第4.2話 ふたりで初めてのコト 後編

 お互い生まれて初めてのデートに臨む美山翡翠と青木翔多。オシャレして、待ち合わせて、会って。まずは翡翠行きつけのゲームセンターで楽しいひと時を過ごした。この後はレストランでの昼食と、ブティックでのお買い物の予定である。


「翔多君は、何食べたい?」

「そうだな、ハンバーグとか」

「私はいつも、ホットケーキがあれば頼んでいるよ。翔多君もどう?」

「たまには豪勢に行きたいものだしな」


 二人はレストランに入り、席に座る。翡翠は二人分のハンバーグ定食とホットケーキを注文した。


「いやあ、こういう時ぐらいしか贅沢出来ないものだよなあ」

「そうなの?普段はあんまりこういうのは食べない感じ?」

「ああ、っていうか、今はそんな暗い話は無しにしようぜ」

「それならごめんね。」

「まあいいよ。さてメシだ」


 翔多は翔多で何らかの事情を抱えているかのような事を示唆しているようだったが、そのうち語られるのかもしれない。そうこうしている内に料理が運ばれる。


「いただきます」

「いただきます!」


 昼食を楽しむ翡翠と翔多。


「どう、美味しい?」

「ああ、美味しいぞ」

「良かった。私も美味しいよ」

「翡翠もこういう時は楽しそうなんだな」

「さて、ここのホットケーキはどんな味?」


 翡翠はホットケーキをひと口食べた。


「美味しい!ここ最近で個人的ベストを更新しちゃうかもしれない味!」

「それは良かったな。」


 すると翡翠は呼び出しボタンを押した。


「どうなさいましたか。」

「ホットケーキ、追加で二枚お願いします!」


 程なく追加のホットケーキが運ばれる。翡翠は美味しそうにほおばる。


「この味わいをもっと楽しんでみたい。もぐもぐ……ああ幸せ」

「なあ翡翠、こう言うのも何だが、そのそんなに食べて大丈夫なのか?」


 すると翡翠はこう言った。


「これでもちょっとは控えているよ。気分良い時は10枚ぐらい食べてるから」

「うわあ……なんてやつだ……」


 とてもじゃないがこんなに食べてるようにあまり見えない翡翠の体型とのギャップに驚きを禁じ得ない翔多の表情。それでも翡翠はお構い無しに追加のホットケーキも美味しく召し上がった。


「ご馳走様。」

「ご馳走様……っていうか凄いよな翡翠」

「この後買い物もあるし、まだまだ楽しんでいこうね」


 翡翠と翔多はレストランを出ると今日のデートのメインイベントであるブティックへと向かっていった。


「今は秋に向けての服が沢山あるね」

「俺はまあ、着れれば何でもいいと思っていたからなあ」

「それなら、翔多君ももうちょっとセンスの良い服探そうよ」

「それもそうだよな。翡翠に言われちゃ」

「そもそもどうしてこういう漢字の付いたシャツを着ているのかな」

「それは、ただ、かっこいいからだ」

「……何となく分かるよ、その感覚」


 お店のディスプレイに並ぶオシャレな服。それを眺めて、翡翠はこう言った。


「ねえ翔多君、私にはどれが似合う?」

「今選ばないとダメか?」

「せっかくだし、意見を聞かないとと思って。後で翔多君のも選んであげる」


 翔多はディスプレイに並んでいる中から直感で服を選んだ。


「これ、着て欲しいなって思うけど」


 翔多が選んだのは白地に葉っぱ柄のワンピース。


「まあ。実は私も気になってたんだ。選んでくれてありがとう」

「そ、そっか。気に入ってくれたのか」

「それじゃあ今度は私が選ぶ番」


 今度は翡翠が翔多に服を選ぶ。白地シャツと緑色ノースリーブジャケット。


「こういうの着ていると素敵かなと思い」

「ああ、そうだな。いい選択だ」

「今度のデートはこれ着て行こうね」

「ああ、翡翠が言うなら、そうするよ」


 こうして、目当ての服も買えて二人はショッパーバッグを持って店を出た。これであとは帰宅するだけである。翔多は翡翠の家まで一緒に歩いてくれた。


「そういえば、初めて会った日もこんな風に送って貰えたっけ」

「あれからもう一ヶ月ぐらいだよな。お前が傷付けられなくて本当に良かった」

「やっぱり私、これからも良い人との出会いは大切にしていきたい。求ちゃんや、翔多君みたいな優しい人の事を私も守ってあげたいから」

「ん?求ちゃんって?」

「私のお友達。いつかお話するね」


 ようやく、翡翠の家にたどり着いて翡翠は翔多に挨拶をした。


「おかげで今日はとても楽しかったよ。また一緒に出かけようね」

「ああ、今度はゲームの方も上手くなってもっと良い所見せてやるからな」

「それじゃあまた。翔多君も気を付けて」

「ああ。またな」


 帰っていく翔多の背中を見続ける翡翠。その表情には一抹の寂しさがあった。もうすぐ大人になる翡翠自身も、いつかは共に生きるパートナーを持つ事になるのだろうか。そして、新たな家庭を育む事になるのだろうか。そう考えている間に、翔多の姿は見えなくなり、翡翠は家に帰って行った。


「お母さん、ただいま」

「翡翠、デートはどうだった?」

「こういうのを買ったよ」


 翡翠は母の郁恵に今日買った服を見せた。


「あら素敵。思えば昔から考古学者を目指して勉強していた頃はオシャレにはあまり時間もお金も使えなかったから」

「そうなんだ。そういえばお父さんとはいつ会ったの?」

「慎吾はとある遺跡を探索していた時に初めて会ったの。遺跡で発見した物の話を沢山していたら自然とその後の探索でも一緒になって。気が付いたら結婚してた」

「そうだったんだ。私もいつか素敵な結婚が出来るかな?」

「今はその翔多君の事を見守ってあげて。その時は私達も出来る限り支えてあげる」

「うん、分かった」


 その日の夜、翡翠は電話で私に今日のデートの事を語ったのであった。


   * * * * * * *


 以上が、翡翠の初デートの話だ。あの後も、二人は何度かデートをして翡翠は学校の先生に、翔多はアルバイターになった後も関係は続いて、やがて新たな命が生まれるきっかけになって……。


 これ以上の事は是非ともあおぞらきのみ本編を見て欲しいものだな。私も将来は良いパートナーに恵まれたい。誠意を忘れなければきっと大丈夫だろう。また、私の話に付き合ってくれるかな。


 では、今日はこれにて。


 本編第5話へ続く。

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