私は蝶になりたい⑩




来人のおかげで変身は成功した。 自分でもハッキリと分かるくらいに変化した。 授業が全て終わると一依の周りに自然と人だかりができる。


「ねぇ、川原さん! どうして急に変わろうと思ったの!?」

「目元がキラキラして超可愛い! それどこで買ったの!?」

「一依さんってショートヘア似合うんだね! コンタクトも凄く似合うよ!!」


群がる女子たちに嬉しく思いながらも困惑してしまった。


―――小巻さんがいなくなったから話しかけてくれるようになったんだよね・・・。


一依から見ると小巻は中心人物で人気者だと思っていた。 自分だけに意地悪するだけで皆はそれを知らないと思っていた。  だがこの様子からするとそうではなかったのだ。

もちろんクラスメイトが本心でどう思っているのかは分からない。 正直素直には喜べなかった。


―――どうしよう、こんなに大勢の人と喋るのなんて久しぶり過ぎて上手く喋れない・・・。


愛想笑いで何とか誤魔化していると救世主が来た。


「お前らー。 一依は先約があるんだ。 世間話がしたかったら明日以降にしてくれー」


来人が輪の中に入ってきた。


「来人くん? ということはやっぱり二人の間には何かあるんだ!?」

「今朝から二人でこそこそ怪しかったもんねー!」


それらの言葉を聞きながら来人は一依を立ち上がらせた。


「残念ながら俺たちは何もやましいことはねぇよ。 一依を借りるぞ」

「キャーッ!!」


的外れなことを期待しているであろう彼女たちを置いて二人は教室を出た。


「あの、盛一くんは」

「呼んだからもう既に待っていると思うぜ」

「そっか・・・」


庭の前まで来ると来人は立ち止まった。


「俺が付き添えるのはここまでだ。 ここから先は一依一人で行け」

「・・・うん。 あの、今日は本当に朝から来人くんにお世話になって」

「まだだ」

「え?」

「まだ変身は終わっていない。 今の一依に一つだけ足りないものがある。 何か分かるか?」

「・・・ううん」


もうこれで完璧だと思っていた。 考えても答えが分からず来人に答えを求めた。 すると来人は一依の頬を優しく摘まみ上げる。


「それは笑顔だ。 大分表情は和らいだけどまだ足りない。 ほら、笑ってみろ」

「・・・」


そう言われ無理に笑ってみると吹き出すように笑われた。


「凄ぇ引きつっているけどまぁ妥協点か。 それなら大丈夫そうだな」

「来人くん、今日は本当に」

「悪いけど改まって礼を言われるのは得意じゃないんだ。 ムズ痒くなるからさ。 だから一依はこのままアイツに告白してこい」


そう言われ力強く頷いた。


「・・・ありがとう」


そう言って自然に笑うと来人は一瞬驚いた顔をした。


「・・・何だよ、笑顔似合うじゃん。 その笑顔を忘れずにな」


背中を押され一依は中庭へと一歩を踏み出した。 そこには既に盛一が待っていた。


「・・・川原、さん?」


綺麗になった自分の姿を初めて盛一に見せる。 彼の動揺がハッキリと伝わってきた。


「川原さん、だよね?」

「・・・うん」

「驚いた、凄く美人になったものだから。 明るい色がとても似合うね」

「ありがとう」

「それで話って?」


話を切り出してくれたことを機に勇気を出す。


「突然でごめんね。 実は私、盛一くんのことが―――」


そこまで言った瞬間脳裏に来人の姿が過った。


―――・・・あれ?

―――どうして今来人くんが出てきたの?

―――今目の前にいるのは盛一くんのはずなのに・・・。


「・・・川原さん? どうしたの?」


―――私は今日一日盛一くんのために自分を綺麗にしてきた。

―――それは間違っていないはずなのにどうしても頭の中では来人くんの存在が大きくなっている。

―――どうして?


「・・・ご、ごめんなさい! やっぱり何でもないです!!」

「あ、川原さん!!」


呼び止める盛一のことを無視し校内へと戻った。 既に校内には来人の姿はなかったが一依は探して走り回った。


―――いつの間にか来人くんは私の中で存在が大きくなっていた。

―――・・・ごめんね、小巻さん。

―――あれだけ否定していたのに来人くんのことが好きになった、って言ったら私は最低な女になる?



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