第6.2話 僕と、私の、ひと夏の触れ合い 中編

 眼光症を持つペリドットに会うために

遠路はるばるやって来た求。

共にやって来た研究員達と共に

ペリドットとの共同生活が始まった。


   * * * * * * *


 7月6日。

朝食を共にして語り合う求とペリドット。


「ペリドット君、君は普段どんな風に

過ごしているのかな」

「勉強や運動は家庭教師から教わってる。

沢山の子供が通う学校には

まだ行く勇気が無いんだ」


 ペリドットは生まれてこの方

学校に通った事が無いという。

求はふと翡翠の事を思い出し、ペリドットに

友人の事を語り出した。


「そうか。私の友人も、眼光症を持つ身で

孤独に耐えながらも、学校に通う事で

私という未来を変える存在に会えたんだ」

「そういえば、求さんのお友達も

目が光ってる人なんだよね」

「ああ。全ては友人や君のような人が

沢山の人に分かってもらえる世界を

作るためだからね」

「よろしくね、求さん」


 二人の心の距離は、少しずつ縮まる。

それでも、常に付きっきりというわけにも

いかないので、ペリドットが勉強してる時は

求が各種データをまとめていた。

同僚の研究員も全力でバックアップに

取り組んでいた。

自由時間になると求とペリドットは

その都度近況を語り合ったり

トランプやチェスなどを楽しんでいた。


・・・


 7月12日。

ここに来てから一週間。

求はペリドットに質問した。


「ところで、今はどんな勉強をしてる?」

「こういうのだよ」


 ペリドットの見せたノートには

同世代の子供には難しい問題が

沢山書かれていた。


「随分大変そうだな。私が子供だったら

こんなの辛くて投げ出しそうだよ」

「これでも、僕の実力に合わせて

家庭教師が出してるんだ。将来この家を

受け継ぐのにふさわしい人になるために」

「そうかい。そういえば私も友人のために

沢山勉強して今の仕事があるんだったな」

「求さんも頑張り屋なんだね」


 求の気持ちを察して

暖かい言葉をかけるペリドット。


「ところで、君の最近好きな事は何だい」

「フェンシングだよ。今週末に

大会があって今練習中なんだ」

「ほおう。それなら私も応援に行くよ」

「僕も、頑張るからね」


・・・


 7月16日。

家から少し遠い体育館で

フェンシングの大会が開かれた。


「参加者はみんな自信満々のようだが

君はどうなんだい」

「沢山練習した成果を見せてあげるよ」

「私も、興味津々さ。是非見せてくれ」


 ペリドットは求に勝利を誓った。


 尺の都合もあり、試合は次々進んでいく。

ペリドットは練習の成果を遺憾無く発揮して

次々と勝ち進んだ。


「マスクをすると目の光も隠れるか。

それでもその身体能力は

目を見張るものがあるよ」


 求は観戦しながら

ペリドットの動きを徹底的に分析していた。

もともとアスリートを目指していた記憶が

脳裏に浮かびながらも、1試合ずつ確実に

見届けていた。


 そして決勝戦。

ここまでで、あまり疲れは見えていない

様子であった。


ヒュッ、ヒュッ、バシッ!


 勝者、ペリドット!


パチパチパチパチパチパチ……


 周りから拍手が鳴り響く。

この時ばかりは誰も彼の光る目を

あまり気にしてはいなかった。

表彰台に上がるペリドットを見て、求は

色々な思いを抱えていた。


「翡翠だって、努力をして先生に

なる事が出来たんだ。彼もきっと

自らの努力で願いを叶える事だろう」


 優勝メダルを掲げて、求に笑顔を向ける

ペリドットであった。


   * * * * * * *


 その日の晩には、豪華なパーティーが

開かれた。


「優勝おめでとう!!!乾杯!!!」


 食卓には歓迎会よりも増して豪華な料理と

メロンのデザートが並んでいた。


「君は良くメロンを食べているね。

どうしてなんだい」

「それは、3歳ぐらいの時に食べた時に

すごく美味しかったから」

「私の友人はホットケーキが好物でね。

友人の母が作ったのは絶品だったよ」

「そうなんだ!美味しそう!」

「今度地元に来たなら、一緒に食べよう」


 求は笑顔でデザートを食べながら

眼光症が好む甘い物は人によって違うと

頭の中のレポートに記録した。


   * * * * * * *


 7月23日。

求はパソコンでニュースを見ていた。


「地元は大雨で洪水や停電が起きてるか。

これは相当マズイ事になってるな。

翡翠と翔多、流されてなければいいが」


 そこにペリドットが覗きに来る。


「どうしたの求さん。」

「私の友人の事が心配でね。まああの人が

いればきっと大丈夫だろうけどね」

「あの人って誰?」

「私の友人の友達以上、恋人未満の人さ」


 翡翠の事は翔多が守ってくれると信じて

求はこの日もペリドットを見守っていた。

特に変なフラグ的なものは立ってないはず

だか、仲間の研究員からの伝令が入る。


「現地の空港からです」

「なに……8月末までは帰れないと……?」

「空港でトラブルが発生したそうで。

帰る予定の便が航行不能となり

しばらく出発出来ません」


 その話を聞いて心配するペリドット。


「どうしたの?」

「ちょっとだけ、故郷に帰る日が伸びた。

もうしばらく、一緒に過ごす事にするよ」

「うん、またよろしくね」


 こんな事があっても、いつかは故郷に

帰らないといけない。別れの日が近付く中

二人の想いは揺れ動いていく。ゆらゆらと。


 後編へ続く。

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