【リアルお化け屋敷】
「お化け屋敷、超コワかった~」
「話題になるだけあったわ」
「リアルだったね」
「お金かけてるからな」
「あれ、さっきの幽霊の人だ?」
「本当だ」
キャストは係員から給料袋らしきものを受け取ると、すぅ~っと消えていった。
「……どういうこと!?」
「本物の幽霊を採用して働かせてるんだよ」
***
「私たちが見ていたのは、ホンモノの幽霊だったってことなの!?」
私、普段は幽霊なんて信じない。けど、らしきものを目の当たりにして困惑してしまっている。
「ああ、そうさ。この遊園地、資金がケタ違いでさ。あの世からでもキャスト呼べるんだよね」
いや、彼氏さん。あなた淡々と言いますけれど……
「資金の問題じゃなくない?」
お金でどうこうできる問題じゃない気がするんだよなあ、コレ。
「実力のある降霊術士を介して、向こうの人材派遣会社と提携してるんだって。世の中お金だよねえ」
「誰よ、あの世にまでお金の概念持ち込んだヤツ」
死んでからもお金の奴隷じゃん!
「っていうか、あの世に人材派遣会社とかあるんだ!? あの世に行っても働かないといけないだなんて……」
なんてこった。死んだらもう働かなくて済むと思っていたのに。
「大丈夫。あっちに逝けば、楽しく充実したサラリーマン生活が送れるよ」
「へ、そうなの?」
意外と、超絶ホワイト企業ばかりってことなのかな?
だとしたら死後の生活にも希望が……
「うん。霊体は疲れとか知らないから、いくら働いても死ぬことないって。24時間休むことなく働けるらしいよ」
「超絶ブラックだった!」
なんか、黙ってればいくらでも無賃労働させられそうなんですけど。
「あれ? さっきのキャストさんだ。なんかこっち見てる」
「え?」
見るとキャストさんが再び現れて、遠目にコチラを見ている。
「あ、俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「今!? 今行くの!? ってか今日何度目!?」
「尿意、ドン!」
そう言うと彼は駆けだした。
デート中にトイレの回数が多いのはまだ許せる。
でも、幽霊と目が合った状況で、彼女を置いてトイレに行く彼氏ってどうなんだろう。
「み~た~な~?」
「ひい!?」
いつの間にか、先ほどのキャストさんは私の目の前まで距離を詰めていた。
「あっはは。すみません、驚かせちゃって」
「い、いえ」
さすがにホンモノなだけあって、怖がらせるの上手いわー。
……って、感心してる場合か!
「あの、ホンモノの幽霊って話、本当なんですか?」
「ふふふ。どっちだと思う?」
そう言うとキャストさんはにこやかな笑みを浮かべた。
私は確信した。
この人、っていうかこの幽霊……。
「ホンモノですよね?」
そう思う理由はいくつかある。
まず、こうやって明確に答えないところ。
次に、初めて生理痛に悩まされた時の私を超える生気の無さ。
それから――
「ははっ。実際にどうなのかはご想像にお任せしますっ」
とかにこやかに笑ってるけど、下半身が半透明で足元に関しては完全に見えない!
誰がどう見てもホンモノの幽霊だった。
「足、無いですけど……」
「最先端の特殊メイクかもよ?」
だとしたらこの世界は進み過ぎてるだろ。
「そ、そうだ。幽霊さんに聞きたいことがあるんでした」
せっかくの機会だ。死後の世界のこととか、色々聞いておこう。
「幽霊さんはなんでお化け屋敷の仕事をしているんですか?」
「おお、いい質問だね」
おっと、ちょっと生き生きしだしたぞ。
このまま生き返ってしまいそうな勢いだ。
「僕は生前、ここで働いていたんだよ」
「え、ええ」
堂々と生前と言っちゃってる。ホンモノの幽霊であることを隠す気は、あまりないらしい。
「今と同じく、お化け屋敷の幽霊役をやっていたんだ」
「それじゃあ、大ベテランさんじゃないですか」
「いや、キャストに任命された初日に交通事故で死んでしまった」
「ええっ、それはご愁傷様です……」
「正確に言うと、甥っ子が遊んでいたミニカーが僕にぶつかって、それを本当に車にひかれたと勘違いしてショック死した」
「演技派過ぎる!」
ごっこ遊びに入り込み過ぎだろ!
「まあでも、普通にそのまま逝っちゃったんだよね」
「へえ。地縛霊とかにはならなかったんですか?」
怪談でよくある話としては、目的を果たせなかった霊がその地に居座り続ける、みたいなのはよく聞くけれど。
「いやあ、お恥ずかしい話。僕には幽霊役に関しての未練なんて、当初はこれっぽっちも無かったんだよ」
「それはちょっと意外かも」
てっきり、人を怖がらせることができないまま死んだから、生前の目的を果たしたくて幽霊役やっているのかと思ったのだけれど。
「僕も今ここで幽霊役をやっているのが、自分でも不思議だよ」
少し自嘲気味に笑う幽霊さん。
「あの世には楽な仕事も沢山あるし、霊体だからいくら働いても疲れない。わざわざ人材派遣を通して現世で働くなんて、普通に考えて非効率さ」
あの世にもちゃんと楽な仕事あるんだな。っていうか、霊体ってやっぱ疲れないんだ。だがしかし、
「でもね、いざ職業選択をするって時に思ったんだ。俺、今まで楽かどうかとか、給料とかそう言うのばっかり気にしてきたんだよなあって」
「……」
彼の言葉が少し、今の私自身にも刺さった。
「だから、一回、やりがいを感じられるような仕事がしてみたい。誰かを感動させるような、そんな仕事をしてみたい」
幽霊さんが生き生きと輝いて見える。いや、生気は無いはずなんだけどね。
「どうせなら生前にやり残したことをやろうって思ってここに来た」
それでわざわざこの仕事をしているんだなあ。なんだか、心震わされちゃった。
「ちょっとずつ人を驚かすコツを掴んでいって、今ではここのお化け屋敷は大評判だよ。僕も、今の自分の仕事と、自分自身に誇りを持っている」
幽霊さんは半透明な拳をぐっと握りしめて、力強く言い放った。
「誰にだって、変われるチャンスはあるんだ。人は、死んでからも変わることができる」
「!」
すごい。なんというか、プロフェッショナル的な、仕事の流儀的なBGMが聞こえてきた気がする。
それくらいプロ意識の高さを感じさせられる話だった。
「だからこれからも僕は、皆を驚かせ続けるよ」
「かっこいいっ……」
私は思わず声に出していた。
「あっはは……つい、熱弁しちゃったね」
「うふふ。ホントですよ」
こちらも、思わず聞き入ってしまっていた。
私も、彼のようにやりがいや、熱意を持って仕事に取り組んでいきたい。
「それにしても今の話を聞いたら、なんだか幽霊さんのこと全然怖くなくなっちゃいました!」
「……えっ?」
私の言葉に、幽霊さんが怪訝そうな表情を浮かべる。
「あっ、なんか私、変なこと言いました?」
「……いや、しかし、まあ」
彼は何事かぶつぶつ、ぶつぶつと呟くと。
「でもそれは、僕の流儀が許サナイ」
その身体から、メキ、バゴ、ガギギとあり得ない音を鳴らし始めた。
そして――
「え? ……ちょ……い、いやあああああ!!!」
***
「きゃああああ!!」
園内全域に私の絶叫が響く。
いつの間にか周囲に人が居なくなっているのは、恐らく幽霊さんによって特殊な結界が貼られているからだろう。
「殺鬱寧ヶら句苦露シ置:ぽ!凛欄稲@リq努夢%△〇!!……」
無数の腕を生やし、頭部には人間の顔のパーツがばらばらに配置されている異形のバケモノが、訳の分からない言葉を吐きながら私を追いかけて来る。
「い、いやああああ!! 助けてえええ!!」
幽霊さんは、「怖くなくなった」という私の発言でプロ意識に火がついたのだろう。必ず怖がらせるべく、いや、一生分怖がらせるとでも言わんばかりに、その身体を怪物に変化させたのだ。
「おっ、楽しそうだねえ」
トイレが終わったのか、彼氏が他人事のように言う。
「何とかしてよおおおお!!」
「あっはっはっはっは!」
私の
この後、私は心の中の恐怖という感情がすっからかんになるまで、散々追いかけまわされた。もうお化け屋敷に関わるのはごめんだ。
それにしても、彼氏はなんでこのアトラクションの真相を知っていたんだろう……。
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