよ」
「そう言ってくれて嬉しい。 スキルを習得するにはまだ時間はかかると思うけど、それまでは来人くんに教わったメイクを頑張るからね」
胸を張ってそう言うと来人は微笑んだ。
「・・・本当に小巻たちを見返すことができたな。 これこそ捲土重来だ」
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