03 ether
それから、「行き交う人々」とも、少しずつ、会話するようになった。
彼らもまた、実は、どこかから来た人たちだった。
ふだんは、別の場所で煉瓦を作ったり、アスファルトを採取したりしていた。
みんな似たような、砂漠の民の、性別がはた目には分からない衣装をしていた。
最初は、言葉が通じないのではないか、と思っていたが、話してみると、同じ言葉で返事が返って来た。
当たり障りのない会話ばかりだったが、それでも皆、一様に「なぜ、
「――だが、それも最初だけだ」
そういうことを、言う人もいた。
「最初だけだ、じき、慣れる。そうして、ただここに居るだけで、時折誰かと何がしかの会話をして、過ごす。そういう生活になる。じき、慣れる」
むしろ微笑みすら浮かべ、彼は去って行った。
満足している。
そんな様子だった。
「じき、慣れる、か……」
もし、この街を作った者がいるならば、聞いてみたい。
これで満足か、と。
そういえば元の世界で、仮想の街を作って遊ぶゲームがあったような気がする。
この街は、そういうゲームの、ひとつの
少年はまだ、
「しかし、街づくりがテーマ、というにしては、あまりにも……」
この街はあっさりとし過ぎている。
もっと、街を作り、発展させていくというのなら、店や施設などがあってもいいはずだ。
しかし、どこも同じような建物ばかりで、かろうじて、イィサや少年が携わっている建物が、唯一、高さを持っているような気がする。
そんな街だ。
*
「the city、という名に、意味があるのかもしれない」
そう言っても、イィサはこてを左右に動かしたままだった。
特に、振り向きはしない。
だが、会話には応じているように感じる。
元の世界でも、端末片手に顔を向けずに会話していたから、これでも「聞こう」という態度なのかもしれない。
「意味?」
「そう。たしかに、ええと……語としては、シンプル。街、という意味合いだけど」
theと冠しているところから、何かを指し示しているのではないか、と思う。
ここから、何か思いつくかもしれない。
「the……『例の』とか、『あの』とかで使う、定冠詞。ここで、『例の』なんていう表現をするモノとは……」
思考はめぐる。
イィサのこてがとまった。
「そういえば……」
イィサが振り向いている。
何かに驚くような表情をしている。
「そもそも、the cityって、どこの言葉だっけ……」
何を今さら、と少年は思ったが、そこで愕然とした。
少年も、それが、どこの言葉か、思い出せなかったからである。
「…………」
それでも思い出そうとする少年が天を仰ぐと、そこには、何かが見えた。
「糸……」
糸は、天上から垂れて来ていた。
そう、見えた。
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