あおぞらきのみ~APPEND EPISODE~

早苗月 令舞

第4.1話 ふたりで初めてのコト 前編

 やあ、君か。……と言いたい所だが。この先私が語る事は美山翡翠と青木翔多の人生初デートのお話だ。まずこの二人の事を知らないと何の話だか分からないと思われる。だから、少なくとも『あおぞらきのみ』の本編を第4話まで読んだ上でまた来てくれ。


 ……その様子だと、もう読んだよって感じかな。では、今日はあらためてこの間話す事の出来なかった翡翠と翔多の初めてのデートの話を

しようじゃないか。


   * * * * * * *


 2003年8月12日。夏休み真っ最中の出来事。


 翡翠は自宅のクローゼットの前で今日着ていく服をどれにするか迷っていた。


「翔多君って、どういう服装が気に入るのかな……」


 一ヶ月前、翡翠はゲーセン帰りに暴漢に襲われた所を通りかかった翔多に助けられた。その日以来、下校を共にするようになり、昼食も一緒に取るようになったのであった。


「服だけじゃなくて、デートの行き先も翔多君は気に入ってくれるのかしら」


 数日前、夏休みも始まって間もない頃に翡翠は街中で翔多と会った。以下回想。


「なあ、翡翠」

「何、翔多君」

「最近、その、暇か?」

「まあ、勉強以外は特に何も」

「それなら、今度一緒に出かけないか?」

「それって、つまりデートだよね?それなら大丈夫だよ」

「俺もその……つもりさ。俺も翡翠の事をもっと知りたいしな」

「分かった。それじゃあ今度行こうね」


 ……とまあ、その場のノリでデートの約束をしたのであった。


「この服装で、行ってみようか」


 翡翠が選んだのは無地の黄緑のシャツに手作りのうさぎのバッジが付いたものと、カーキのスカートと白いソックス、そして茶色のブーツであった。朝食のホットケーキを食べた後、翡翠は待ち合わせ場所の駅の広場に向かった。



 駅の広場。かつて、親友の私、求と待ち合わせした場所。遠くを通る車を眺めながら、翡翠は翔多が来るのを待っていた。


「翔多君、無事に来てくれるかな……」


 また自分のせいであんな事になったらどうしようと行く気持ちも少なからず抱えていた。……それから数分後。


「よう翡翠、もう来てたのか」


 後ろから男子の声。翡翠が後ろを振り返ると、そこには翔多が笑顔で立っていた。


「良かった……って、なにその格好……」


 翔多は黒字のシャツに赤い文字で


一騎

当千


 と書いてあるシャツを着て下はジーンズとシューズであった。お互い私服姿を見るのは初めてだ。


「着ていけるのが、これしか無くてな」

「でも、翔多君らしくて良いと思うよ!」

「フォローしているつもりかい?まあ翡翠の着てるのもいい感じだ」

「それじゃあ、これから行こっか!」


 翡翠と翔多は笑みを浮かべて初めてのデートの第一歩を踏み出したのであった。


   * * * * * * *


 最初に来たのは、翡翠の行きつけのゲームセンターである。


「うわあ、雑音が凄いよな」

「でも何故か不思議と落ち着くの。私も最初はうるさかったけどね」

「そういえば翡翠は普段からどんなゲームやってるんだ?」

「主に格闘ゲームや音楽ゲームかな」

「それじゃあ、やってみるか!」


 翡翠と翔多はまず格闘ゲームの席に座る。


「っかあっ!!!翡翠めちゃつええ!!!」

「そ、そうかな?これでも手心加えてる感じなんだけど。」


 翡翠のテクニックの前に翔多は手も足も出なかった。


(おっ今日もミドリィが来ている!)

(しかも彼氏まで連れてて!)

(今日こそ勝つ!!!)


 するといつものように挑戦者達がミドリィこと翡翠の席の反対側に 集まってくる。


「翔多、応援してて」

「ああ、分かった」


 それから少し経って……


(ぐわあ!!!いつにも増して強すぎる!)

(やっぱ彼氏がいるから気合い入ってる!)

(末永く連勝しろお!!!)


 ミドリィは挑戦者達をものの見事に蹴散らしていった。


「どう?翔多君」

「リアルのお前も、これぐらい強かったら俺が守る必要は無いかもしれないな……」

「え、何それ……」

「あ、気を悪くしたか?すまねえ」

「大丈夫。でもやっぱりここに座ると、もう一人の私がここにいる感じがして」

「俺も、そう思ったよ。」

「じゃあ今度は協力して進めるのをやってみよう」


 翡翠はコンピューター戦を最後までクリアして席を離れると翔多を協力型のゲームに案内した。


「好きなキャラ使っていいよ。私は高コストで後方支援してるから」

「じゃあ俺はこいつを使うぞ」


 翡翠と翔多は同じ目的に向けて一緒に戦った。


「翡翠は、俺が守る!!!」

「あなたなら出来るわ、翔多君!!!」


 さながら、アニメの主人公になった気分で楽しむ事が出来たのであった。


「おかげで一人よりも楽しく出来たよ」

「そうだな。不思議な充実感を得られた」

「あら、もうこんな時間。お昼ご飯はどこで食べたい?」

「この近くに美味いレストランはあるか?」

「それなら、案内するよ」


 翡翠と翔多はゲームセンターを出てレストランへと向かった。この後の予定は昼食を食べた後ブティックで買い物をする手はずである。二人の初デートは良い思い出になるのか。


 後編へ続く。

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