総集編 第1期を、およそ5000文字で振り返りスペシャル

 やあこんにちは。総集編のナビゲーターを務めさせてもらう眼光症研究者の白部はくぶ きゅうだ。今回は私の親友にして、僅かに存在する先天性眼球発光症の患者である美山みやま翡翠ひすいの半生をこの場を借りて語るとしよう。


   * * * * * * *


 彼女の両親はごく普通の男女だった。大学教授の父慎吾しんごと考古学者の母郁恵いくえ。その二人の間に生まれた女の子は健康そのものに産まれてきた。だが、ひとつだけ普通じゃない所があった。


「目が……赤ちゃんの目が緑色に光っている……!?」


 冗談かもしれないが、本当だ。この子、翡翠の瞳は緑色の光を宿していた。その症状の名は……


先天性眼球発光症せんてんせいがんきゅうはっこうしょう


 30年ほど前から、数億人に一人の割合で眼球が光り輝く人間が生まれる事がある。出生の時点で、既にその瞳には色を伴う光を帯びている。原因は一切不明で、通常の眼球にするための有効な治療法は、現在も見つかっていない。


 しかし、通常の人間には無い特徴として暗い所でも昼間のように辺りを見る事が出来る。高い身体能力と高い知能を持つ。糖分を多く含む食べ物を好んで食べるが不思議と太らない。などの特徴が見受けられる。


 日常生活を過ごす上で一切問題は無いのだが周りから好奇の目で見られるので隠して暮らす患者もいる。


 緑色に光る眼はきっと神様からの贈り物。その女の子は翡翠ひすいと名付けられ両親は大切に育ててくれた。


 小学生の頃から、あまり他人と関わらずに過ごしていた翡翠。勉強もスポーツも好成績だったけど本人の性格柄あまり自慢しなかったそうだ。


 ある日、翡翠は不思議な夢を見た。それは、自分と同じように眼が光る子供達と出会う夢だった。水色のシャツを着た水色瞳の男の子と桃色のタンクトップを着た桃色瞳の女の子。翡翠はその二人と楽しく遊んでこう言った。


「ええっと、あなた達のお名前は?」


 二人の名前を聞こうとした所で目が覚めた。この二人は何者だったのだろうか。


 時は流れ、翡翠は中学生になった。ある日の帰り道に、後ろから誰かが走って近付いて来る。


「ふっはっふっはっ……あっ…!」


 その人こそが。


「私は白部はくぶ きゅう!将来アスリート史に輝かしい功績を残す人だ!」


 言わずもがな、私の事だ。私は半ば無理やり翡翠をマネージャーに任命し、共に世界を目指す事になった。


「良かったら、わたしも一緒に走っていいかな」

「おっ、君もランニングの素晴らしさをその身で知りたいか?」

「はい!仲良くなるには相手を知る所からだってお母さんから聞いた事があるので!」


 翡翠も私の夢を応援するために共に走った。しかし、体力なら翡翠の方が圧倒的にあった。ガリ勉眼鏡君と侮った事は今でも猛省している。


 それでも、翡翠と私はお互いを高め合う親友同士として毎日を楽しく過ごした。だがしかし……!


「はい、美山翡翠です。えっ、ええっ!?」


 一緒に遊びに行く日に、私は交通事故に巻き込まれてしまった。左半身を大きく負傷して左目は失明。アスリートとして活躍する事は二度と叶わぬ願いとなった。


 再び心を閉ざした翡翠。しかし、卒業式の日に私は翡翠に新たなる夢を語ったのだ。


「私の新たなる将来の夢、それは……。人間の特異体質を調べる科学者となって君の瞳の秘密を解き明かす事だ」


 私は自分に突き刺さった現実に絶望した時、夢の中で、翡翠と会っていた。


「私は……ご覧の有様だよ。もはや夢は叶わない。このまま生きてたって、仕方あるまい」

「そんな簡単に諦めちゃダメだよ!求ちゃんにはもっと、人の役に立てる事が出来るはずだよ!」

「それは、どういう事なのか?」

「わたしにも、分からない。けど、求ちゃんならきっと見つけられると思うよ!だから……自分は価値の無い人間だなんて思わないでよ!!!」


 夢の中で翡翠に励まされた私は新たなる夢として眼光症の研究者になる事を選んだのだった。今君の前にいる私の事だ。


 翡翠と私は別々の高校に進学してお互い勉強を頑張っていた。翡翠は学業の合間にゲーセンに通い抜群のセンスを見せつけていた。


 しかし、ある日の帰り道。翡翠は不良に絡まれてしまった。絶体絶命のピンチに陥った翡翠を救ったのはあの男であった。


「その子が嫌がってるじゃないか!離してやれ!」


 颯爽と現れた白馬の王子様の如きムーブを決めたのが、同じクラスの青木あおき翔多しょうただ。


「ワン!ツー!」


バシッ!バシッ!


「アッパー!」


ズバッ!


「ラウンドハウスキック!!!」


ズゴォッ!!!


 彼は目にも止まらぬ早技で不良達を追い払い、翡翠を救ってくれた。


「お前だってちゃんとした人じゃないか。その緑色に光る目も、すごい所だ」

「え……この瞳を怖がらないの……?」


 翔多は翡翠の目を見ても怖がらない。不思議な男子だった。


 その後彼とは友達同士となり、昼食の時間や帰り道も一緒にいてくれたり、デートまでする関係に至っていた。


 楽しかった学校生活もやがて終わり、翡翠は学校の先生になった。


「まだ声に出して言う自信が無い?そんな時は、心の中で読んでみるといいと思うよ。」

「せんせぇ……ありがと…ね」


 翡翠先生は生徒達との仲も良くてみんなの憧れの的になっていた。つかの間のある休日に、翡翠はあの男と再会していた。


「翔多君、久しぶり!」

「おっ…翡翠じゃないか!ここにいたのかよ……」


 翔多は幼少期から両親との仲が悪く、この時は様々なバイトを転々として食い扶持を得ていたのであった。


「分かったわ。それじゃあ疲れたならいつでもここに寄って」


 翡翠のこの発言が、後に思わぬ事態を引き起こす事になろうとは。


「こんな夜中に済まない。実はな、俺の家差し押さえられたんだ」

「それじゃあ、自分で出来る事は自分でするのを条件に、この部屋で暮らしてもいいわよ」


 帰る家を無くした翔多はやむを得ず翡翠と同居する事になったのであった。一方で私は遠い所の眼光症の少年ペリドット君に会うために地元を離れた。


 私が居ない間に、翡翠と翔多はラブラブあまあまなカップル生活を満喫して、ある雷雨の夜に……。


「今日の夜は、ずっと、こうしていたい。だからお願い翔多君、一緒に居て」

「分かってるよ。もうお前に怖い思いだけはさせたくない。だから俺がずっと翡翠を守ってやる」


 こうして、翡翠はその身に新たな命を宿す事になったのであった。狼狽える翡翠に、私は言った。


「…翡翠よ、君の友達として意見するよ。その子供、どうか産んでくれないか」


 眼光症の子供が生まれるというのは、私にとって大きく研究を進める事になる。私と翔多と仲間達で翡翠の子供を育てると強く誓ったのであった。しかし、私の胸中は複雑だった。


「翡翠よ、こんな私を赦してくれ。本当は私だって教師の仕事を続けて欲しかった。でもこんな事態になってしまって。夢を絶たれ、新たな夢を掴んだ私が……今度は翡翠の夢を断ち切る事になるなんて……」


 翡翠は教師を退任して、実家で子供を産む事になった。あの時の決断は間違って無かった。当時は自分にそう言い聞かせていた。翡翠の中の命は日に日に大きくなった。そして……


 空が雲ひとつなく晴れ渡った朝。


 その時はやって来た。


オギャア……オギャアアアッ!!!


 翡翠が産んだ男の子の目はこの日の空の色をそのまま映したような水色の光を放っていた。


「この空の色を瞳に宿して産まれて来たこの子の名前は……」



蒼穹そうきゅう



「この名前が、私が込めた祈りです。今こうして広がる青い空のように、心の広い人間として育って欲しいという願いを込めて」


 翡翠の息子、蒼穹はすくすくと育った。2歳の冬、翡翠は一通の手紙を受け取る。それは、「仔山村こやまむら」という普通じゃない人達が暮らす村からであった。この村で暮らせば、蒼穹をのびのびと育てる事が出来るし、翡翠は先生として村の子供を教育して、翔多は雑貨屋として家計を支えていく事が出来る。


 蒼穹の家族は実家を離れ仔山村に引っ越した。時は流れ、蒼穹7歳の誕生日。蒼穹は胸元に雲のマークが付いた水色のシャツを着た。


「超カッコイイじゃないか!最高に似合っているぜ!なあ翡翠!」

「ええ、そうね。まるで、いつかどこかで出会った水色の瞳の男の子みたいで……ハッ!!!」


 翡翠はその姿に、夢で出会ったあの男の子を思い出したのであった。そして、もう一方の女の子の方は……ここからずっと遠い所で産まれた。


 イチゴ農家の父ガンツとファッションモデルの母モアの間に産まれたキニップ・ベリーニ。PINKの逆読みの名前だそうだ。両親はごく普通の人だったが、その子は桃色に光る瞳を持って生まれてきた。モアはバケモノ呼ばわりされて失脚し表舞台から消えてしまった。


 ガンツは妻と娘を養うために、キャンピングカーを改装してキッチンカーを作り、ベリーニ号と名付け各地を転々として商売をしていた。


「まあ、二度とここには帰らないつもりでの出発だ。俺としても、これは一世一代の挑戦だな!」


 サンドイッチを売り、休日は妻子とキャンプを楽しむ一方で、ガンツは目が光る現象を必死に調べていた。そして、辿り着いたのが、私だ。私とガンツはメールでコンタクトを取りお互いの情報を交換し合った。夫婦は私が撮った蒼穹達の写真を見ると興奮した。


「モア、見てくれ、この人達を」

「あら……本当に目が光っている!」

「きっとキニップにも……友達が出来るかもしれないぞ!!!」


 そして、直接会う時が来たのだった。


「あなたが、キュウ・ハクブだな」

「いかにも。君達がベリーニ一家だね」


 私は、目の前の男が本物かどうかを試すために、ある勝負を仕掛けた。


「よろしければ、そのサンドイッチを私にも食べさせてくれるかな。言っておくが私は不味い料理にはビタ一文払わない主義だ」


 私の発言を受けて、ガンツは自信作のイチゴサンドを差し出した。その美味しさは、非の打ち所も無かった。


「サンドイッチ、美味しかったよ。でも生憎、現地の通貨を持ってなくてね。これで勘弁してくれるかい?」


 渡したのは、仔山村への地図である。ガンツは妻子とベリーニ号と共に海を渡り蒼穹達の住む仔山村へと向かうのであった。


 そして、二人の8歳の誕生日に。


「わっ!」

「あっ!」


 蒼穹とキニップは、初めて出会った。 水色の瞳の男の子と桃色の瞳の女の子。


「え、ええっと、君はだれ?」

「エ…ア…アウ……?」

「僕は……蒼穹……よろしくね……君は……誰なの?」

「ア…アウ…アウゥ……!」


 言葉が通じない二人。そこに。


KNIPキニップ!!!!!!」

「マーマ!」


 キニップの母モアが呼んだ。しかしキニップは水色の瞳の男の子ともう少し居たいと告げるとすぐ戻ってきた。


「…………!」

「…………?」


 キニップは蒼穹に右手を差し出した。


「………………」


 二人の間に少しだけ沈黙があった後。


「…………!」


 蒼穹は自らの左手をキニップの右手に伸ばして、握った。



 蒼穹とキニップは初めて、手を繋いだ。



(この子の手、とっても温かい。まるで誰とでも友達になれそうな感じ)

(この人の手、何だか優しい。みんなを包み込んでくれそうだわ)


 二人は、こんな事を考えていた。言葉が通じなくても、目が美しく光るのが同じなんだから、心が通じ合った気がした。


「あ、あなた達が向かいの家に引っ越して来た家族なのね」

「ハ、ハーイ、そうデース!」


 お向かい同士の家になった美山家とベリーニ家はお友達同士となり偶然にも同じ誕生日の蒼穹とキニップの合同誕生会も行われた。


「ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデーディア蒼穹ー♪ハッピバースデーディアキニップー♪ハッピバースデートゥーユー♪」


 それから数日後。


 翡翠は、蒼穹とキニップと一緒に黄色い花が咲く草原で一緒に遊んでいた。


「この景色、昔夢で見た事がある……」


 幼少期の夢を思い出した翡翠。その目の前には、水色の瞳の男の子と桃色の瞳の女の子がいた。緑の瞳の女性は、その二人に近づくと心身共に子供になったつもりで一緒に遊んだのであった。そして、翡翠はこう言った。


「ええっと、あなた達のお名前は?」


「僕は美山蒼穹」

「私はキニップ・ベリーニ!」


 夢が、本当の事になった瞬間だった。


 翡翠がひとつの幸せを手に入れたのは、優しい人達に恵まれただけではなく、自分自身の努力のおかげでもあった。これからは蒼穹とキニップが、新たなる世代として新たなる物語を綴っていく番なのである。


 今日も蒼穹とキニップは手を差し出す。


「「さあ、一緒に遊ぼうよ!!」」


   * * * * * * *


 いかがだっただろうか。これが、あおぞらきのみ第1期の大まかなあらすじである。本当はもっと見せたかった場面も沢山あったのだが、そこは是非とも本編をチェックして欲しいものだ。


 さて、いよいよ私達の研究も新たなるステージに突入する事になる。何せあおぞらきのみ第2期は以前にも増して明るくて楽しく優しくて尊い蒼穹とキニップが見れるからである。この二人の行き着く先とは。そして、眼光症のもたらす未来とは。


 もちろん、私達や翡翠と翔多、もちろんモアとガンツも楽しい日々を応援するよ。全てが新しいあおぞらきのみ第2期は2023年7月5日より毎週水曜日掲載となる。君はこれからも、研究を手伝っておくれ。よろしくお願いするよ。


 それでは、また会おう。

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