第11.2話 ことばをおぼえて 後編

 翡翠の塾に通い始めたキニップ。蒼穹と共に色々な言葉を習い、沢山の事を少しずつ、学んでいったのであった。


 2020年6月10日。キニップが翡翠の塾に通い始めて、一週間が経過した。


「おはよう、キニップちゃん」

「おはよう!蒼穹くん!」


 翡翠の指導と蒼穹のお手伝いのおかげでキニップは仔山村の人達の言葉をほとんど覚える事が出来た。翡翠も彼女の成長を良く見ている。


「キニップちゃん、最初に会った時よりも明るくなったわね。ここの言葉を思ったよりも早く覚えちゃうとは、ビックリだわ」

「みんなのおかげだよ!今日もよろしくね!せんせぇ!」

「今度は、キニップちゃんの住んでた所の言葉も教えて欲しいな」


 最初に会った時から見違えるほどに蒼穹とキニップはお互いに十分なコミュニケーションを取れるまでになった。


「それでは、今日の授業を始めます」

「「「はーい!!!」」」


 今日も翡翠先生の授業が始まる。蒼穹とキニップ達は一生懸命に勉強した。


   * * * * * * *


「今日の授業はここまでです」

「「「ありがとうございました!!!」」」


 塾の時間が終わると、キニップは蒼穹を初めて会った草原に呼び出した。


「どうしたの?キニップちゃん」

「実はね、えっと……」


 キニップはモジモジしながら、こう言った。


「蒼穹くんの事、これから、なんて呼べばいいのかな?」

「えっ?」


 突然の一言に驚く蒼穹。


「ソウキューっていう名前も素敵だけど……私としてはまだちょっとそう呼ぶのは恥ずかしくて……だからこう、もっと楽しく呼びやすい言い方が良いなって思ったの!でも、今の私じゃ良いのが分からなくて……」


 キニップは蒼穹にこう打ち明けた。


「教えてくれたら、これからその名前で呼んであげるかラ!」


 勢いに乗るキニップを前にして蒼穹は少し考える様子を見せて、こう言った。


「じゃあ、僕の事は『ソウくん』って呼んでくれる?」


 蒼穹はキニップに自分の呼び名を提案した。


「え……それで、いいの?」

「僕にはこれしか思い付かなかった。けどキニップちゃんがそれでいいなら、いいよ」

「本当に!?ありがとう!ソウくん!!!これからはどんどん、ソウくんって呼ぶよ!」


 喜びをあらわにするキニップ。すると、蒼穹はこう言った。


「僕の方からも、呼び方言っていいかな?」

「私にも!?聞かせて!」


 蒼穹は照れ気味にこう言った。


「キニップの事、『キニィちゃん』って呼んでもいい?」

「うん!いいよ!いつもの名前より素敵かも!これからもよろしくね!ソウくん!」

「よろしくね、キニィちゃん……」


 この時から、蒼穹とキニップはお互いをソウくん、キニィちゃんと呼び合うようになったのである。


「それじゃあ、今日はこれで遊ぶ?」


 蒼穹は青いボールを取り出した。以前から翡翠や翔多と遊ぶのに使っており、今日はキニップと遊ぶために持って来た。


「ボール!私もおとーさんと一緒に遊んだ事あるよ!」

「それじゃあ、やってみよう」


 蒼穹とキニップはボールをトスし合って遊び始めた。


「いくよ、キニィちゃん!」


ぱしっ


「うん、ソウくん!」


ばしっ


 お互いの呼び名を呼び合いながらボールをトスし合っている。こうして、二人はさらに心の距離を近付かせていくのであった。


   * * * * * * *


 2020年6月20日。部屋の中で遊んでいる蒼穹とキニップの所に翡翠が来てこう言った。


「明日、友達の求ちゃんが遊びに来るの。また色々と調べたいみたいよ」

「求さん、また来るんだ」

「求って、あのキュウ・ハクブ!?」

「あ、そういえばキニップちゃんも仔山村に来る前に会ってたわね」

「そうだよ!おとーさんのサンドイッチを食べたら仔山村の地図をくれたの!」

「それで、キニィちゃんはここに来たんだ。求さんに後でお礼言ってあげようね」

「うんっ!」


 キニップは元気に応える。蒼穹と翡翠も笑顔を浮かべていた。


   * * * * * * *


 ……そして、君と私と、聖流君は、仔山村に来て蒼穹とキニップに出会った。あの時の事、思い出したかな。


 それにしても、蒼穹も、キニップもお互いの適応力の高さに驚いているよ。キニップは言葉をほぼ数日で覚えて蒼穹もキニップを優しく受け入れている。この二人ならきっと世界中、いや銀河中でも適応出来そうな気がするよ。


 ちょっとスケールがデカ過ぎる話をしてしまったな。次回は何を語ろうか。いいネタが見つかったら、また聞かせよう。


 それでは、今日はこの辺で。


 本編第12話へ続く。

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