04 the city and its tower
天上から垂れて来ているその糸は、何色に見えているのだろう。
少年がそう思ったのは、糸が何色もの彩りを帯びていたからだ。
「きみはどう思う」
そう問うと、イィサは、こう遠くてはよく見えない、ただ、幾本かあるのだろう、と言った。
「あと……
いずれにしろ、あれこそが、この不可思議な世界の謎の鍵だと思われる。
そう、文字どおり、糸口だ。
「行ってみる」
あれこそが、世界と世界を繋ぐ、糸だ。
イィサに、一緒に来るか、と聞いてみると、
「糸のところまでは、一緒に」
どちらかというと、世捨て人のように、アスファルトと(たぶん)少年のこと以外は無関心だったイィサにしては、珍しい決断だ。
……と、この時の少年は思った。
*
途中、街の中を通過していった。
街は混乱していた。
「一体、何が」
「What`s happend ?」
「対不起? 対不起!」
「Oh la la ! 」
何だ、これは。
今まで、気にも留めなかったが、言葉が乱れている。
これまで、スムーズに意思疎通できていたことが、嘘のようだ。
「行こう」
イィサが、まるで紅海を渡るモーゼのように、混乱する人々の中を突っ切っていく。
少年は、そのあとを必死に追って行く。
「あの人たちにも、糸が」
「見えている、みたい」
人々が不安がるのは、どうやら「元の世界」へ戻されることらしい。
それが、この恐慌状態を呼んだのか。
「何で」
「共通の行動様式に、共通の生活様式。そして何より……共通言語」
それらが失われること。それが恐ろしいらしいと、イィサは結論づける。
だがそこで、少年は疑念を抱く。
「……きみは、怖くないの?」
「……貴方は?」
反問は、答えられないことの証なのかもしれない。
人々の奔流が押しよせる。
さまざまな言語が飛び交う。
「the city」
「the city and its tower」
「balal」
「מִּגְדָּ֑ל בָּבֶ֔ל」
「𒁀𒀊𒅋𒌋」
もしかしてこの街とあの建物のことを言っているのか。
それにしても無茶苦茶だと思いつつも、少年は考えた。
共通の言語が失われる恐怖。
何故それがそんなに怖いのかは置いといて、あの「糸」が何故それを引き起こすのか。
思い出せ。
イィサは波だったが、自分は糸だった。
この街に来たのが。
「つまり、あの糸はこの街と外の世界を繋ぐ糸。外の世界……異世界と繋ぐ糸。異世界と繋がるということは」
「そう、正解」
イィサが宙に浮いていた。
少女のような顔だが、少年のようでもある。
そんな、容貌をしたイィサが宙に浮いていると、まるで……。
「……天使」
「
役割は与えられたが、設定は忘却させられた。
そんなイィサが導く。
だとすれば、天とは何なのか。
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