【窃盗魔】

「近頃、色んな事件があるよなあ」


「ほんと。多種多様だよな」


「俺が捕まるとしたら、どんな罪を犯すかな?」


「そうだな。下着泥棒とかじゃね?」


「いや、他人のパンツとか興味ねえし!」


「だよな。あ、そういえばお前が今履いているパンツ、俺が昨日履いてたのと同じだよな?」


「そうだけど?」


「マヌケは見つかったようだ」


「し、しまったッ!」


「俺が昨日履いていたパンツ、なんで知ってるんだ?」


「い、いや、それはだなあ……」


「ええと、警察って110番であってたっけ?」


「あっ、あッ、ちょっと待ってくれよ!」


「まったく。ちょっとだけ待ってやるからとりあえず正直に言え」


「すまん。実は、お前の家にカメラを仕掛けてたんだ」


「ふーん、とんだ変態野郎だったって訳か」


「違う、俺は変態じゃないんだ!」


「変態は皆そう言う」


「なんで知ってるんだ!?」


「おや、マヌケがまた顔を出しやがったな」


「し、しまったッ!!」


「どうやってこんな奴が俺の家にカメラなんて仕掛けられたんだか」


「俺一人でできる訳ないだろ」


「そうか。共犯者がいるんだな」


「し、しまったッ!!!」


「あれ? 俺の家に入ったことがあるのは、お前と、俺の彼女だけのはずなんだが……」


「……」


「ほう、少しはお利口になったらしいな」


「口は災いの元、沈黙は金なり。私の好きな言葉です」


「あ、もしもし? あいつがさ、お前が俺の家に監視カメラ仕掛けるの手伝ったって言ってるんだけど、本当?」


「おいおいおいおい。言ってねえよそんなこと! 俺はその女と黙ってるように約束したからな」


「マヌケもここまでくると才能だな。ちなみに今のは電話をかけたフリだ」


「し、しまったッ!!!!」


「で、なんで俺の彼女とグルなんだ?」


「……った」


「あ?」


「寝盗った、お前の彼女!」


「てめえ」


「違う、俺のせいじゃない。魔が差したんだ。お前のことが好きで、ついお前のものも欲しくなっちまったんだ。だから下着も、お前の彼女も、お前から向けられるさげすむような視線も、全部欲しくなっちまった。自分でも変だと思う。だから、魔が差したせいなんだよ」


「盗みを働くやつの常套句じょうとうくじゃねえか。……いや、ちょっと待て。俺のことが好きだと?」


「そうだ。いつの間にか、お前に惚れちまってたんだ。だから、全部全部、お前から盗みたくなっちまったんだよ」


「そうか。……はぁ、気色悪い。こんなド変態が近くにいたなんてな。……おっ、サイレンの音だ」


「なっ!? 見逃してくれるんじゃないのか!?」


「正直に言えとは言ったし、ちょっとだけ待つとは言ったが、見逃すとは一言も?」


「なっ、おい、離せ! おまわりさん、俺は悪くない、悪くないんだ。

 盗られたのは俺の方なんだ。コイツが、俺の心を盗んだんだ!」


「そんなとんちみたいな言い訳が通用すると思っているのか?」


「とんちじゃない。本当なんだ。おまわりさん、俺はウソなんて言っていない! ウソ発見器にかけてもらってもいい。大事なものを盗まれたのは、俺のほ――」


 パタン。パトカーの後部座席の扉が閉まり、下着泥棒の声はさえぎられた。


「おまわりさん、あとはおねしゃーっす。さーて、彼女に電話しよー。


 ……ああ、もしもし? おう、ありがとな、体張ってくれて。うん、これで無事にアイツから全部奪えたよ。あいつの心も、あいつのこれからの人生も、全部奪ってやった。


 でも、ちょっと焦ったわ。アイツ、俺が心を盗んだって勘付いてたわ。ああいう勘のいいヤツは恐ろしいね。

 びっくりだよ。俺が欲しがっただけあるわ。ああいう、素直で純粋な奴の心っていうのは、早めに奪っておくに限る。


 欲張りなとこが素敵だって? ――だろう。ああ、可哀想なお前。心を奪われたから、どうあがいても俺のことを好意的にしか見れないんだ。

 俺はお前の心を奪った罪悪感で、震えあがるほど興奮しちまってるよ。


 俺は七大罪がひとつ【強欲】。欲しいものは全部奪う。どこの誰の、どんなモノであろうと、全部な」

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